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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第一部
23/125

打倒!町のチンピラ編2 テメェらなんか大人じゃねぇ

 ラーニャは攫われそうになっている少女に近付くと、彼女を抱えている男に素早く回し蹴りを食らわせた。

「おふっ」という声を残して、男はレンガが敷き詰められた通りに沈む。


「こんな小さな子攫ってどうするつもりだ?このロリコン共め!!」


 残っている取り巻き二人とロセスにラーニャはメンチを切った。

取り巻きの男たちが凄みながら迫ってくるが、ラーニャは意に介しない。


「やるならこいよ。相手してやる」


 ラーニャの挑発に男たちは乗った。

そして五秒でケリがつく。

もちろんラーニャの勝ちだ。


 やせっぽっちの少年が成人男性二人をのしてしまったことに、ロセスはもちろん通りがかりの人々も驚いていた。

ラーニャはにんまりと笑うと、ロセスにゆっくりと近付く。


「残りはテメェだけだ。どうする?」

「おっ、おぼえてろ!!」


 ロセスは倒れた二人を置いて、一目散に馬車に乗り込んだ。

これぞ小悪党の見本のような捨て台詞と逃げ方である。


 ロセスが去り、通りには再び静寂が訪れた――ように見えたがそう上手くはいかなかった。

なんと彼による少女誘拐を防いだラーニャに、一斉に町の人間が詰めよってきたのである。


「おいマオ公なんてことしてくれたんだ!」

「あんなことして、ロセス坊ちゃんが黙っていると思ってるのかい!」

「消えろマオ公!!」


 これにはラーニャも驚いて、しばらくの間言葉が出なかった。

だがやがて正気を取り戻すと、牙をむき出しにして群衆に怒鳴りつける。


「じゃあどうすれば良かったんだよ。あのまま見て見ぬふりしろってか!?」


 一番近くにいた恰幅のいい中年女性がそれに答えた。


「ああそうだよ。黙って見てれば良かったんだ」

「テメェら……。あのまま連れてかれたらあの子がどうなるか分かっただろ!?」

「仕方ないだろ。目を付けられちまったんだから。長い物には巻かれろ――悲しいけどそれが大人の対応ってもんさ。マオ族にゃ分からないかもしれんがね」


 彼女はあからさまにラーニャに侮蔑の視線を送る。

ラーニャが黙りこむと、町の人々は今度は攫われそうになった少女をなじり始めた。


「どうしてあの時抵抗したんだ」

「黙って連れてかれればこんな騒ぎにゃならんかったんだ」


 彼らは少女を囲い込み「お前のせいだ」「お前さえ我慢すれば」と責めたてる。

母親も頭を下げるばかりで彼女を庇おうともしない。


(もうダメ。テッペンきた)


 ラーニャは無言で群集の輪の中に入ると、一番少女を罵倒していた中年男性を殴り飛ばした。

哀れな彼は弧を描いてふき飛び、そばにあった魔光灯にぶつかる。

とんでもないラーニャの振舞いに、群集の視線は少女からラーニャに戻った。


「やいコラテメェら。この町は随分立派な『大人』の集まりなんだなぁ。『平和に生活したいんです。だから犠牲になって下さい』『あなたさえヒドイめにあってくれれば、こっちは楽しく暮らせるんです』ってことだろう?クソ野郎共が」


 ラーニャは胸をそらすと、群集に向かってまるで射抜くように指差した。


「いいか。テメェらなんか大人じゃねぇ。テメェらみたいのは単なる『卑怯者』ってんだ。(ちい)ちぇ女の子差し出して、テメェのちんけな生活守ってやがる。オレがマオ公ネコならテメェらは負け犬だ!!」


 ラーニャの啖呵に群集が静まり返る。

彼らに向かってさらにラーニャは続けた。


「もしこれ以上この女の子になんかほざいたら、そいつはオレがぶっ飛ばす。文句あるならオレに言いやがれ!!」


 ドンと自分の胸を叩く彼女に何も言えなくなったのか、群集は次第に散り散りになった。

ようやく収まった騒ぎを見て、少女の母親がラーニャに頭を下げる。


「マオ族の方。このたびはホントに……」

「テメェも母親なら、謝ってないで娘守んな」


 無言になった母親と何度もお礼を言う少女に背中を向ける。

ラーニャは言いたいことはいったものの、まだ気分が悪かった。


 翌日になっても彼女の機嫌はあまり良くならなかった。

仕事が終わったら、また同じ時間に同じ場所を通って帰らなければならない。

仕事終わりにふさわしくない気分でラーニャが工場を出ようとすると、出口の所で年端も行かぬ少年が話しかけてきた。


「君がラーニャ?」

「ああ、そうだけど」


 ラーニャが答えると、少年は手紙のようなものを押し付け、一目散に逃げて行った。

首をかしげながら渡されたものを見ると、表にロセスの名が書いてある。


(なんだ……?)


 封を開けてラーニャは驚いた。


『エドと彼の祖母を人質に取った。彼らを見殺しにしたくないなら下の地図に書いてある場所に来い』


 手紙内容は完全に脅迫であった。

しかも何の関係もないエドと彼の祖母を人質に取るなんて、汚いこと極まりない。

警備隊に通報しようかと思ったが、エドの話どおりならば警備隊もあてにならないことになる。


「ふざけやがって」


 ラーニャは怒りに任せたまま手紙を地面に叩きつけると、地図に記された場所へ走った。

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