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第95話 昔話

「あれはいつだったかしら、もう100年以上も前だからよく覚えていないのよね。あの頃、私はまだただの魔族だった」


 世界は魔神が支配する世界であり、魔族に支配されているわけではなく特殊な世界だったようだ。

 魔神に従う私利私欲の塊である人間も一部いてそれが国王となり人間界を支配し、魔神が魔界を支配していた。


 魔神の目的が世界征服であり、それが達成された状態で敵対するものは全て弾圧されていた。両方の世界では供物を定期的に要求され、魔力の高い者は生贄として使われていた。


 そんな時、人間界では天才的な戦士が、魔界では天才的な魔術師が現れる。

 実は魔術師による魔法戦闘が主流になったのは魔神が倒れてからで、それまでは武器を使った近距離戦のサポート的な役割であった。


 戦士はエルノーという男なのだが後に勇者と呼ばれ、魔術師はリイランという女なのだが後に魔王と呼ばれ続けることとなる。



「彼を一目見た時に、魔神に対抗しうる逸材だとわかった。だから裏ですぐにコンタクトをとったわ」


 当時魔神は魔族の頂点とされていたため魔族と人間族は非常に険悪だったが、リイランが人型であったこと、魔神の横暴さが許されていなかったためエルノーは彼女と協力することとなる。


 基本的には二人で旅をして、各地を回る。

 信用できる人物を見極め、時にはリイランによる精神操作によって味方を増やしていく。


 勿論表立って動けば二人は容赦なく殺されていただろう。

 既に弾圧や暴動、クーデターなどが度々起きていたその世界ではかなり静かだったはずだ。



「魔神についても頑張って調べたわ。そのためには私は魔王城で働くことにした」


 自分自身に強力な精神操作の魔法をかけ、エルノーのみに解けるようにした。

 心を閉ざし、魔神に仕え淡々と情報を集めていった。


 その間も治安は悪化し、エルノーの家族は殺されていた。

 リイランの両親は魔王城で人質となっていた。



「その中で禁呪について色々わかっていったわ。あの時は禁呪って言われてなかった気もするけど」


 それまで禁呪は比較的容易に使われることがあったという。特に階級の高い者が奴隷の命や部下の命を使って、魔力を吸収して騙していたらしい。


 依り代についてもわかったのはその時期であり、途中までは急に魔王が何かに憑りつかれたかのように性格や信条が変わってしまったと思われていた。

 特に魔族には凶暴な性格をしたものが多く生息していたためだ。



「人間界や魔界、2つの世界で必死に準備をしていた。泥を啜るようなことは何回もしたし、人間も魔族も沢山殺した。眠れない日はいくらでもあった、未だに夢に見るくらいには」


 それでも、全てはこの世界を救うため。

 リイランとエルノーは抗い続けた。魔族を依り代にしているということは、その寿命は人間よりも圧倒的に長い。


 過去の文献を読むと魔神というのは度々復活していたが、大体が寿命により死亡していた。



「不思議だったのよ、『思念体』たる魔神が寿命で死ぬだなんて。だから単一では生きられないと判断して、依り代を殺すことが目標だった」


 二人を守るために、多くのものが犠牲になった。

 魔神に従った者たちを殺すために身代わりになった彼ら彼女らも多かった。


 リイランとエルノーによって少しずつ追い詰めていったのだ。


 その頃、一部ではリイランのことを魔王と、エルノーのことを勇者だと呼ぶ者たちが増えていった。

 呼ぶものが増えていくにしたがって隠れて行動することは徐々に難しくなる。



 それでも、現段階では魔神と衝突すれば勝てないということはわかっていた。



「依り代を殺すためにはね、私たちが今すぐ見つかってはいけなかった。何組も影武者が現れてくれた。人間界にも、魔界にも。あの時ほど世界が協力したことってないんじゃないのかしら?」


 人間が、魔族が、モンスターが、そのすべてが共闘していたようだった。

 それだけ魔神というものは世界にのさばってはいけない存在であった。


「その中で、古龍を仲間にできたのも大きかったかしら。やはりドラゴンというのは強力だったわ」


 準備に時は満ちることがなかったが、それでも動かなければいけないタイミングが現れる。ついに、リイランとエルノーの両名が魔神に捕捉された。


 時間はなかった。

 勝てる確率などどれくらいあったのか。


 それでもやるしかなかった。



 伝説のドラゴンは単独で魔王城を強襲し、それと同じタイミングで反乱を引き起こす。

 それによって魔神以外の連携をとれなくする。


 リイランは強力な魔族たちを引き連れ自らを初めて魔王だと名乗り、魔神とは道を違えて戦うことを宣言する。

 それに人間の代表となる勇者エルノーも名乗り、最後の戦いとなる。



「戦いは壮絶だったわよ。常に頭を割られるような精神攻撃を受け続けていたし、物理攻撃は一撃でも食らえば即死。何回も部下に、友が私たちを庇ってくれた」


 魔族は人間とは違って元々強靭な肉体を持つことが多い。

 それでも、魔神の一撃は絶大だった。


 腕を切断しても、頭を弾き飛ばしても、体を真っ二つにしても基本的には超再生により数秒で復活してしまう。

 どうすれば殺せるのか、そんな疑問を持ちながらも戦うしか選択肢はなかった。



「でもね、最後は私が隙を何とか作ってエルノーが止めを刺してくれた」


 仲間たちが攻撃の盾となり、リイランが魔神の魔法防御を粉砕する。

 エルノーが渾身の一撃で魔神の身体を全て消滅させた。


 文字通り塵も残らない一撃で、その衝撃波で仲間たちも死に、勇者も魔王も重傷を負った。




「というのが昔話。でもね、結果的に魔神は殺せなかった。依り代は殺せたんだけどね」


 リイランさんは一息ついた。

 柔らかく笑っていたが、隣にいる僕だからわかる。


 すごく手を強く握りしめていて、怒りを抑えていた。

 それだけ、命を懸けた戦いだったという事だ。


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