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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第一部
25/125

打倒!町のチンピラ編4 まさかの長髪参上!

 腰まで伸びたきらめく銀髪と、切れ長の目に宿る紫色の瞳。

恐ろしいまでに整った顔をした彼からは、女性顔負けの妖艶さが漂っている。

驚いたことに、牢の前に立っているのはロキシエル王国第二王子――マドイ・ロキシエルだった。


 目の前に立った第二王子の麗しい顔は、今大層不快そうに歪められていた。

刺繍をあしらってあるハンカチで、口元をしっかりと覆い隠している。


「一体ここはなんてところでしょう。汚いし臭いし、よくこんな所に一晩中いられましたね」


 マドイはまるで当然のように目の前に立っていたが、ラーニャは驚いて腰を抜かしそうになってしまった。


「てってめっ、何でこんな所にいるんだよ!?」

「それはこちらのセリフです。王族に啖呵切った男が留置所送りなんて、実に情けない」


 マドイは呆れたふうに首を二三度横に振った。


「でで、で、な、何の用だよ?からかいに来たなら帰ってくれ」

「そんなわけないでしょう。私は貴方をここから連れ出しに来たんですよ。感謝おし」

「……えっ、なんで?」

「説明は後です。一刻も早くここから立ち去りたいので」


 さっそくマドイが牢の鍵を開けようとするが、ラーニャはそれに待ったをかけた。


「いい。断る」

「はっ!? 何でですか? ここから出してあげると言ってるんですよ?」

「でもよ~。ここで殿下を頼って出たら、結局ロセスと同じ、権力使ったことになっちまう。そんなの気にいらねぇ」

「じゃあ、ずっとここにいる気ですか?」

「だから自分で出る」


 ラーニャはにかっと笑うと、鉄格子を左右の手で一本ずつ掴んだ。

「ふんっ」と、力を込めて左右に引っ張ると、段々鉄格子が軋み出す。

ラーニャがさらに踏ん張ると、ついには鉄格子は完全にたわんで、人一人は通れるだけの隙間が出来上がった。


「……ラーニャ、貴方という人は」


 絶句するマドイをよそに、ラーニャは隙間をくぐって一日ぶりの「娑婆」に出る。


「よう、久しぶり。さっさと行こうぜ」


 薄暗い留置所の廊下を通って詰め所の控え室辺りに出ると、今度はラーニャが絶句する番だった。

なんと、まだ初雪も振っていないにもかかわらず、詰め所中が霜と氷でびっしりと覆われていたのである。

中にはなぜか気絶している警備隊長と呆然と立ち尽くしている警備兵、そして以前ラーニャを迎えに来た執事風の老人が防寒具を完全装備して立っていた。


「お、おじいさんこれは一体……」

「我が主人であらせられる殿下は水の精霊の守護を受けておられます。それゆえ感情が高ぶると、辺りの気温が下がり、霜や氷を生じることがございまして」

「……アイツ、何か興奮することでもあったの?」

「ここの警備隊の腐りきった姿を嘆かれたのでございます。権力者に尻尾を振って住民をないがしろにしていたこと、貴方様をマオ族と言うだけで留置所に送ったこと……。『愚か者めが!!』と渇を飛ばされた殿下のお姿はまさに勇ましく、私は非常に感激を――」


 老人はハンカチで目元を拭いながら、マドイの素晴らしさをとうとうと語ってくれた。

出会い方から言ってマドイにあまりいい印象を抱いていなかったラーニャだが、彼も上に立つ者としての良い所はあるらしい。

しかしあの人形のように整った顔が怒りを露わにしながらブリザード攻撃をしてきたら、大抵の人間は生きた心地もしないだろう。

警備隊隊長が未だに目を覚まさないのも、ラーニャはうなずける気がした。


 氷付けの詰め所を出ると、ラーニャはマドイに「椅子が汚れるから」という理由で有無を言わさずタオル巻きにされ、止めてあった彼の馬車に放り込まれた。

突然の仕打ちにもちろん抗議するが、彼はどこ吹く風である。


「王子様が直々にお出迎えの上に強制拉致とは、一体どんな用だよ」

「そんな重大な話でもありませんよ。ただ貴方に興味がわいたので工場まで来て見たら――」


 マドイは懐から見覚えのある手紙を取り出した。


「こんな物が落ちていたのでね。地図の場所に住んでいる青年から事情を聞いてみて驚きましたよ。相変わらず無茶なことを……」

「でもわざわざオレなんかの所に来るなよなー。オレのどこがそんなに気にかかるんだ?ひょっとして猫耳マニアとか?」

「男の猫耳に興味はありませんよ。ただ、貴方が私に無い物を持っているようなので」


 ラーニャは怪訝な顔をして首をかしげると、タオルからはみ出ていた尻尾を左右に振った。


「この尻尾はオレんだからな。やらねぇぞ」

「このおバカ。邪魔臭い尻尾なんていりませんよ。貴方は頭に足りない物が多いようですね」


 馬車が城に着くと、ラーニャはいきなり待っていた侍女たちにタオル巻きのまま連れ去られた。

彼女達は皆、なぜか嬉しそうに笑っている。


「お、お前ら何なのよ」

「私たちは、マドイ様の侍女にございます。ラーニャ様があまりにも汚いとのことなので、お風呂に入れさせていただきます」

「ちょっ、やめろ!」


 タオルに巻かれたラーニャはろくに抵抗することも出来ず、そのまま風呂にぶち込まれた。

ここには主人のマドイだけ出なく、メイドまで強引なのが揃っているようである。

ラーニャは彼女らにまるで洗濯物のように扱われた後、無理やり新しい服に着替えさせられて、ようやくマドイの待っているという客室に通された。


「なんなんだよいきなり。オレは捨て猫か!?」

「似たようなものでしょう。汚かったんですもの。あの格好で王宮を歩かれたらたまりません」


 マドイのいうことにも一理あったので、ラーニャは黙って進められた椅子に座った。

ここはマドイの住む宮なのだろうが、ミカエルの所に比べて色彩が強く、なおかつ華美なものが多い。

普段の服装から見ても、彼は派手な物を好む性質のようである。


「……それで、オレに用って何?まさかまたミカエルと縁を切れとか言わないよな?」

「違いますよ」


 マドイはふっと、その麗しい顔に微笑を作ると、艶のある声で囁いた。


「改めてお願いしますが。我国の魔法技術のためにも、魔導庁に来ていただけませんか」


 始めは冗談かと思ったが、彼は本気のようである。

ラーニャはマドイの二回に渡る勧誘に驚き、大きな金色の瞳をぱちくりさせた。


 この話で、第一部が終了です。

もしよろしければここまでの感想をお願いします。


次回からは第二部、精霊隠し編が始まります。


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