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第8話 勝手に成長しました



「……あの、これは何の音でしょうか」


 ネーカのおかげでスムーズに僕らは無傷で進んでいくのだが、何やら反響して気持ちの悪い音が断続的に聞こえるようになってきた。

 今日は思いのほか生物たちが襲い掛かってくるため時間がかかっている。


「ネーカ、大丈夫か?」


「寒イ」


 これがあるから物置は嫌なんだ。どんどん気温が下がっていくせいで寒さが苦手のネーカの動きが少しずつ鈍ってきている。

 奥に進むごとにセリカちゃんが魔法で戦う時間が増えてきており、バランスが崩れ始めていた。


 僕が出来ることは、なるべく二人の邪魔をしないようにすることくらいだ。

 表面積を小さくすることで、より熱を保ちやすくする意味もあってネーカに小さくなってもらったが、それでもいつもの半分くらいしか力が出ないようだ。



「……物置の前のボスって感じだよ」


 悍ましい音にネーカの威嚇音が混ざりあい、洞窟の中はかなり五月蠅くなっている。

 反響しまくっているからだが、これによりネーカの振動探知能力も著しく低下している。



「開けたところに出ましたね……結構魔力反応が」


 セリカちゃんに向かって水球が発射されたがネーカが尾で弾き飛ばす。


「せりか、下ガル」


「あ、ありがとうございます!」


「蛙君たち久しぶり、全滅してたら嬉しかったのにね」


 物置の手前、ここはフローズンフロッグの縄張りだ。

 全長は3mほど、真っ白いぬるぬるとしている皮膚に、ここでは何の意味を持たないが15m近く跳躍できる足腰。10m前後まで伸びる舌に、水球を吐き出して攻撃することが知識として知っている。

 巣に近づくものに威嚇をするために輪唱するため、洞窟の中では反響して凄まじい音になる。


 ケロケロと可愛い声のはずなのに、それ以外が全体的にぬめぬめしていて気持ち悪い。

 普段のネーカであれば薙ぎ払って一掃できるのだが、そもそも大蛇モードではここまで潜れないから仕方ない。


「セリカちゃん、奴らの舌は直線的な動きだけで気を付けて」


 舌自体は不凍の唾液で凍らないが、そこから凍らされると一気に身動きが取れなくなる。

 ただし彼女に忠告した通りまっすぐ伸びてまっすぐ戻るから、かわすのはそこまで難しくない。射線上に入らなければ回避できるってことだ。


 彼らが厄介なのは、単純に耐久力が高いからだ。

 ぬるぬるとした粘液を体表に纏っているせいで斬撃系統の攻撃は効果が薄いし、打撃を与えても滑るから直撃しにくい。

 ネーカのメイン攻撃は毒牙と尾の薙ぎ払い。ここでは使えないが毒の息とあまりにも相性が悪い。丸飲みにしようにも彼らの温度が低すぎるためより身体を動かしにくくなる。


 フローズンフロッグの個体で僕らを攻撃してきているのはおよそ20頭ほどいるが、いつもいる大きめの長みたいのはまだ姿を見せない。

 ふむ、その全てを倒すならいっそ駆け抜けたほうが早いかもしれない。


「し、師匠、きりがないのでは!?」



「大体半分くらい殺せば勝手に引いてくれるんだけどね……」


 僕は暗闇の中のてかてかする粘液の数を指さしつつ確認していく。恐らくネーカが叩き潰した3体くらいしかまだ減っていない。


 そもそも基本的に僕やネーカの射程範囲に入らないように牽制してくるからだ。水球を弾けると言ってもネーカの体温は下がり続ける。

 地道に前へ進む僕らだったが、進めばそれだけ彼らに背後を取られることも増えるようになり体力の消耗が進行する。僕は全く疲れていないけど、それは肉体面の話だ。


「師匠、ちょっとやりたいことあるんですが」


「よし、任せた。ネーカ、サポート宜しく」


「ぜろ、後デ褒美。アトナンカ変」



結局僕は何もしていない。二人の時はまだ状況を把握したりネーカに指示を出したりしていたが、セリカちゃんもいるからあまり有効性は低い。

 そんな僕が出来るのはネーカに指示するだけ……はぁ、自己嫌悪だ。

 ネーカがなんか言っていたが、彼女のたどたどしい言葉ではよくわからない。


「いきます!」


「え、セリカちゃん?」


 フローズンフロッグから飛び出る舌をかわすことなく、身体に巻き付かれる。

 自ら突っ込んだから流石に無策ではないだろうと思った瞬間、僕の視界が急に埋まる。


「いけました師匠!」


 うん、よくわかんないけど蛙君の粘液が僕の顔面に直撃したことだけはわかったよ。

 べたべたの顔を服で擦って取ると、セリカちゃんが粘液まみれでガッツポーズをしている。足元にはぴくぴくと痙攣している舌が落ちている。


「舌から直接魔力流してみたら意外といけました!」


 ぴょんぴょん跳ねながら嬉しそうに笑ってるけど、君すごく粘液まみれだからね。とはいえ、ネーカよりも比較的有効な一撃を食らわせられるわけだ。


 攻撃を食らった蛙は離れた地点で舌と同じように痙攣して倒れ伏している。


「セリカちゃん、怪我はない?」


「大丈夫です、ちょっと体が冷えましたけど。師匠が私に教えたかった事ってこれなんですね!」


 うん? 戦闘中とはいえ、僕は理解できなくて立ち止まった。

 そしてそこを狙ってきたフロッグが舌を伸ばしてきたが、その手前でセリカちゃんが受け止める。更に粉砕。


「ちょっと待って、僕が……なんだって?」


 混乱しつつ、数をまた確認する。ネーカも更に3体ぺしゃんこにしているから、残り12体だ。


「師匠が料理の練習を少なめにさせていたのって、これが戦闘にも使えるからですね!」


 ……てっきり僕はその技はセリカちゃんが多用していると思ったのだが、そもそも違ったのか。

 というかこれってセリカちゃんは近距離戦で相手を掴めば全員粉砕することができるってことかな? 対人だと魔力対抗があるかもしれないけど、モンスター相手にはかなり強力だ。


「う、うん。ま、まさかこんなにあっさり出来るとは思わなかったよ」


 震え声になっていないと信じたい。


「だから師匠がなるべく手を出さないように魔力を消していたんですね、ありがとうございます!」


 この子本職魔術師じゃなくないか。

 包丁の時点で物を通して破壊できるんだから、剣とか持たせれば打ち合うだけでいけるんじゃないだろうか。


 フローズンフロッグたちは舌の攻撃が有効ではなく寧ろ危険だとわかったのか、威嚇する輪唱を繰り返しながら距離を取る。

 水球に至ってはネーカが撃ち落とすのだから相手に打つ手がないようだ。


「よし、そろそろ進もうか」


 何もしてないやつが先陣を切って進みますよっと。

 僕らが進むとその分蛙たちは下がっていく。


 ついには広場の逆側に到達して、今回は珍しく凍てつかされている金属の扉の前に立つ。

 もしかして僕が弱すぎてここをビビってただけで、普通の人だったら結構余裕なんだろうか……


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