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第73話 ドクターの目的


 僕はこれまでの自分の行動を悔いている余裕などなかった。

 後悔をするならば、そもそもあの時、施設を破壊した時に僕は確実にドクターの息の根を止めておけば。

 後悔をするならば、レイナさんに出会わなければ

 後悔をするならば、セリカちゃんを弟子に取らなければ。


 いくらでも出てくるが、僕は全て空っぽにして今を生き残ることだけに主眼を向ける。


 ふふ、少し前までは死んでもどうでもいいかと思っていたのに。

 多分ドクターにこれを言っても意味がないのだろうが、僕は弱くなったのだろうか。



「ふむ、しかし先日君を見て私は驚いたよ」


「…………」


「まるで人間みたいじゃないか! 壊れた人形の頃からしたら随分とまた面白くなくなってしまったではないか!」


 壊れた人形。僕が学園にいたころからそう陰で呼ばれていた。

 家族からも忌み嫌われ、学園のほぼ全生徒から無視された。感情が死んだ男の子の別名だ。


「そう、今のような眼だよ。生を諦めないその眼。つまらないな」


 再度電撃が飛ぶ。

 気を抜けば失神してしまいそうだ……さっき起こされたときに水をかけられているからこそ余計にきつい。


「今日講演を見て、私は笑ってしまったよ。本当に泣いたほどだ!」


 揺さぶられるな。この男に何の感情も向けるな。

 クールにしろ、ゼロ。僕は、そう。031番なんかではない。


 世界最強の【皇帝】の弟子【不可視】だ。



 ……僕の思考は進む。

 何故この男が講演を聞いていたのか、並の警備ではなかったはずだ。

 どこかに協力者がいるのだろう。でなければ、そもそも廊下で襲うなんてことはできないはずだ。


 では、もしも僕が理事長室に向かわなければどうなっていた?


 馬車で襲われたという事か。

 ……エルザさんを巻き込むことは避けられたという事か。となれば、時間を稼げば、もしかしたら誰かが僕を助けてくれるかもしれない。


 …………本当に?


 …………本当に僕を助けてくれる人なんているの?


「ドクター」


「何かね、031番」


「禁呪の魔導書を最近手に入れましたよね。使いました?」


 顎に手を当てた研究者を前に、僕は何故自分が監禁されているのかを考える。


「ブーザー教団……そこまで言えば、あなたならわかりますよね?」


 なるべく、含みを持たせろ。

 馬鹿正直に答えるな。時間を稼ぎ続けろ。


 目の前の男は上機嫌だ。ひどく上機嫌だ。だからこそ、付け入る隙はある、必ず。




「ふむ、まあいい。時間を稼いでも助けは来ないのだがね」


 読まれてもいい。

 最低でも僕が死ぬまでの時間を引き延ばす。世界最強なら、【皇帝】なら、僕の師匠なら、レイナさんなら絶対に来てくれる。

 そう昔約束してくれたのだから。


「私がブーザー教団のボスだとは思わないのかね?」


「思いませんよ。あなたには無理だ」


 何がだね、と聞き返してくる。



「ドクター、貴方は研究者だが戦闘は出来ない。そんな危険なところに行くはずがない。精々あなたができることなんて手ぐすねを引いて待っているくらいだ」


 この男はそういう本質がある。蜘蛛の巣のように、何かが来るのを待つ。決して自分から狩りは行わない。


「それに計画するのなら、まず先に僕を捕縛するでしょ」


「うむ、それはそうだな。私の協力者だよ、そのボスとやらは」


 嫌にあっさりと認めた。


「彼か彼女かは知らないが、利害の一致というべきか。互いに協力しているわけだ。先の事件では魔導書を全て譲ってもらったよ」


 ……譲ってもらった?

 ではボスは何を得た? 魔導書を盗むためにあんなことをしたのでは?


 いや、今は考えるな。生き残ってから考えろ。

 僕は一息つく。


「その彼か彼女かわからない存在に、今回も手伝ってもらったわけですか」


「今回?」



「僕の誘拐ですよ。今更ですけれど、今思い返すと不審な点が多かったんですよ」


 レイナさんの手紙が郵便受けに入っていたこと。

 彼女が僕をいきなりノートル学園に送ったこと……まあこれは僕が意外と大丈夫だったという読みだったのかもしれないが。


 それでも、彼女は確認くらいとってくるはずなのだ、そう思いたい。



「さっきも言いましたが、ドクター。あなたは肉弾戦もできない。僕を昏倒させられないですし」


「君の妄言のような推測が大体当たっていることに驚きだが、君は研究者にはなれない」


 それくらい知っている。

 僕は、自分の知っている点々としている情報を、自分の都合のいいように集めて答えにしているだけなんだから。



「そう考えると、何者か。あなたよりも優秀な協力者がなければいけない」


「そこは否定させてもらいたいが、しかしそれを証明する手段はない」


 では、何故僕を誘拐したんだ?

 情報についてはその協力者から得られることは多いはず。更に、そんな大事な仲間がいれば僕にわざわざ話す必要もない。



「裏切る気ですか?」


「いやいや、裏切るも何も仲間ではないのだよ。向こうは私を利用しようとしているようなのでね」


 情報もある程度は共有しているものの、全てを知り得ているわけではないみたいだ。

 しかし、そのブーザー教団のボスは何を目指しているのか。


 禁呪を使うということは、恐らくそれを使って何かをするか魔神の復活を目的としているはずだ。

 だが、後者であればドクターと協力すればいい。


 いや、そもそもこの男を信用できなければ魔神の復活を目論んでも協力する必要はないわけだ。



「今回、君が随分と魔神や禁呪について知っていそうだからな。拷問しようかと思っていたのだよ」


 …………まあ、そうなるか。

 はぁ、元々壊れている僕が更に壊れるのが先か。レイナさんが助けてくれるのが先か。


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