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第99話 説得

「いや、レイナさんを探しに来たんですよ」


「……で、その結果があたしの下着を見に来たと」



「…………それは結果的にそうなんですけど、思い切り足を組んでいるからですよ」


 屋上で寝転がりながら足を組んでいると必然的にスカートが捲れていて、その状態で僕が足側から登ってきたんだから不可抗力です。



「まあいいや。とりあえず落ちたら助けるの面倒だから、さっさとこっちにこい」


 指をくいと動かすと、僕の身体は塀を越えて屋上に到着する。

 僕はレイナさんの横でとりあえず胡坐をかいて座る。



「リイランさんに魔王城の高い位置にいると言われて、屋根を伝って探したんですよ?」


「……いや、ここ普通に室内から繋がってるぞ」


 …………僕のそもそもの発想が間違っていたらしい。

 普通屋外から行ける場所で屋内への侵入は許さないと思ってたんだけど。


「で、横になって何を見てたんですか? 真っ赤な空なんて見ても面白くないじゃないですか」


「ほら、お前も横になればわかる」


 無理矢理腕を引かれて押し倒された。

 レイナさんのお腹の上に頭を乗せる感じで、強制的に上を向かされる。



「……僕の目には真っ赤な空にしか見えませんよ」


「だろうな、あたしの目にもそう見えねえし」



 ……なんで見せた。

 そして今更ながらに思うのだけれど、レイナさんやリイランさん、ロミアちゃんはみんな赤眼だ。魔族として何か関係性があるのだろうか。


 僕はレイナさんの腹筋に頭を乗せている状態を解除すべく起き上がろうとするのだが、強靭な左手によって僕は微動だにしない。



「レイナさん、実はもうセリカちゃんとかと出会ってから1年経つんですよ」


「…………」


 反応は求めない。

 別に僕は独白のように、ただの自己満足で話し始める。



「あの時はびっくりしましたよ。またレイナさんの無茶ぶりが始まったって」


「……言うほど無茶させてねえだろ?」


 勿論そのことについて今はもうわかっている。僕の安全が保障されている状態でしかレイナさんはおかしなことは言わない。

 レイナさんは僕に不可能なことは要求しなかった。



「でも、いきなり弟子をとるなんて思いもしませんでした。しかも【不可視】なんて二つ名も」


「【不可視】についてはあたしじゃねえよ。あたしは弟子の話をして功績を言っただけだ」


 ……そう言われると困る。

 絶妙に本当の話だったから。



「なんか今にして思うんですけど、もしかしてイルガの里とかレイナさん関与してます?」


 ぴくり、と彼女の身体が強張った。

 はっきり言って普段だったら絶対にわからない微細な変化なのだが、今は距離が近い。その反応をされるということは……



「……レイナさん?」


「いや、別に大したことはしてねえよ、元々昔アヤメの母親と知り合いだっただけだ」


「昔……ですか」


 この角度では、彼女がどんな表情を浮かべているかはわからない。

 でも、声は静かだ。


「【不可視】は見えないことを前提にしているが、名前が消えるのは寂しいってよ」


 それで僕に与えたわけか。


「不可視の居場所を適当に風の噂として流しただけ。そこからどう動くかはあたしは神じゃないから知らん」



「結果的に僕はこの森を出てみるきっかけになったわけですが」


 色々考えていくと、レイナさんが僕を率先して外に出そうとしていた。

 それこそここ1年間で。


「レイナさんの代わりに魔導評議会へ行きましたが、あそこの事件は流石に把握できていないですよね」


「あのな……なんであたしが自分の弟子を巻き込むんだよ。それならあたしで解決した方がはえーだろ」


 それもそうだ。

 ただ、いつでも助けに来る気だったんじゃないかな。


 レイナさんのとんでもない馬鹿魔力で禁呪を粉砕できるなら、最悪僕が死ぬ直前までは放置するとかできたはずだ。

 特に、僕の位置が大体わかるんなら、もしかしたら僕が死にかけているかもわかっているのかもしれないのだ。



「おかげ様で勝手に五大賢人にされちゃいました。本当に困ったもんですよね」


「困ったもんだよな」


 ……同調されてましても。

 別にその件はレイナさんのせいだけではないけれど、きちんと真実を言えばレイナさんの功績として納められるはずだった。


「そのあとはバカンスに行ったり、退学させられた母校に行ったり、ちょっとずつ交友関係が広がったり、拷問されたり楽しかったです」


「…………」



「でも僕は基本的に受け身でレイナさんに言われるがままだったり、流れに身を任せたり、自分が何をしたいかって考えたことはないんです」


 僕が求めているのは常に平穏だけ。

 なるべく穏便に、余計なことを考えず。



「そして今回、珍しく僕はやりたいことがあるんですよ。僕の師匠は、受け身気質の僕が滅多になくやる気になっていることをとめるんでしょうかね」



「……ああ、なるほどね。それが言いたかったのか」



「わざと遠回りしてすみません。レイナさんの温かさを感じていたかったので」



「……お前はあたしの味方なんだろ? あたしを困らせることをするのか?」


 そういうと思っていたし、レイナさんは僕に行かないように命令することもできた。

 でも、命令したとしても今回だけで言うと僕は絶対に折れない。


 そのためにわざわざレイナさんを探しに来たし、回りくどい話もした。


 レイナさんは僕に『無理な命令』は絶対にしない。

 つまり、今レイナさんは命令しないということは彼女自身でもわかっているのだ。



「そうやって頼む時点で、今回は諦めて折れてもらえませんか?」


「……まったく、あたしの弟子はいつからそんな我儘に成長してしまったんだか。悲しいなぁ」


「そんな嬉しそうに言わなくてもいいと思いますけど」


 声は悲しさを含んでいなかった。

 僕が自分の意志を持ってやろうとしていることを素直に喜んでいるようだった。


「本当のところを言うと、リイランさんがそういう役割を持たせたので、僕が受け身でそうやろうとしているのかもしれません。でも、僕はレイナさんが魔神に勝ってもらうために仮に周りから止められても進んでやりますよ」


 多分、リイランさんが想定していなかったとしても、僕は今回の魔神を倒す条件を聞いた時点で名乗り出ようと思っていた。




「あと、別に僕は我儘ではないのでレイナさんに一つお願いしてもいいですか?」


 僕はようやく体を起こして、彼女の目を真っすぐ見つめる。

 柔らかく笑いながら、片目だけ開けて僕に目を合わせてくる。

 パッと見てウインクしていたのか。



「命令してくださいよ。僕に心臓を潰しに行けって。そしたらいつも通り僕は受け身で従いますから」


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