第85話 話の選択肢
「悪いことを言おうとしているわけではありません」
完全に身構えている僕に対してロミアちゃんは柔らかく微笑んでいる。
「最早ゼロ様、あなたが全ての人物を繋いでいると言っても過言ではないのです」
「過言だよ」
「魔皇帝と【皇帝】を繋ぐことと、【皇帝】と五大賢人を結びつけるのも貴方しかできません。ゼロ様、貴方がいなければ人間と魔族は協力することはできないのです」
そんなことはないと思うけれど、どうなんだろうか。
多分魔皇帝リイランさんがいきなり四大賢人のところに現れても話としては繋がるのかもしれない。でも、恐らく僕が仲介している方が話はスムーズだろう。
だからこそ、魔王は一度僕に会ったという事なのだろうか。
「……というか魔神って本当に復活するの? 僕はそこから疑っているよ」
これは嘘だが。
いつか復活するとは思っている。だって、禁呪はそもそもそういう性質のあるものだから。
でも、それが今まさに復活するのか、数百年後の話なのかはわからない。
特に魔族というのは人間族と違って寿命が長いから時間的感覚が違うかもしれない。
「あの方には、未来予知ができます。確実に当たる」
「……うん、それもう勝手に解決してくれないかな」
もうそれ事前に何とかしてくれよと思ってしまうのは僕の我がままだろうか。
ロミアちゃんはため息をつきながら紅茶を一口口に含んだ。
「確実に当たる未来予知です。避けられません」
「つまり?」
「魔皇帝が、レイナ様が何をしようが魔神は復活します。その未来は確定しています」
……マジか。
その未来がどこまで確定しているのかは知らないけれど、もしかして世界が滅ぶとかわかっているのではないだろうか。
いや、違う。僕は否定する。
決まっているならそもそも抵抗しないはずだ。
となると、復活というのがキーワードだろうか?
僕は素直に質問してみるが、彼女は把握していないようだった。
つまり、その真実も含めて魔王城で改めて話を聞けってことか。
……僕が魔王城に行くと言ったら、レイナさんは怒るだろうか。でも多分、着いてきてはくれる気がする。
あの人はそういう人なのだ……いや、魔族だから人というのは失礼なのかな。
いや、わからない。
そもそも魔族と人の違いすら僕にとってはよくわからないわけだし。
魔力があるという分類をしてしまえば、僕とそれ以外の生命体で分けられるわけだし。
「では私は帰りますね」
紅茶を飲みほした彼女は、席を立つ。
随分早いご帰宅ですね。
「幹部なので色々やることはありますので」
「そっか、大変だね」
因みに魔王城へいつ行くかは書かれていなかった。
でも、多分レイナさんの母親であるような人だから急に呼び出すとかもあるかもしれない。
ロミアちゃんは足元まで伸びている髪を自ら踏まないように器用に反転して、ぺこりと一礼してから部屋を出ていった。
そしてレイナさんが戻ってきたのは、夜ご飯を作り終わってからだった。
多少は機嫌が戻っているみたいで、いつも通りにやにやとした表情だった。
最近はそういった表情をする機会が減っていることに僕は気が付いていたのだが、なるべく気が付かないふりをする。
「そういえばゼロ、話したいことがあるんだ」
「なんですか?」
食事をとりながら、おもむろに話しかけてきた。
僕は食事の手を止めて話を聞く態勢になるのだが、別にそんな大事な話ではないとでもいうようにひらひらと手を振る。
「面白くない話とむかつく話、殺したくなる話。三つあるんだけどどれから聞きたい?」
「なんかもっと明るそうな話はないんですか?」
それに一々表現がふわふわしていてよくわからない。
というか面白くない話はしなくてもいいんじゃないだろうか。
僕は彼女の分の紅茶を注ぎ、考える。
良い話と悪い話であれば、もっと考えても意味はあるのだろうが、この選択肢にはどのような意味があるのか。
一見これは僕に選択肢が与えられているようではあるが、逆に言えばこれは彼女に忖度しているという意味でもある。面白くない、むかつく、殺したくなるというのはあくまでも主観的な内容で、それは人それぞれの感じ方でもある。
……となると、レイナさんは順番に話を聞いてほしいんだろうなぁ。
別にどこから聞いてもいいんだったら、前から聞こう。
僕はきちんと順番通りに聞くことにした。




