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第76話 疾風の刃

「ごほ……ご」


「いい加減教えてくれないかね? そうまで頑張る意味はあるのか?」


 ……な、何度目だ。

 頭を水球に突っ込まされて、死にかけるまで抑えつけられる。


 脳が、体が空気を求めている……のに、はいって、こない。



「い、や……です」


 眼がちかちかする。

 頭が痛い。無理。


 でも、僕は答えない。



 もう頭なんて回らない、なんて答えているのかも覚えていない。

 でも、絶対に何も話さない。


 仮に。

 仮にこの男が既に知っている情報しか僕が持っていなかったとしても。


 最悪、こいつだけでも道連れにしてやる。



「くそ…………さっさと吐け! にやにや笑ってんじゃねえ!」


 わら……っていたのか。

 もうよくわからないよ。


 首を絞められても。


 溺れかけても。


 刺されても。



「ざまぁ……みろ」


 僕の身体が、右側から受け身はもちろん取れない姿勢で地面に転がった。

 それが、ドクターが苛立って椅子を蹴ったことに、それに気が付くまでに数秒かかった。


 この男……こんなものだったのか?

 朦朧とする意識の中で僕は思う。


 もっと合理的に、頭脳的に、冷静にしていなかったか?



「くそ、くそ、くそ!」


 もう痛すぎて痛みなんて感じない。

 ぼんやりとしていても、目の前の焦燥感を漂わせた男が僕を蹴るのはわかる。


 ……そうか。

 追い詰められているのか、この男は。


 あの研究所を破壊されて、どうなったか、どうやって生き延びたかはわからない。

 だが、そのあとで真っ当に生きられるわけはない。


 合成獣を作っているが、それがまともな組織に属していないのはわかる。


 あ、何か罵っている。よくわからないが。



「次言わなかったら殺す!」


「そ、です、か」


 じゃあ僕は死ぬのか。

 わざわざ僕の椅子を無理やり雑に直して座らせて、わざわざ殺すのか?




 あれ?僕の眼前に白衣の男が転がってくる。

 理解が追いつく前に、この部屋が、この空間が揺れているのがわかる。


 その揺れを理解した僕は、ただでさえ視界がぼんやりとしていたけれど、何か、何か目から流れる液体によってもう前は見えない。


「な、なんだ!?」


 ドクターが揺れに耐えられなくて転んだのだ。


「やっ……と、来て、くれまし……たか」


『あたしのゼロを攫ったやつら、皆殺しだ。いや、首謀者だけは生かす。絶対に殺さない、死なせない、一生半殺しだ。未来永劫な』


 ……なんて物騒な宣言だ。

 魔法で、どうやっているのか知らないけど、拡声しているようだ。


「こ、この声は!?」


 馬鹿か、この世で一番、絶対に敵に回してはいけない声を知らないのか。


「ドクター、死にたかったら、逃げた方が……いいですよ」


 僕は知っている。

 僕の師匠が、レイナさんが静かな声でまともな口調で話しているときは本気だということを。


『5分だ、これから一生を生き続ける覚悟をしておけ』


 ……となると、2分以内だ。


「何を笑っている!」


 いた、い。

 そうか……僕は、笑っているのか。



「ドクター……僕に、構っていると……本当に死ねなく、なりますよ?」


「ふざけるな、この施設には世界を滅ぼせる程の凶悪な合成獣が数体いるんだぞ! あの女がここに来られるわけはない!」


 ……それは、負けフラグでは。

 それに、


「【皇帝】を、レイナさんを倒したかったら、その十倍は……もっとたくさんいないと」


 部屋全体が揺れる。

 ここがどんな施設かは知らない。もしかして崩れるんじゃないか。


「くそ、くそ、くそ。何がいけなかった。いや、まだ問題ないはずだ」


 そうか、混乱しているのか。

 多分禁呪でこの施設を、全てを隠匿していたんだろう。


 その程度で、禁呪程度でレイナさんを止められると思っている。

 ドクター、あなたの創造というのは随分貧弱だ。


 多分あの人なら、魔王にだって、魔神にだって、誰にだって勝てるのだから。



「いま、何分経ちました?」


 心の底から笑えてくるし、涙が出てくる。

 自分の人生を崩壊させた一端が、こんなにあっさりも落ちるのだ。



「さっさと逃げて、自殺でも……死ねればいいですね」


「やむを得まい」


 ため息を一つついて、彼は驚くほど冷静に僕を見ている……と思う。

 完全に目は据わっている。



「お前を殺して、逃げるとする」


 論理的ではない判断だが、ここでは正解なんだろう。

 まだレイナさんは来れない。


 あと一歩足りないのか。


 この男に、こんな感情的な判断が取れるのか。



 朦朧としているものの、僕は単純に感心し、諦める。


 拷問に使ったナイフを僕の首に当て、一瞬迷ったように僕に躊躇い傷をつける。

 多分、自分のプライドである理性と、僕を殺したいという感情が競ったのだ。


「来世でまた会おう」








「残念ながら貴方に来世は来ませんよ」


 僕の片目の世界が真っ赤に染まった。

 因みに、この声は僕ではない。


「き、きさ……ま!!」


 小柄なくノ一が、アヤメちゃんがドクターの腕を切り落としていた。


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