第81話 許された人形
「さて、ここで質問疑問意見要望などなど聞こう。なんでも答えてあげるよ」
……あれ、みんな無言だ。
そしたらレイナさん、何か面白そうなこと言ってください。
僕はちらっと師匠に目線を送るが、またため息をついてスルーされる、悲しい。
数秒の間が開いたのち、ロミアちゃんが静かに言葉を紡ぐ。
彼女からは魔力がないことについての質問だったのだが、僕は答えられなかった。
そもそも魔法が使えるという感覚がないわけだし、どんなことができないのかとか答えようがない。
「このことを知っているのは?」
次に聞いたのはアヤメちゃんだった。
「レイナさんは勿論、ノートル学園の理事長も記憶のロックはかかってそうだけどある程度は。あとうちの師匠から逃げ延びたドクターくらい。よかったね、一桁の一人になれたね!」
「…………」
無理に明るく言ったせいか、また無視される。
はっきり言って僕は寂しい。こんな神妙な雰囲気になるのは気まずいから嫌なのに。
「…………」
「うーん、もうちょっと質問してくれてもいいのに」
「ゼロ」
レイナさんが口をはさんだ。
誘拐、監禁、拷問されてからずっと僕のことをちゃん付けでは呼ばない。
彼女の手が僕の残された眼の方に近づいてくる。
そして、頬を布で拭いてくれる。
「……あれ」
「泣きながら笑うのはあたしたちが困るんだよ」
……あれ。
僕は泣いていたのか。みんなが助けに来てくれた時もそうだったけど、僕には涙が残っていたのか。
「…………ませんから」
ずっと黙っていたセリカちゃんが口を開いていた。
でも、小声過ぎて僕には聞き取れなかった。
「ごめん、セリカちゃん。もう一回言ってくれる?」
「私は絶対にゼロ様の弟子をやめませんから」
「…………」
疑問。疑念。不安。困惑。混乱。安堵。
…………安堵?
僕は。
僕は、セリカちゃんが弟子をやめないと言ったことに安堵している?
「多分ゼロ様は私たちが、あなたを軽蔑することを恐れているんだと思います。だからこそ、先に私に破門だって言ったんでしょう? 私があなたを気味悪がって離れるくらいなら自分から離れようとして」
強い言葉だった。
ほんわかしている小柄な小動物系少女とは思えなかった。
僕は、僕は図星をつかれていた。
「今まで虐められたり、怖がられたりしてきたんだと思います。でも、話してくれてありがとうございます」
そして何故か、僕はお礼を言われた。
「でも、私の師匠はゼロ様なので、また色々教えてくださいね」
「…………魔力はないんだけど」
「別にそれでいいんじゃない? セリカがそう言ってるんだし。ゼロ君、君が自分で言ったんでしょ?」
「僕が言った?」
モカちゃんは柔らかい表情を浮かべていた。
「話を聞いて判断して欲しいって」
……確かに言ったけれど。確かに言ったけれどさ。
「モカ達が軽蔑すると思っていたからそう言ったのか、心の予防線として言ったのかはわからないけれど、そう言ったんなら責任くらいは持ってほしいなぁ」
僕は目をぱちくりとさせる。
だって、僕は人間の定義から、生き物の定義から外れた存在なんだよ?
そんな存在が今まで君らを騙してきたんだぞ?
気持ち悪くないのか?
包帯だらけ、眼帯の僕の表情はどんなものなんだろう。
「勿論初対面であれば、違った感情を抱くのかもしれませんが」
アヤメちゃんが静かに告げる。
ロミアちゃんも頷いている。
「ゼロ、良かったな。いい子たちと出会えて」
なんでだよ。なんでみんな揃って、僕に対してそういう優しい表情をするんだよ。
僕はみんなを騙して、自分の秘密を知られないように隠れて頑張っていたのに。嘘はなるべくついていなかったけれど、それでも真実を話してこなかったのに。
今だって、下水道で生活していた話を4人にはしていない。
そんな人間を……そんな存在を受け入れてくれるというのか。
……困ったな。
また泣きそうだ。でも、流石にもう泣かない。
「やれやれ、困ったね。魔力のない化け物とわかってもなお関わろうとする人がいるなんて」
軽口を叩く。
僕にはこんな感動的な場面は不要だ。
「君たちも物好きだね」
こうして僕の過去を秘密を知った彼女たちは、僕に対する態度を変えずに接してくれる。またいつも通りの日常が戻ってきた。
平穏で、賑やかで、楽しい毎日が。




