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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第三部
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終わり編5 ラーニャの気持ち

 ラーニャはぐったりと背もたれによりかかりながらため息を吐いた。

晩秋の朝日が爽やか過ぎて目に眩しい。


「あー、まだ信じらんねぇよ。アイツがオレに惚れてたなんてさ」


 結局昨夜は部屋に戻らず、ラーニャはミカエルの宮殿で一夜を明かした。

とはいっても、一睡も出来なかったのだが。


「やっぱりラーニャは気付いてなかったんだね~」

「何がだ?」

「兄上のことだよっ。ラーニャ以外はみーんな気付いてたよ。だって兄上がラーニャを見る視線、スッゴイ熱かったもん」


 そんなもの全く気付くわけがない。

始めて知った彼の気持ちに対するショックが大きすぎて、ラーニャはミカエルに昨日の復讐を果たす気にもなれなかった。

なんだか一日で三年くらい年を取った気分である。


「しっかし、アイツもどうかしてるとしか思えねーよな。結婚してくれだなんて」

「そっかなぁ」

「だってオレはどっからどう見ても、貧乏なド庶民だぜ? 王子様となんか結婚できるはずないだろ」


 ラーニャとマドイでは、言うまでもなく身分の上下がある。

大国の第二王子と、片や貧しい出稼ぎ娘だ。

一体マドイは何をどう計算してラーニャと結婚しようと思ったのか、いや結婚できると思ったのか。

彼の頭の計算機能は狂っているとしか思えなかった。

だがしかめ面をしているラーニャに、ミカエルは朗らかな顔で「それなら大丈夫だよ」と言い放つ。


「大丈夫って、どう考えてもおかしいだろ」

「大丈夫だよっ。さっきアルベルト公から手紙が届いたんだけどね、ラーニャが兄上と結婚するなら、公爵家が後見になってくれるって!」


 ラーニャは驚いて、思わず椅子から転げ落ちそうになってしまった。

公爵家は言うまでもなく、この国で王家に次ぐ身分を有している家柄である。

そんな家がラーニャのために後ろ盾になってくれるなんて、とてもじゃないが信じられない話だった。


「どうして公爵家がオレなんかの後見になってくれるんだよ」

「アルベルト公は君のことをえらく気に入ってるみたいっ。小麦騒動の時の話を聞いて、さらに感激したらしいし。それに――」


 それにアルベルト公はマドイのことを、かつての自分の姿と重ねているらしい。

アルベルト公は自身が身分の違いを理由に恋人と離れざるを得なかったため、同じ思いをする若者を見たくないのだそうだ。


「孫のことでも借りがあるし、色んな理由が重なって、君を後見することに決めたみたい」


 何とも有難すぎる話である。

庶民のラーニャでも精霊の守護に加え公爵家の後見があれば、マドイとの結婚も大手を振って出来るだろう。

しかしラーニャは俯きながら首を横に振った。


「……でも、やっぱり無理だよ」

「どうしてっ?」

「だっていくら公爵家の後見があったとしても、やっぱりオレは貧乏で平凡な庶民なんだ。アイツとは釣り合わねーよ」


 マドイはこの国を担う王族だ。

ラーニャのような精霊の加護しか取り柄のない人間ではなく、もっと教養があって特技があって、なおかつ美しい女性と結婚するべきである。


「アイツにはもっとふさわしい相手が居るんだ。オレみたいな平凡な一般庶民じゃなくてさ」

「平凡な一般庶民? ラーニャ君――。ひょっとして、自分が平凡だとでも思ってるの?」


 ミカエルは何故か戸惑ったような表情だった。

当たり前の事を聞かれて、ラーニャは呆れながら答える。


「何言ってんだ? 平凡に決まってるだろ」

「ええぇぇ! ラーニャが平凡だなんて有り得ないよー! 君ほど非凡な人間を探す方が難しいのにっ」


 ミカエルは身体をブンブン振り回しながら抗議してきた。

ひょっとして彼は本気でラーニャのことを非凡だと思っているのだろうか。


「お前……オレのこと特別な奴だとでも思ってんのか?」

「うん」

「確かにオレは精霊の守護を受けてはいるけど……。それを取ったら何も残らないありふれた女じゃねーか」

「それはないよ。残るもん色んな物が。ラーニャの一番の武器はね、精霊の守護じゃなくてその行動力と性格なんだよっ」


 いまいち納得できなくてラーニャが首をかしげると、ミカエルは両手を大きく広げた。


「だって兄上を助けたとき、君は精霊の力を使った? 違うよね?」

「違うけど……」

「でしょ? ラーニャの良い所は、その理不尽なことが許せない激烈な性格なんだよっ。出稼ぎ娘かどうか、身分がどうかなんて、兄上の気持ちや結婚には関係ないんだよっ」


 ミカエルは身振り手振りで、ラーニャがどれだけ特別で素晴らしい人間なのかを説明してくれた。

だがラーニャはそこまで言われても、自己評価を改められない。

「でも……」と言いながら口ごもるラーニャに、ミカエルはいらいらした様子で叫ぶ。


「もーっ! ラーニャったらさっきからでもでもばっかりっ!」

「……だって」

「だってもへったくれもないよ! いいじゃん結婚しちゃえば。君兄上のことが好きなんだからさ!」


 とんでもないミカエルの発言に、ラーニャは思わず身を乗り出した。

まさかラーニャがマドイに惚れているだなんて、何を根拠に彼は言い出したのだろうか。


「ばっ、テメー。そんなわけねーだろ!」

「そんなわけあるよっ」

「どうしてそう思うんだ。ワケわかんねーよ」

「だって、さっきから結婚できない理由を聞いてるだけでも分かるもんっ」

「何でそれで分かるんだ」

「じゃぁさ例えば、もしラーニャがアーサーにプロポーズされたらどうする?」


 答えは考えてみるまでもなかった。


「断る」

「どうして?」

「だってアイツマザコンだし、女に対する理想ばっか高いし、デリカシーなさ過ぎるじゃねーか」


 後ろでアーサーが涙目になっているが、気にしない。

ミカエルはそうだろうと大きく頷くと、突然ラーニャを指差した。


「ほらね。やっぱりそうじゃないか」

「なにが?」

「アーサーのプロポーズを断るときは、アーサー自身に理由があったでしょ? でも兄上の時は、ラーニャは自分自身に理由を求めてるもの。普通好きじゃない相手に求婚されても、自分が至らないから結婚できないなんて考えないよ? つまり、君は兄上が好きなんだよっ」


 ミカエルは立ち上がると、大声で断言した。

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