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第74話 救援要請

「まあ今から拷問を続けても私が疲れるだけだ。また明日にしよう」


 暫く問答を続けたのが、今すぐにでも拷問というわけではなかった。

 僕はなるべく情報を集めようとするのだが、のらりくらりとかわされながら僕を煽り続ける。

 僕の煽り方は殆どこのドクターの真似なのだが、自分がやられるとやはりものすごく苛々するし焦らされるし不安にさせられる。

 それでも、僕は心を平坦にしてなるべくダメージを負っていないように気丈にふるまう。


「私としても、なるべく君につらい目に遭ってほしくないのだがね」


 確信しているがそれは嘘だ。

 この狂人がそんな甘いことを言うわけがない。何か裏があるのだから。


 もしも僕を拷問するというのなら、先に精神を殺しに来るはずだ。

 恐らくこのまま痛みで拷問したところで僕は何も話さないで死ぬことを知っているはずだ。


「ではまた明日。あ、死ぬときは言うように。折角だから解剖させてもらおう。もしかしたら魔力のない仕組みがわかるかもしれない……うむ。先に殺してもよいかもしれないな」




 ドクターがいなくなると入れ替わりに、背後の方で『何か』がどこからともなく這いずる音がする。


 なんだ、この音。

 僕の背後に、何か……なんだこれ。


 聞いているだけで不快になる、不安になる、震えがくるような気味の悪い音だ。

 まるで、血が滴る生肉を地面に擦らせ続けているような気持ち悪さがある。


「なっ…………」


 『それ』がゆっくりと僕の眼前に近づいてくる。

 怖気が走り、鳥肌がびっしりとでている、なんだこれ。



「お……お……」


 『それ』はカメレオンのような見た目の、何かだった。

 ペガス君と同じくらいかそれより少し大きく、半透明だが緑色の体躯に鱗がびっしりと覆われているのがわかる。いや、尾を入れたら全長10mくらいか。


 眼はぎょろりと別々の方向を動き続け、時たま僕を視認する様に視線を合わせる。

 口をぱくぱくと開けつつ、時たま舌が伸びる。


 這いずる音は尾を地面に引きずっているからか。


「う……あ…………」


 この程度では流石の僕も驚かないのだが、その緑の身体には所々人の顔面のようなものが口を開け嗚咽か、悲鳴か、断末魔か、呪詛のようなものを言い続けている。

 明らかにこれは通常存在するモンスターではない。


……ドクターが作ったものだ。

 こんな、こんな趣味の悪いモンスターを作るのはあの男くらいだ。


「う……うう、あ……」


 それが見えるだけでも5体いるが、何かをするというわけではない。

 ただ、僕の周りを行ったり来たりうろうろしている。ダメージを与えてくるわけでもないのだが、こいつらがいるせいで僕は全く休まらない。


 そして、はっきり言ってかなりきつい。何か腐った様な嫌な臭いもするし、視覚的にも聴覚的にも嗅覚的にもきつい。頭がおかしくなりそうだ。



 ……今が何時かはわからない。

 これを……これの状態で何時間も耐えるのか。


 1日は、1日は耐えてみせるが、これがどれくらい続くのか。

 こんな地獄が。




 違う。

 僕は一息つく。目を閉じ、嗅覚については口呼吸で対応する。

 呪いの言葉のようにぶつぶつと四方から呟かれ続ける気味の悪い声だけはどうしようもない。


 違う。これを地獄というのか。

 違うだろ。この施設を破壊した後、1年弱下水道で暮らしていた……あの時の方が地獄じゃないか。


 誰かに助けを求めることもできない過去。

 いつまで続くかもわからない恐怖。


 あの時と違って、絶対にレイナさんは助けに来る。それだけは疑いようがない。

 それを疑うくらいなら、その時点で僕は舌を切って死んでやる。


 確かに神経は擦り減らされるし、頭がおかしくなりそうだ。

 でも、あの時と比べれば何でもないんだ。


 最近が、特にセリカちゃんたちと出会ってから僕は幸せ過ぎたんだ。

 まったく、僕は随分と恵まれていたみたいだ。


 あの頭のおかしいドクターのせいで、それを再認識させられるとは。


 それに一番の地獄は、レイナさんの隣にいれなくなる。約束を果たせないことじゃないか。

 こんな気持ち悪いモンスターに囲まれただけで何を弱音を吐いているんだか。




「ふふ、お願いなのでレイナさん。早めに助けてください」


 いつ振りだろう。レイナさんに助けを求めるのは。

 もしかしたら、あの時、下水道から助けてもらった時以来かもしれない。


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