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第86話 哀れな男の末路

「じゃあ面白くない話から」


「お前を拷問していた男が殺されてたぞ。まったく、早死にしやがって」



 まるで旧友のように悲しんでいるようだが、さらっととんでもない事実を告げられた。

 ドクターが殺された?


 魔神の復活を追い続けた男の末路は、えらくあっさりしていた。



 僕は混乱する。ドクターが死んだことではない。

 彼が死のうが僕にとってはどうでもいいんだ。その言葉ではなく


「自殺ではなく、他殺ですか?」


「まあな。魔法で記憶を見せてもいいんだが、流石にえげつないから想像でも勝手にしてくれ。プロの拷問だ」


 お前にやったようなやつではない。

 そう言われているようだった。事実としてそういう意味なんだろうけれど。


「誰がやったんですか? ブーザー教団のトップですか?」


「いや、それはちげえよ。不可能だ」


 何故そう言い切るのか。

 僕は一度深呼吸をして落ち着く。


「名前も知らんやつだがな、ブーザー教団の幹部の奴らの記憶と酷似しているやつもついでに殺されていた。これまたプロが拷問してやがった」


 ……お、おお。

 禁呪に、魔神に関する容疑者が立て続けに殺されたのか。



 別に僕は魔導評議会とは違って、その件に深く首を突っ込む気はないのだが手掛かりが完全になくなったという事だ。



「悪いな、ゼロとの約束をやぶっちまった」


「……約束ではないですよ。レイナさんが一方的に宣言しただけなので」


 一生生かしてやるという脅し文句のことを言っているとはすぐに分かった。

 

「一つ聞きたいんですが、偽造の可能性ってありますか?」


「流石のあたしでも死人に口なし。蘇生や記憶は拾えんからわからん。まだあの研究者が生きていると思っているのか?」


「いえ、教団の方です」


 ドクターは多分アヤメちゃんやロミアちゃんの記憶を見ているだろうから、レイナさんが間違えるとは思っていない。

 しかし、教団の方はどうだろうか。もしかしたらドクターを拷問したのはそれを隠すためではないだろうか。いきなりブーザー教団のボスが拷問されていれば不審に思うかもしれないが、ドクターの一緒に拷問されていれば何らかの因果性を生み出す可能性がある。


 例えば、今回で言えば更に別の誰かが禁呪を狙っていたのではないかとか。



「さあな、それはわからん」


「そうですか、じゃあ面白くない話ですね」



「だろ」


 レイナさんがわからない話であれば、そもそも僕にはどうしようもない。

 考えるだけ無駄という事だ。


 なるほど。オチもない、話も広がらない、そんな話だ。



「では次の話を聞きますよ」


 先に食事を終えているレイナさんは食器を片付け始めたので、僕も慌てて食べる。

 何を考えているのかはわからないが、こういう時はスピード感を合わせる方がいい。



「今日、星が綺麗だな」


 窓辺で僕に背を向けながら、そう師匠は言う。

 夜になると流石に暖かいという感じはしないのだが、特段寒いわけでもない。



「それを言ったら、いつも星は綺麗ですよ」


 雲がかからなければ森からは星がよく見える。

 窓を開け始めたレイナさんは僕を手招きしているのでおとなしく近付くと、いきなり襟首を掴まれる。


 体が軋むような重力を浴びながらも声を上げないで静かにしていると、気が付いたら館の屋根の上にいた。



 部屋から引っ張り出されて跳躍したんだろうけど、わざわざ滅茶苦茶なことをすることもないのに。


 というか、もしもこれ帰りレイナさんがいなくなったら降りられないんだけど。



「ほら、隣座れよ」


 うちの屋根は三角屋根だが傾斜は緩い。

 レイナさんは寝そべって空を見上げながら、ぽんぽんと自分の横を指している。


 その姿勢、結構きわどいですよ。



「珍しいですね、レイナさんはこういう趣深い風情とか興味ないでしょうに」


 花を愛でるとか自然を愛するとか絶対にしなさそうな人だから。

 師匠とは対称的に弟子のセリカちゃんは道端に咲いている植物に気を散らすような子ではあるが。


 僕の言葉を無視して、レイナさんは星を眺めている。何やらセンチメンタルな雰囲気になっているのかもしれない。



「むかつく話……ですか」


「あの女。リイランはあたしの母親だ」



「……まあ、そう言ってましたね」


 むかつく話。

 それはあなたがむかつくという意味ですか。

 いや、どうなんだろう。もしも僕が別の順番で聞くと言ったらこれが面白くない話になっているのかもしれないし、殺したくなる話かもしれない。



「別に隠していたわけではないが、あたしは半分魔族なんだ」


 半分だったのか。

 となると、人間と魔族の……ではあるのだが魔王の娘には変わりない。



「因みに父親は勇者だ」


「…………おお?」


 勇者……勇者!?

 いやいやいや、勇者って伝説上の空想の生き物ですよね!?


僕の方に顔を向けていない状態でも驚きは伝わっているようで、というか僕は体を起こしてレイナさんの顔を覗き込む。


「いや、待ってください。えっと」


 流石の僕でも伝説でしか聞いたことのないような話が現実味を帯びてくると困惑を隠せない。


「……レイナさんっていくつなんですか? 僕が知っているだけでも、勇者とかそういう伝説って100年以上昔というのはくだらないと思いますが」


 目を瞑っている彼女の見た目はどう見ても100歳の老婆には見えない。

 いや、魔法って大概何でもありだから見た目も変えられるのだろうか?


 僕は考えたが、即座に自己意見を否定する。

 流石に100年も生きていたとしたら、この精神年齢にはならないはずだ。僕を苛めて遊ぶような100歳はごめんだ。



「女性に年齢は聞くな。その辺も含めて話してやるから」


 物臭な言い方だった。

 ……両親も桁違いに強いって世界樹の葉を取りに行った時に言っていたが、人間族最強と魔族最強なんだから当たり前じゃないか。


 となると、しっかり遺伝はしていたみたいだ。


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