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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第一部
10/125

王宮殴りこみ編6 ラーニャの真実

「こ、こくおうへいか……?」


 突拍子もない事態に陥り、ラーニャはその場で硬直してしまった。

一体なぜこんな所に国王陛下がいるのか。

いや、王宮なのだからいることにはいるかもしれないが、なぜラーニャの戦いを黙って見ていたのだろうか。


「ほら少年、言いたいことがあるのだろう?何なりと申せ」


 国王の一言で、ラーニャは現実に戻った。

腹に巻きつけていた帳簿を取ると、恐る恐る国王に向かって差し出す。


「これはマルーシ地方を領地とするレスター伯爵がした税の横領の証拠です」

「うむ。話はミカエルの方から聞いておる。すぐ調べさせよう」

「――?ミカエル?」


 ラーニャが疑問を口にする前に、見覚えのある金髪の少年が胸に飛び込んできた。

クリクリとした大きな目と、バラ色の頬。

ミハイルだ。


「おいミハイルなんでこんなところに。林に引き返せって言っただろ!」 

「ラーニャこそどーしていなくなっちゃったのさっ。心配したよ。こんなボロボロになっちゃって」

「大丈夫だよ。ただの打撲と脱臼だ」

「兄上にやられたんだねっ。ヒドすぎるよっ」

「兄上?」


 ラーニャはまだ床にうつぶせになっている美形の男に目をやった。


「おい……。兄上ってひょっとしてコイツのことか?」

「うん――でも兄上なんでこんなところで寝てるの?」

「オレが頭突き食らわしてやったの――ってこの長髪お前の兄貴かよ!」


 ラーニャのツッコミに、ミハイルが当たり前のようにうなずく。

その後ろでミハイルの兄だという男は兵士たちに助け起こされていた。


「マドイ殿下っ!お気を確かに」

「あのクソガキ~。私の顔に頭突きを食らわせるなど野蛮極まりない。傷がついたらどうしてくれようか」

「あっ、殿下たんこぶできてますよ」

「な、なんですって!」


 男が慌てて手鏡を取り出したところまで見て、ラーニャはミハイルの方へ視線を戻した。


「……何かお前の兄貴、『殿下』って呼ばれてる気がすんだけど」

「ごめんねラーニャ。ボクほんとはミハイルって名前じゃないの」

「ちょっ、まさかお前……」

「ボクの名前ほんとはミカエルなんだ。ミカエル・ロキシエル。ウソついててゴメンね」


(こいつ……王子かよ……!)


 ラーニャは傷の痛みも相俟ってか、思わず気絶しそうになった。





 ミハイル改めミカエルは、本当は庭園についた時点で自分の正体を明かし、ラーニャを国王の下へ連れて行くつもりだったという。

それを変な気を回したラーニャが台無しにしてしまったのだ。


 それからラーニャとはぐれたミカエルとアーサーは、途方にくれているところを兵士に発見され、慌てて国王に事情を説明。

すぐにラーニャを探そうとしたが、そこに待ったをかけたのが例の兄貴――マドイである。

マドイは直訴をするならそれ相応の覚悟を見せるべきだと主張し、自らラーニャと対決することを申し出

――結果見事に頭突きを食らい、その美しい顔にたんこぶをこさえることとなった。


 客室で治療を受けながらミカエルの説明を聞いて、ラーニャはどうりで簡単に侵入できたはずだと納得した。

全てお膳立てされていたからこそ兵士も人もおらず、いきなりマドイと手合わせすることになったのだ。

今思えばもっと不自然に思うべきだったのかもしれない。


「でもまさか兄上に勝っちゃうなんて思わなかったよ」


 ラーニャには贅沢すぎる華やかな客室で、ミカエルは一人目を輝かせていた。


「そんなに強いのか?その……マドイ殿下は」


 ラーニャの問いに、うなずきながらアーサーが答える。


「二十そこそこで魔導大臣ですからね。魔法の技術は卓越していますし、剣や鞭の腕前もかなりのものです。魔法ありの戦闘であのお方に勝てる人は少ないでしょう」

「兄上が頭突きで負けるなんて、これ以上ない傑作だよ」


 ラーニャは彼が二番目の兄に嫌われていると言ったことを思い出した。

きらびやかな王家の三人の王子。

国民は彼らがそれぞれ立派で、仲睦まじいと思っているが実態は違うようである。


「そうか……。良くオレ無事だったな……」

「あれ?何かラーニャ元気ない。ボクがウソついてたから怒ってるの?」

「ちげーよ。ただなんていうかその、お、王子になんて接すれば良いのか」

「別に今までと同じでいいよっ。敬語なんて使ってるラーニャなんてキモイだけだし」


(……キモイってひどくね?)


 ラーニャは少しへこんだが、ミカエルは気付かずにニコニコしている。


「ねぇラーニャ。ボクが王子でもまだ仲良くしてくれる?」

「それはいいんだけど……」

「イヤなの?」

「そうじゃなくて、オレも実は二人に秘密にしているっつーか、気付かれないようにしてることがあって……」


 ラーニャがうつむくと、ミカエルが耳をぐにぐにと触ってきた。


「何でも言ってよ。嫁イビリしてましたとかじゃなければ、ボク全然気にしないからっ」

「なぜにそこで嫁イビリ?」

「だから大丈夫だよ。ボクに話して」


 何が大丈夫なのかは分からないが、そこまで言われては後には引けない。

ラーニャは覚悟をきめた。


「あのさ、多分二人とも勘違いしてると思うけど――オレ、実は女なんだ」


 しばしの沈黙の後、広い客室に衝撃が走る。

「ええええぇぇっ!!」とまず声を上げたのは、ミカエルではなくアーサーであった。


「えっ、女って何でですか!」

「何でって言われても女に生まれたんだからしゃーねーだろ」

「そうじゃなくて、どうして男のふりするんです!」

「だってあの街にいると女ってだけで大変なんだよ。工場でも雇ってもらえなくなるし。だから男として通してんだ」


 理由を言われてもまだアーサーはあたふたしていたが、ミカエルは何の反応も示さないままである。

それどころか「何だそんなこと」と言わんばかりに目をぱちくりさせていた。


「なーんだ秘密ってそれかぁ。ボク始めから女の子だって気付いてたよ」

「まじでっ!?」

「じゃなかったら、いくらショタキャラのボクでも抱きついたりしないよっ。何が楽しくて男の体にくっつかなきゃならないのさ」


(ショタキャラって……)


 逆に呆然とするラーニャをよそに、ミカエルは相変わらず無邪気な笑顔のままだった。

いや、無邪気な様子を装っているだけかもしれない。


「と、いうことでボクたちの友情は変わらないままだねっ」

「あ、ああそうだな」

「ボクたちの友情にカンパーイッ!!あ、アーサージュース持ってきて」


 ラーニャはアーサーがいそいそと部屋を出て行くのを見ながら、出稼ぎ生活が思いも寄らない方向に転がって行くのを何となく感じていた。


どうでもいい情報

ミカエルは無邪気さを装って女性に抱きつき、感触を楽しむむっつりスケベです。


次回からは王家陰謀編が始まります。

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