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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第三部
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居候編10 終わり良ければ全て良し?

 あれからショーンは無事マドレーヌの元に戻された。

彼女はトレースには戻らず、そのまま王都で働くことが決まったという。

親子連れでよく働き口が見つかったものだとラーニャは驚いたが、どうやらマドイが就職先を斡旋したらしい。

まさに一件落着と行った所だったが、ラーニャの心には何故か消化し切れ無いものが残っていた。


 居候を始めて三回目の休日、ラーニャがどこへも行く気になれずベットに横たわっていると、ミカエルが部屋を訪ねてきた。

彼は沈みこむラーニャとは対象的に、秋晴れの空のような晴れやかな顔をしている。


「ラーニャ元気? ボクはスッゴク元気だよっ!」

「……そいつぁ良かったな」

「事件も無事解決したし、徹夜で調べ込んだかいがあったよねっ」


 ラーニャは返事をせず、顔だけをミカエルに向ける。

先日ローズマリーたちは国外追放処分になり、事件の全てが決着したかに思われた。

だがマドイは真実が明らかになった日から落ち込みっぱなしで、今日も部屋から出て来ない。

ラーニャにとって手放しで喜べる状況ではなかった。


「あれ~? ラーニャ元気ないよ。どうしたの?」

「……」


 マドイが落ち込んでいる原因は本人から直接聞いた。

最初ラーニャはてっきりローズマリーに騙されたせいで沈んでいるのだと思っていたが、マドイはなんと、ショーンが息子でなかったことにショックを受けているという。

彼そっくりの姿をしていたショーン。

それ故にマドイの中には、彼に対する父性のようなものが芽生えてしまっていたのだ。

「本当は少し嬉しかったんです」と、寂しげな顔をして語るマドイの姿は、今でもラーニャの目に焼き付いている。


「オレってさ、自分が思ってるより酷いヤツかもしれねぇ」

「は? 何言ってるの?」

「マドイは今、ショーンが息子じゃなかったことで傷ついてる。なのにオレ、ショーンがアイツの息子じゃなかったことを喜んでるんだ。な? サイテーだろ?」


 ミカエルの顔が晴れから曇りに変わった。

横たわるラーニャの姿を、じっと黙って見守っている。


「今回は違ったけど、もし本当にショーンがマドイの息子だったら、オレはどうすりゃ良かったんだろう」


 マドイがローズマリーの元へ行くのを黙って見守るべきだったのか。

それともローズマリーと赤ん坊を引き離せと言うべきだったのか。

いや、息子の存在を否定するようマドイを説得する選択肢もある。

ラーニャは未だに、あの時自分がどうすべきだったのか全くもって分からなかった。


 突っ伏したまま微動だにしないラーニャに、ミカエルが半分呆れたように呟く。


「結局ショーンは、マドレーヌの子供だったんだよ。考えてもしょうがないことじゃないっ?」

「まぁ、それもそうなんだけどよ……」

「ラーニャは真っ直ぐだよねー。ボクが今のラーニャだったら、何も考えずに喜ぶのにっ。ま、それが君の良い所かもしれないけどねっ」


 ミカエルはラーニャを励ましてくれているらしかった。

良い友人を持てたことを、ラーニャは改めて有難く思う。


「……ありがとな。ミカエル」

「兄上も兄上だよねっ。せっかく全部上手く行ったのにさっ」


 ミカエルは渋面を作ってマドイの部屋の方を向く。

すると、次の瞬間とんでもないことを言い放った。


「そんなに子供が欲しいなら、ラーニャに産んでもらえばいいのにっ」


 一瞬、ラーニャはミカエルが何を言ったのか理解できなかった。

数秒して、奇怪な悲鳴をあげながらラーニャは叫ぶ。


「ミカエル! テメッ、何言ってんだ!?」

「え? だってそうでしょ? ラーニャが産んであげればいいんだよっ」

「ああぁ!? 何の義理でオレがっ? いや、そういう問題じゃなくて!」

「問題なら何もないじゃんっ。二人とも愛し合ってるんだから!」


 ラーニャは身体中から物凄く嫌な汗が流れ出てくるのを感じた。

顔は真っ赤になり、全身の血液が急回転している錯覚を覚える。


「な、な、な。ミカエルテメェ……」

「今更恥ずかしがらないでよっ。白々しいな~」

「今更も何も、オレとマドイはそういう関係じゃねえぇぇ!!」


 ラーニャが絶叫すると、ミカエルはポカンと口を開けていた。


「へ? 兄上とラーニャって、恋人同士じゃないの?」

「当たり前だボケェ! 何を根拠にほざいてやがる!」

「だって、同棲してるのにっ?」

「してねーよ! オレはただの居候だ!!」


 散々耳元で叫ばれえ、ミカエルは目を白黒させていた。

このマセガキ、末恐ろしいことを言うにも程がある。


「一体どこのどいつだ! 同棲とか言い出しやがったのは」

「一緒に住んでれば誰だってそう思うよっ。ボクやっと二人のことを祝福しようって決意したのにっ」

「しゅ、祝福ぅ?」

「父上も母上も、いつ婚約の申し出に来るのか楽しみにしてたんだよっ?」


 ラーニャは眩暈と頭痛が同時にやってくるのを感じた。

魔導庁でのミカエルの態度。

秘密を聞いたときの侍女たちの不自然な様子も、「そういう誤解」を受けていたのだと考えれば合点が行く。


(な、なんてこった……)


 ラーニャは文字通り頭を抱えた。

いつの間にか周囲の人間に、マドイと恋人同士だと勘違いされていたなんて。


「とにかく! オレとマドイは単なる居候とその家主だ。周りにもそう言っといてくれ」

「えー」

「『えー』じゃない。これはオレの名誉の問題だ!」


 ラーニャはベットからばねの様に飛び上がると、急いで身支度を始める。


「ラーニャ、どこ行くの?」

「下宿探すんだよ。このままじゃ『婚約者同士』なんて言われかねないからな!」


 そんなの真っ平ゴメンである。

もちろんマドイも同じ気持ちだろう。


(どんな所でもいいから、とにかくここから出て行ってやる――!)


 ラーニャは硬く決心すると、ミカエルを残して部屋を飛び出した。

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