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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第一部
19/125

王家陰謀編9 王の証言

 広間のざわめきが収まるのを待って、国王は低く威厳のある声で静かに言った。


「パレパレの花を庭師が勝手に刈り取ったのは、わしが彼に命令したからだ」


 静まり返った空間に、再びどよめきが起こった。


「陛下が?なぜ陛下がそんなことを――」

「紛争問題で処理に駆け回っているとき、私はヘンリエッタの父君に用があって偶然彼女の屋敷に寄ったのだ」


 国王曰く、その時ヘンリエッタの住む屋敷には見事なパレパレの花が庭いっぱいに咲き誇っていたのだという。

パレパレの花は咲かすこと自体は簡単だが、綺麗に色づかせるのは難しい。

しかし屋敷に咲いているそれは、王宮の庭園に勝るとも劣らない美しさだったそうだ。


「パレパレはサクラの好きな花だったからな。ヘンリエッタの父君に頼みこんで譲ってもらったのだ。本当なら本人が証言するのが一番だろうが、あいにくもう亡くなっているのでな」


 もしこの話が本当だとしたら、屋敷の主人どころか国王に命じられた庭師は、当然ヘンリエッタに伺いを立てることなく、庭中の花を刈り取るだろう。

だがローレはまだ納得していなかった。


「陛下ご冗談を。パレパレの花なら王宮の庭園にもたくさんありましたでしょうに。なぜわざわざヘンリエッタ様のお屋敷で」

「パレパレの花は一日しか持たない。王宮の庭園の分はとっくに刈り尽くしてしまっていたのだよ。サクラの部屋に飾るために。もしこう言っても信じないなら、証拠もあるぞ」


 国王はあらかじめ用意してあったのだろう書簡を広げた。

端整な文字で書かれたその書簡の最後には、なぜかパレパレの花の押し花が貼り付けてあった。


「これは私宛のサクラの遺書だ。最後に『部屋いっぱいのパレパレの花をありがとうございました』と書いてある。そして押し花まで……。このとき王宮の庭園にパレパレ草がなかったことは、当時の庭園管理の記録に残っているはずだ。一体なぜ王宮にないパレパレ草の花がサクラの部屋にあったのか……言わんでも分かるな?」


 ローレは国王の方を向いたまま小さな目を見開いていた。

周りの貴族たちの反応は、彼を見つめる者、囁き合う者それぞれである。


「わしがはっきり断言しよう。ヘンリエッタがサクラを殺したというのは全くもって卑劣な陰謀だ。その用意した証人も、お前がサクラの元使用人を金でつったのだと調べはついておる」


 そう、国王は審問会が始まる前から、今回の暗殺容疑が陰謀だと分かっていたのだ。

それでも審問会を開いたのは、ヘンリエッタの身の潔白を証明して口うるさい貴族を黙らせるためだろう。


 審問会により、ヘンリエッタ王妃にかけられた暗殺疑惑は真っ赤な嘘だったということが大勢の貴族の前で明らかになった。

敗北が確定したローレとマドイの前に、怒りで顔を真っ赤にした国王が立ちはだかる。


「ローレ、マドイ。お前たちは自分が犯した罪の重大さをよく分かっているだろうな?」


 ローレは先程の自信に満ちた様子はどこへやら、みっともなく震え上がっていたが、マドイはなぜか笑っているような顔をしていた。


「……なんだ。母上は父上に見捨てられたわけじゃなかったのか。殺されたわけじゃなかったのか。そうか……」


 ラーニャはその猫耳で確かに、彼が「良かった」と言ったのを聞いた。

その証拠にマドイは追い詰められた状況にもかかわらず、静かに笑っている。


「マドイ、ローレ。お前たちには失望した。相応の償いはしてもらうぞ。兵士たちよ、この者たちを引っ立て――」

「ちょっと待ったー!!」


 ラーニャは緩んでいた鞭を自力で引きちぎると、国王の前に立ち塞がった。

彼が何か言う前に、ラーニャは先に自分で名乗りを上げる。


「オレの名前はラーニャ・ベルガと申します。陛下、オレが凄く個人的に勝手に申し上げたいことがございます」

「は?な、なんだ?」

「ホントに今回の騒ぎはこの馬鹿兄貴――いや、マドイ殿下だけの責任でしょうか」


 思いもよらぬラーニャの発言に、マドイがはじかれたように彼女を見た。

国王と言えば、ラーニャが鞭を引きちぎった印象が強すぎたのだろう、まだ呆然としている。


「このローレというおっさ、いやローレ様が悪いのは確定だけど、マドイ殿下のことは良く考えて下さい。コイツは今回のことでローレに騙されていた上に、ずっと陛下が不倫をして自分の母親を見捨てたと苦しんでたんです」

「それがどうしたというのだ」

「それがどーしたじゃないでしょーが陛下!アンタ父親だろ?どーして息子が苦しんでるのに気付かなかったんだ。それも十何年間!」


 ラーニャに今国王陛下に向かってとんでもないことを言っているという自覚はほとんどなかった。

あるのは目の前にいるふがいない親父への怒り。

それだけだった。


「コイツはなぁ、ずっと苦しんできたんだよ。このオッサンに吹き込まれて、テメェとヘンリエッタ様のせいで母親が惨めに死んだと思い込んで。バカだと思うか?おれもバカだと思うぜ?でも息子が騙されていることにも気付かない父親の方がずーっとバカだよなぁ?」

「貴様、何が言いたいのだ」

「国王陛下、いや、マドイのお父様。どうしてアンタは息子をほっといたんですか?」


 ラーニャの爛々と輝く瞳が国王を貫いた。


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