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第75話 いつまで耐えられるか

 時間はわからない。

 永遠のようにも感じるし、実は数時間なのかもしれない。


 僕は不屈の根性で、いや、柳のように全ての恐怖、不安、不快感を受け流す。

 一睡もできないのはたまにあることだから、それについてはそこまできつくはない。


 臭いについても、下水道にいた時と比べたらなんともないし、あの小さな物音にも震えていたあの時に比べれば。

 勿論、全ては比較の問題でかなりきついのはきつい。


 それでもレイナさんが、師匠が絶対に助けに来ると信じている。



「やあ、おはよう。流石に生きているか」


「勿論ですよ、ドクター。随分可愛らしいペットを作っているんですね」


 僕は、なるべく軽口をたたく。

 全てを悟らせない。


 ドクターはその様子に少し感心したように頷いている。



「これは合成獣(キメラ)と言ってな。人間の残骸とモンスターを混ぜ合わせたものだよ」


 合成獣。

 恐らく人間の残骸というのは禁呪によって魔力を吸い取られて死んだ人間のことだろう。


 となるとまだ誰かを犠牲にして禁呪を使用し続けているのだろう。

 恐らくはこの施設を秘匿化させるためのもの。そして魔神を復活させるためのもの。



「では聞こうか。魔神や禁呪について全てを」


「断りま…………す」


 僕は肉の焦げた臭いがするが、構わず答える。

 焼け爛れた皮膚は死ぬほど痛いし泣きそうだが、僕は笑みすら浮かべる。


 絶対に、絶対にこの男が望んでいることをしてやらない。

 半ばプライドみたいなものだ、最悪これで殺されてでもこの男の足を引っ張ってやると。



「ふむ、まだまだ口答えができる程度には元気なようだ」


「あ、たりまえでしょう。あなたを殺してからも地獄は続いていたんですから」



「ほう、それは是非聞きたいものだね。あの女に君を奪われてからは殆ど音沙汰なかったわけなのだよ」


 あの女というのはレイナさんのことで間違いはないだろう。

 僕はしっかりとドクターに目を合わせてにやりと笑う。


 ドクターは時間がずっとあると思っているのだろうが、それでいい。



「そのあと、僕は下水道で暮らしてましたよ。夜だけ外に出て、残飯を食べたり、そうですね、モンスターも食べましたよ」


 誰が味方か敵かもわからない。

 家もないし安住の地も勿論ない。

 食べ物もないし、常に気を張り続ける毎日。


 あの頃から、物音ですぐに起きるようになったし、下水道で暮らしていたせいか水も嫌いになった。今だってお湯に身体をつけることすらできない。


 勿論、僕の欠点になり得る場所は一言も漏らさない。



「で、偶然僕の師匠に出会ったんですよ。ぼろぼろの僕を憐れんで弟子にしてくれたわけです」


「ほう……あの女に私のことは話したのか?」



 話していない。

 でも、ある王立の研究所が破壊された件について一度だけ聞かれたことがある。


 多分、僕が関与していることくらいは知っているのだろう。

 そのことについてはそれ以上聞かれなかったし、僕が言いたがらない過去については追及しなかった。

 人間誰しも言いたくない秘密だってあるのだから。


 人間扱いされていない僕だって、人間を超越しているレイナさんだって同様に。



「話していない。僕はつい昨日まではあなたが死んだと思っていたんだから」


「それもそうか。で、その後の話を聞こう」


 実際、それからはただ森の館でずっとレイナさんの苛めを耐えつつ修行していた程度だ。



「……なるほど。そもそも魔力がない君を探すのは禁呪を使っても無理だった」


 探していたのか。

 禁呪を使っても無理というのだが、レイナさんの魔力を探せばいけたのではないだろうか。

 僕の当然の疑問は、自らドクターが答えてくれる。


「あの女め、禁呪と同じレベルの魔法を使うせいで無理だったのだ」


 ドクターが無理といったのならば、それは確率が0%だ。

 恐らく最低100回以上は施行したのだろう、それでも成功しない。それだけ禁呪に巻き込まれた犠牲者がいる。


 というかやはりレイナさんの魔法が段違いすぎて恐ろしい。



「せめて君が他の魔力のない仲間たちを殺さないでくれていればよかったものを」


 ……同年代には、まだ何人か僕と同じように魔力のない人間がいた。

 その中で僕が一番優秀だったからドクターのお眼鏡に適って、禁呪担当となっていた。


 他の仲間は何をさせられていたのかは知らない。

 一人は壊れ、一人は死に、一人は四肢を失ったあたりから僕は考えなくなっていた。

 そして、僕が研究所を破壊して逃げれなかった全員が死んだ。魔力がないのだから、対処する方法もなく火災に巻き込まれているのだから当たり前だ。



「話が逸れてしまったな、では拷問を続けるとするか」




 表は電撃と煽りを。

 裏は悪臭と雑音を。


 僕はそのループを二回以上耐えた。

 表と裏で一日が経つならば、僕はここに誘拐されてから3日が経過している。



「……やれやれ、君がこここまで強情だとは思わなかったよ」


 ……僕は疲れ切った状態でもにやりと笑う。

 はっきり言って死にたい感情が強くなってきた。


 どれほどこの精神状態から解放されたいと思っているだろうか。

 

 でも、僕自身も驚いているのだが耐久しきっている。

 手の爪は全て剥がされているし、左腕は完全に折られている。右足はズタズタに切り裂かれている。


「僕の目を潰さなくていいんですか?」


 既に左目は潰されて、右目周辺も腫れあがっていてあまり視界が開けていない。

 でも、僕は目をつぶっていてもわかる。この男が一番嫌がることを。



「……あまり野蛮な方法はとりたくはなかったのだがな」


 よく言うよ。

 散々僕の身体をぼろぼろにしておいて……


 もう痛いという感覚がよくわからなくなっている。

 全身が痛すぎて、どこが正常か訳が分からない。


 ……でも、僕の心は折れていない。

 多分、僕の肉体が先に死ぬと思われる。


 こういう時に魔力のない身体が便利だと思う。心を読まれることもないし、回復魔法すら効かないのだから。あれはあくまでも魔力による自己の修復機能を促進することで再生させる、つまり魔力がなければ効果などない。

 足を切断されて、回復で生やされてなどのループの方が僕は持たなかっただろう。



「そろそろ……世界最強が来るかもしれませんよ?」


 声が掠れている。ひどい声だ。

 それでも僕の唯一の抵抗は、この口撃だけだ。只管に煽り返す。


 ドクターは、彼はそれに反応もしなくなっている。それだけ、それだけ余裕がなくなっているのだ。

 彼の想定では、既に僕が口を割っているとでも思ったのだろう。


 ざまあみやがれ。



「……私が君を殺さないとでも思っているのか?」


「はい」


 喉が痛い。でも間髪入れずに答える。

 少しでも目の前の男に対して嫌がらせをするために。



「この……」


 痛い……痛い?

 こんな状態で今更殴られたところでよくわからない。

 もう何が何だか、痛すぎて意味が分からない。



「……ふぅ、君のペース飲まれるところだった。嫌な人間だよ、031番。あ、そもそも人間ではないのか」


 馬鹿が。

 そうやって必死に僕を煽ろうとしている時点で平静じゃないんだよ。



 男は明らかに苛々している様子で部屋を後にして、この拷問が始まってから何度目かのカメレオン君が出現してくる。

 慣れというのが恐ろしく、この怪物を見てもなんとも思わなくなってしまっている。

 

というか、眼がほとんど見えていないし、鼓膜も片方破れているのだから最早何の効果も出ていない。


 僕を襲ってはいけないのだろう、本当に毎回毎回うろうろし続けて呪いの言葉を呻き続けているのだから。



 だから、僕は時を待ち続ける。


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