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第89話 零

 自意識過剰かもしれないけれど、何故あの時僕を探していたのか。


 何故魔力がない僕を探して、ただの一人の男性として扱っているのか。


 何故魔力がない僕の場所をある程度分かっているのか。


 何故ロミアちゃんはレイナさんの魔力を説明するときに十人十色、自由自在などと言ったのか。






「……例えば、例えば人の魔力を奪い取る禁呪ってあるんですかね」





「……あの時助けた少年も随分成長したもんだ。まあ、正直あたしからしたらいつ気が付くんだろうなって思ってたが」



 諦めのような雰囲気だった。

 僕が彼女をどういう表情で見つめているんだろうか。



「流石に、今日のレイナさんの生い立ちを聞くまではわかりませんよ」


 そうだったのか。

 意外と何の感想はなかった。



「確かに合理的と言えば合理的ですよね。魔力なんて才能だと思いましたが、後付けで人から奪えるならそれに越したことはないわけですか」


 つまり、あの研究所で昔出会った、魔力のない子供たちもレイナさん……いや、魔神による被害者なのだ。


 レイナさんはため息を深くついて、淡々と説明する。



 勇者と魔王は仕方なかったのだ。

 二人の娘であるレイナでさえ、魔力的には魔神に勝てなかった。正確に言えば依り代を殺すことはできるのだが、思念体である『魔神』を殺すことはできない。


 禁呪を用いて補強するしか選択肢がなかった。魔王が見た予言では、確実に何十年も先の未来のことだった。それならば、ここで禁呪を使っても未来には影響しない。


 生まれてくるはずの赤子たちの魔力を奪い取り、世界最強に注入し続けた。その中で一部の魔力は魔神に供給されただろう。しかし、その結果としてレイナさんという最強は生まれた。

 生まれるはずの赤子を殺し、その代わりこの世界を守ろうとしていた。




「言い訳にしかならないんだけど、あたしもそれを知ったのはそれこそお前の年齢くらいだったかな。あたしの中で魔力の種類が多すぎるんだよ、まるでたくさんのものを無理やり一つにまとめたみたいに」


 それでリイランさんを問い詰めたらしい。

 彼女はあっさり告白した。



「……それで、リイランさんと仲が悪いんですか」


「勇者だろうが、魔王だろうがやってはいけないことがある。殺してでも奪い取るのであればあたしは文句を言わなかった」


 でも、これから生まれてくるであろう命から搾取するのを過去のレイナさんは絶対に許せなかったようだ。レイナさんは罪人や咎人には厳しいのだが、赤子には何の罪もない。

 その際に大喧嘩をして、一切レイナさんはリイランさんとの関係を断った。


 絶対に母親からは干渉しないという条件に、レイナさんはいつか魔神と戦うことを約束した。



 ……で、僕が監禁されて、久し振りにコンタクトを取ったらしい。



「……あたしも正確にはどれくらいの人から魔力を集められたのかは知らない。そもそも生まれるはずだったものを消滅させているわけだ。数えようがないさ」


 隣にいる彼女は、憑き物が落ちたかのように穏やかな顔だった。


「あたしの中にゼロ、お前の魔力もあるからなんとなくわかるんだよ、お前の状況が」


 元居た場所に戻ろうとしていたのか、そういうのはよくわからないが。



「……だから、下水道でも探せたんですね」


「あたしが最強である所以を知った時、まだ生きている人がいるってなんとなくわかった。だから本気で探し回っていた。他人の人生をずっと踏みにじっていた罪悪感は、相当だった」


「レイナさんでもあるんですね、そういう感情」



 わざと茶化すように言うが、真顔で返される。


「それが贖罪みたいなものだよ。でも大半はそもそも生まれていないのさ。あたしが確認できただけでも10人もいなかったんだろうな」


 更に僕が大半を火災で殺しているわけだから。

 あと、多分研究所に連れていかれる前に気味悪がられて捨てられたり、もしかしたら殺されたりしたのかもしれない。


「お前を見つけた時には本当に嬉しかったよ。自己満足なんだろうな、でも」


 だからこそ、全ての要求を叶えてくれようとしていたというわけか。

 僕は勇者と魔王によって人生を狂わされ、レイナさんによって救われたわけだ。



「でも、なんで生まれる人と生まれなかった人がいたんでしょう」


 僕は当然の疑問をぶつける。


「多分双子だからだな」


 双子?

 僕は確かに双子だけれど、それが何の理由に。


「一人しかいなければ、母体の中で死産してしまう。魔力がなければ生存できないわけだ。だが、双子であれば互いに魔力を共有していて稀に生き延びられるんだろうよ。正確なことは知らんが」


 レイナさんは少し体を起こし、僕の瞳を真っすぐに見つめてくる。



「つまり、今までお前が迫害されてきたのも、苦労してきたのも、この前拷問されたのも全てあたしのせいってわけだ。ほら、殺したくなっただろ?」



「別になりませんよ。もしかして、僕のこと馬鹿にしてます?」



 もしかしたら、僕に普通に魔力があればもっともっと普通の人生だったのかもしれない。

 でも、それはあくまでも仮定の話だ。


 そんな現実は今まで考えたこともないし、これからも考えることはない。

 だって、考えるだけ不毛なのだから。



「それにレイナさんが自らやったわけでもないですし、貴女にそういう感情を抱くのはお門違いだと思いますよ」


「でも」


「それに、今更無駄なことをうじうじ悩んだって意味はないですよ。僕からいえることは一つだけですよ」


 たまには僕だってかっこいいことを言ってみたい。

 レイナさんは何を言われるのか見当がついていないように、眼が泳ぐ。


「だったら、魔力を奪われても生き残った僕の為に魔神を倒してください。完膚なきまでに」





「……そんなもん当たり前だろ」


 にやりといつもの笑みが戻ってきた。



「まったく、もっと怖い話かと思って用心して損しましたよ」


「……そっか」


 僕がセリカちゃんたちに過去を話した時と同じだったんだろうか。

 許されるかわからない、あってはならない秘密を打ち明けるという事なのだから。



「折角、犯されたり殺されたりするかもって思って色々準備してたのによ」


「そういう冗談は残念ながら面白くないですよ。もしかしたらそれが一番面白くない話としてノミネートされますよ」



 僕は屋根の上で立ち、体を反りながら大きく伸びをする。


「ほら、今日はもう寝ますよ。明日は魔神を倒すために魔導評議会にいかないといけないんですから」


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