第96話 不死なる神
誰もが沈黙だった。
今聞いたことはまさに歴史的な伝説的な戦争であり、生ける伝説である魔王が目の前にいる。
「あたしも知らねえんだが、なんで殺せなかったんだ? その理由も知ってんだろ?」
「そうね、単純な話だったのよ」
レイナさんは、リイランさんにいつもと同じような口調で質問する。
最低でも、前よりは険悪さは薄れている。
今は共通の敵がいるからだろうか。
「単純な話よ。基本的に魔神って不死なのよ」
思念体なのだから、魔力のような存在であればどうやって殺せばいいのだろうか。
僕の率直な疑問は皆が思い浮かべていたのだろう。
リイランさんは苦笑しながら続けて話す。
「でも、無敵ではない。依り代に憑依した心臓を粉砕すれば多分死ぬ」
「なんで心臓だってわかる? いや、そもそも一撃で倒したんじゃないのか」
全て再生する起点が心臓近くであったようだ。
上半身を吹き飛ばした際には、左上半身から超再生していたらしい。
「殺したときもそうだったのよ。そして、そもそも依り代には心臓がなかった。殺せるかはわからないけれど、弱点には違いないわ」
心臓が抜かれていたということか。
……ん? そしたらどうやっても殺せないのでは。
「依り代の心臓を見つけて、それを破壊すればいいってことですか?」
「そういうこと」
やれやれ、というようにレイナさんは首を振っている。
「あのな、何も確証がねえじゃねえか。正しいかもわからない話をどうやって信じろと」
失望しているみたいだ。
実際、レイナさんであれば心臓くらい探すことは出来そうだが、それでも無意味な可能性もある。
「寿命で魔神は滅びることを前提にするなら、肉体の維持が必須ってことはどこかの部位が必要というのはわからない話ではないが……」
【粉砕者】が呟くように考えている。
寿命で滅んできたのは過去の魔神が証明している。
……でも、他に有力な選択肢があるわけでもないのか。
「でも、それでしたら勇者が身体を吹き飛ばした後もすぐに復活するのでは?」
「普通ならね。これは推測だけど、エルノーの力が影響していると思われるわ」
リイランさんは説明を続ける。
勇者エルノーは自身の魔力を他者の魔力に混ぜ合わせることによって、自然融解させられる才能があったらしい。彼に攻撃を受けて魔力を流されると毒物に近い魔力干渉で一撃必殺らしい。
……あれ? なんかその説明、聞いたことがあるんだけど。
「レイナさんレイナさん」
「あん? どうした」
小声で僕は隣にいる師匠に確認をとる。
どう考えても、先程の勇者の説明がセリカちゃんが抱えている魔力漏出に似ているようだ。
「まああれは欠点だが、完全に制御できるならそうなんじゃねえか?」
……あ、そうなんですね。
僕の小声を気にしないようにリイランさんは話す。
「本当に奥の手で、最後の最後で初めて使ったのだけれど、それでも逃げられちゃったのよ。今まで禁呪で集めてきた魔力を依り代まとめて崩壊させられてしまったから、ある意味魔神を倒せたのよ」
……えーっと。
つまり? 魔神は禁呪を使って魔力を集めて、依り代に憑依して初めて実体をなせると。魔神を倒す方法はつまり魔力を全て使い切らせること、そして心臓を潰すこと。
「魔力を干渉させて潰すのも、心臓を潰すのも一応あたしはできる」
レイナさんは当然のように言う。
魔力を干渉させるということは、実際に魔神と相対さなければならないけれども。
「心臓を潰すって言うのは具体的な策はあるんですか?」
「凡そ推測できているから策はある……というか、試したことがあるの」
そしてリイランさは立ち上がり虚空に腕を伸ばすのだが、その腕は途中で消えてなくなる。収納魔法でよく見る光景だ。そして彼女は手を引き抜く。
「依り代のね、収納魔法の中である空間に隠れているわ」
禁呪というのは魔法の使用者の願望をくみ取り、強制的に実現させる魔法。それによって依り代の亜空間を確認したことがあると彼女は告げる。
「……ちょっと理解が追いついていないんですけど、依り代は自分の心臓を収納魔法で仕舞っているってことですか?」
「そうよ。そしてこの収納魔法って言うのは、自らの魔力によって空間を捻じ曲げて作るもの。他者が干渉することはできない」
亜空間では常に術者の魔力が充満しており、常に精神系魔法を受け続けているような状況になるらしい。
「私の部下に手を入れさせたことがあるの。ものすごい魔力でね、その部下はすぐに精神崩壊したわ。何度やっても厳しいみたい」
……また沈黙が流れる。
僕は無言の空間で情報の整理をする。




