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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第一部
2/125

はじまり編1 出会い

 この作品には物凄く言葉遣いが悪くて乱暴な女の子が出てきます。

あらかじめご了承ください。

 この作品には美形キャラが多く出てきますが、まともなのは一人もいません。

あらかじめご了承ください。



 今日も工場は六時過ぎに終わった。

既に暗くなった町には橙色の明りが灯る。


 朝六時から丸一日中働いて得られる対価は銅貨二枚。

肉体を酷使する紡績工場での仕事を考えれば少なすぎる報酬だが、それでもラーニャ・ベルガにとっては貴重な収入であった。

なにせマルーシ地方出身の(マオ)族と言うだけで仕事にありつけないことがしばしばなのだ。

ラーニャは特技があるおかげで何とか雇ってもらえたが、仕事ももらえず飢えたまま街をさ迷い歩く同族たちは多い。


 ラーニャは体中に染みついた機械油の匂いを振りまきながら、寝るためだけの下宿に向かって歩いた。

下宿に近づいて行くたびに、どことなくざわついた、ガラの悪い空気が漂ってくる。

それもそのはず、今住んでいる下宿は王都の中でも特に治安の悪い地域にあった。

若い娘が一人で歩いていたら、半刻もしない間に連れ去られてしまうような、そんな所だ。

ラーニャだってここに住むのはハッキリ言って嫌でしょうがなかったが、これも故郷で待っている家族のためである。


 ラーニャがいつものように浮浪者の間をすり抜けながら下宿につくと、野太い男たちの叫び声と、甲高い少女の悲鳴が聞こえた。

見れば、いかにも人攫いのような人相の悪い男たち数人が、まばゆいばかりの金髪をした少女を取り囲んでいる。


「誰か助けて……」


 少女の悲鳴が段々か細くなっていくのを聞いて、ラーニャは一人で男たちの前に飛び出した。


「オイコラ。テメェらよってたかって何やってんだ」


 ラーニャは金色に光る瞳で、自分よりもはるかに高い位置にある男たちの目玉を睨め上げた。

屈強な男たちのなかで、やせっぽっちとも言えそうな小さな子供が一人。

傍にいる浮浪者たちには、ラーニャがわざわざ負ける喧嘩を仕掛けたように見えただろう。


「どきなボウズ。痛い目見るぞ」

「やだね。それにオレはボウズじゃねぇ!」


 そう叫ぶが早いか、ラーニャはちょうど目の前にあった男のみぞおちに正拳突きを食らわせた。

うめき声も上げぬまま、男は薄カビだらけの石畳の上に崩れ落ちる。


「このクソガキイィ!」

「殺しちまえ!」


 周りの男たちが色めき立つ。

即座に一人がラーニャの右頬に拳を叩きこもうとしたが、ラーニャは片手でそれをいともたやすく受け止めて見せた。

倍はあろうかという大きな拳を、軟球のように受け止めてみせるもみじのような手。


「あばよ」


 ラーニャはそのまま腕を軸に彼を振り上げると、容赦なく石畳の上に叩きつけた。

暗い街に響く鈍い音と、間もなく飛び散る石畳。


「こ、コイツ。化けモンだ」

「ひょっとして魔導庁のゴーレムか!?」

「だとしたらヤベェぞ!!」


 男たちは自分たちの台詞によってますます怯えたのか、のびた二人の仲間を置いて逃げ出した。


「誰がゴーレムだよ!オレはれっきとした人間だ、人間!」


 そう、ラーニャはれっきとした人間である。

ただ少し人と違う所があるだけで。


 逃げた男たちに向かって文句をたれながら、ラーニャは道端にうずくまった少女を助け起こした。


「お前、大丈夫かよ」

「うん……。なんとか」


 少女はまだぼんやりとした調子だった。

上質なガラス玉のように澄んだ青い瞳が、どこか虚ろな様子でラーニャを見ている。

少女は金持ちの所の子供なのか、シンプルだが上質な衣装と、あかぎれ一つない白い肌していた。

そして見れば見るほど光輝く、短い金髪。


「短い?」


 この国の女性は、長い髪を良しとし、短く髪を切ることはまずない。

切るとすれば、出家するときか、はたまた男装するときか。


「お前……。まさか男?」

「うん。そーだよー」


 どこか間の抜けた調子で少女、いや少年は答えた。

こちらを見つめる大きな愛くるしい青い瞳と、それを縁取るくるんとカールする長い睫毛。

彼はラーニャと同じくらいの、十二三歳という年のせいもあってか、髪さえ長ければ少女に見えても仕方のないほど可愛らしい容姿をしていた。


「ウチを抜け出してお芝居見に行ったらさっ、道に迷っちゃってー。ウロウロしてたらさっきの人達に絡まれちゃったの」

「こんなトコ、こんな服でうろついてたら絡まれるに決まってんだろ」

「逃げてたら、途中で眠くなっちゃったんだよねー。ボク、暗くなるとすぐ寝ちゃうの」


 ピンク色のほっぺをツヤツヤさせながら語る少年は、わざとらしいくらい天真爛漫だった。

おそらく暖かいお屋敷の中で大切に育てられてきたのだろう。

この街にはふさわしくない存在だ。


「オレが送ってってやんよ。はよ帰れ」

「えー、一人で平気だよー」

「んなわけねーだろバカ!」


 怒鳴ってから、ラーニャはふと声を落とした。


「ひょっとして、オレがマオ族だから嫌なのか?」


 マオ族は、外見に顕著な特徴があるせいで、一目見ればすぐそれと分かる。

雪のような白髪と、荒野を思わせる褐色の肌。

それだけでも人目を引くが、何よりも目立つのは、白くて大きな猫そっくりの耳と、腰の辺りから生えた長い尻尾。

もちろんラーニャも、例の通りの外見をしていた。


「ごめん気付かなくて。悪かったな」

「違うよっ、メーワクかけたくなかっただけだもん!マオ族なら遠い親戚にもいるし、イヤだなんて思ったことないよ」


 表立った差別は法令で禁止されているとはいえ、マオ族に嫌悪感を示さない人間は王都にあまり多くはいない。

ラーニャはつり目気味の大きな目でにやりと笑った。


「お前、名前は?」

「ミハイルだよー。君は?」

「オレはラーニャ・ベルガ。短い間だけどヨロシクな」


 自己紹介を終えたラーニャとミハイルは、とりあえずこの危ない街を抜け出せるよう足早に歩きだした。

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