第94話 進行役
「リイランさん、わざとやってますよね」
混乱が収束するまで何分もかかったのだろうが、僕は時計を確認している余裕はなかった。
そもそも魔王が自らお茶を入れているという光景がおかしいのだが、それよりもリイランさんの爆弾発言は恐ろしかった。
意図しているのかしていないのかで随分印象派変わるが、言う事でこの場を掌握できる可能性があるから意図しているに僕は一票投じたい。
「あら、ゼロ君また会えたわね」
マイペースな返答だ。
そして僕が会えない可能性なんてあったのか。
「レイナちゃんが、ゼロ君を守るために連れてこないかと思ってたもの」
「寧ろそれがよかったんですけどね」
「私としてはゼロ君が来てくれてよかったわ」
珍しく後ろではレイナさんが他の賢人に説明しなければならない状況で、僕は先に座ってリイランさんと雑談をしている。
そしてロミアちゃんは気が付いたら人型から黒猫に変化して僕の膝に乗ってくる。
かなり軽いから分離しているようだ。
幹部としては魔王を守るための盾として隠れているのかもしれない。
液体なのに体毛が柔らかいって変な感じはするが、僕は黒毛を撫でている。
「今度魔界ツアーをしてみようと思っているのだけど、ゼロ君は参加する?」
まるで母親のような温かさで見つめてくる。
因みに僕は母親にそういう視線で見つめられたことは一度もないから比喩的な表現だが。
「僕は遠慮しておきます。森でのんびり過ごしたいんで」
これは嘘ではない。
もしも、全ての事象が終わったら全てを引退してのんびり世界最強の弟子をするだけだ。
……まあ、たまには街中に出るのもいいかもしれないが。
「というか魔界ツアーって、魔神は倒せるんですか?」
「レイナちゃんがいるからとりあえず依り代くらいは殺せると思うわね」
僕には違いがあまりわかっていないんだけど、依り代を殺すということは魔神を殺すという事ではないのか。
「その辺り含めて話そうかしら。あ、でも一応全員に聞いてもらわないとね」
軽く、コインを上に飛ばすように指を弾いた。
その動作でレイナさん以外の全員がばっとこちらを凝視した。
「そろそろ立っているのも疲れたでしょうし、座ったらどうかしら?」
多分何かをしたんだろう、でも僕には感じ取れない。
レイナさんは僕の隣にドカッと座る。
そして背もたれを自身の方に引き寄せて僕はリイランさんと物理的な距離が少し開く。
「【不可視】、この状況はどういうことかしら」
僕に説明を求められても困る。
でもこの状態では進行役が誰もいないことに気がついてもしまった。
他の賢人や護衛は情報を知らなすぎるし、レイナさんは絶対にやらない。
ロミアちゃんは猫になってしまったし、リイランさんに任せると多分数分立たずに険悪な雰囲気になる……主にレイナさんが。
……なるほど、僕がいなかったら大変なことになってたな。
「あー、もう。説明しますね」
レイナさんのほうをちらっと確認し、黙ってうなずいているのでレイナさんの出自についても追加情報として話す。
単純な話、レイナさんは半人間半魔族であり、魔王と勇者の子供。リイランさんには未来予知があり魔神が目覚めること。
依り代がどこかにいることなどなど。
僕が覚えていないからある程度は多分重複していると思うし、話下手な僕の説明では完全に理解はしてもらえていないと思う。
でも、大きな流れは全員に伝わったという自信はある。
「……レイナ様の強さには秘密があったんだね」
エルザさんは知っていたのかはわからないような反応だったが、アル君は少し気まずそうな表情だった。自分が知って良かったのか、そんな表情か。
モカちゃんはゆらゆらとサイドテールを揺らしていたが、感慨深げにつぶやく。
「そろそろ話を戻してもいい?」
誰のせいだよ! と心の中でツッコミを入れる。
流石にここで食いついても更に遅延されるから黙っているけれど。
膝の上のロミアちゃんは尻尾をふにふにと動かしながら欠伸をしている。
眠いのか、眠いふりをしているのかはわからない。
「で、我々を呼んだ理由を聞こうか」
「え? 協力して魔神を倒すために呼んだだけ。この場で呼び出してみようと思って」
あっけらかんと言い放つ。
いや、待て。おい。
更に大混乱が起こるのかと思ったが、意外には露骨にリアクションを起こしたのは僕だけだった。
「いや、待ってくださいよ。呼べるんですか?」
「ええ、言ってなかったかしら?」
……言われていない。
僕は進行役だから、流石に僕が止まるわけにもいかない。
「……とりあえず先程話そうとしていたことをみんなにお話しいただけないですか?」
そうね、とリイランさんは紅茶を一口飲んだ。
因みに僕以外では誰一人としてカップに口をつけていない。警戒しているからか、緊張感があるから手を付けていないのかはわからない。
「まず、魔神についてはある程度知っているでしょうし、省略するとして。これは、私と彼の昔話」
そう言って、魔王は懐かしそうに話し始める。




