第70話 講演後で
「お疲れ様です」
「……お疲れ様です。流石に疲れましたよ。人前で話すなんてもう一生やらなくてもいいと思います」
講演と言われたのだが、結局質問大会にした。
そもそもが【不可視】という存在が最近出てきているわけだし、様々な質問が出た。
弟子はいるのか。 一人いるが、成長もしているからそろそろ卒業も近いだろう。
普段は何をしているのか。 【皇帝】の手伝いをしている。
何故正体を隠しているのか。 不用意な情報漏洩を防ぐため。
などなどよくある質問を答えていった。なるべく嘘をつかず、誠心誠意答えて言ったつもりだったが、どうしても答えられないものはあった。
特に個人情報や先日の事件など、無理なものは先にエルザさんが封殺していた。
「僕も……昔はあんなんだったのだろうか」
「ふふ、どうでしょうね。【不可視】様は捻くれていますので」
苦笑しながら言われた。
当初は1時間くらいの予定だったのに、完全にオーバーして2時間強話し続けていた。
とはいっても質問があって、答えがあってで半分くらいの時間か。
「しかし、よかったのですか?」
「何がです?」
「わざとここに留まるなんて」
そうなんだ。僕は一人だけ、挨拶をしておこうと思っていたからだ。
勿論、双子の妹などではない。というかよく考えたら僕らの年齢的に今年卒業か、留年しているかのどちらかだな、どうでもいいけれど。
「セリカちゃんの父親に一応ね」
僕の弟子ではあるのだが、弟子の父親でもある。
レイナさんとも繋がりがあるようだし、挨拶しても罰は当たらないはず。
【不可視】は立ち去ったこととしており、馬車も一旦既に立ち去っている。
少し時間が経てばまた戻ってくるように言っており、学生たちも既に立ち去っていると思っている。
エルザさんには変装してもらって、これから会いに行こうというところだった。
理事長室には2回程度来たことがある。
1回は最年少での入学した時。そして2回は退学させられた時。
学園の最上階にある理事長室までの廊下を二人で歩く。
勿論ここに学生たちが訪れることはなく、静かに進む。
「私は外で待っていますので」
「ありがとうございます」
ノックを3回、中からの反応の後に僕は扉を開ける。
「どうも、初めまして」
扉を片手で閉めながら、嫌味を含みながら僕は挨拶をした。
そこに座っている理事長は、困った様な、苦笑する様な、何を言えばいいのか迷った様な表情を浮かべている。
当たり前の話で、僕が何者かはわかっているようだ。
「…………初めまして。10年振りかな」
僕は許可を得てから理事長室の机と向かい合うような席に座る。
理事長室の中は由緒正しそうな賞状やトロフィーから、歴代の理事長の顔写真など誰でもここが理事長室とわかるような特徴を兼ね備えていた。
「あ、丁寧に話した方がいいかい?」
いつも僕が言っているようなセリフを先に言われてしまった。
僕は別にどちらでもいいので適当に答える。
「僕がいたころはまだ理事長はあの禿げたおじいさんだったと思いましたが」
「セリカの祖父だよ。私の父親でもあるが」
まあそれくらいは知っている。
わざとそう言っただけだ。僕を退学させたことについての文句はないけれど。
「いつもセリカが世話になっているね。まさか自分の娘が五大賢人の弟子になるとは思ってもいなかったよ」
「本当ですよね、僕も女子学生を弟子にするとは思ってもみませんでしたよ」
お互いに朗らかに笑う。
「ところで、セリカを弟子にした理由って何かあったのかい?」
「…………え?」
「え?」
理事長が何を言ったのかがわからなかった。わからなかったからこそ、僕はなんて返していいかわからなかった。
そして、理事長はその僕の反応がわからなかったので、なんて相槌を打てばいいのかわからなかった。
セリカを弟子にする理由?
そもそもセリカちゃんが父親を通してレイナさんの弟子入りしようとしていたのでは?
うん? つまり、レイナさんから強制されたことについて聞きたかったのか?
それにしては聞き方がおかしい気はする。
「いきなり【皇帝】から連絡がきたときには驚いたよ。社交性が高くて世間知らずな可愛い女の子を知らないかって。そして理由を聞くなとも」
……なんだ、これ。
僕の知らないところで何かが起こっていた?
これでは、まるで『レイナさんがセリカちゃんを求めたみたいに』。
「確かにノートル学園には多少【皇帝】のお眼鏡にも叶う女性はいるんだろうけど、それにしてもよくわからない要望だった」
「…………そうですか」
「そしてその後、君の弟子になったと聞いたときはどう反応すればよかったんだろうね」
「今のお気持ちはどうですか?」
理事長は苦笑しながらも肩をすくめた。
「今はまだって感じだけれど。もう少し年齢を重ねたら、君のような人と結婚してほしいと思っているよ」
「…………相変わらず僕への過大評価もすごいですね。僕が退学させられるときに唯一反対して下さったことに対しては感謝します」
あの時、この人だけが退学に反対していた。
そもそも僕を退学にさせようとした理由なんて雑なもので、魔力がない人間などいるはずがない。魔族によって何か呪われた者だという今思えば意味不明なものだ。
今もそうだが、全く理解ができないときには魔族や魔神のせいにされることはある。
だが、主に自分よりも10弱年下に学力的に負けることが許せない、僻んだ学生たちによるものだ。
「私は過大評価なんてしていない。よくもまあ今日も2時間以上付き合ってくれたよ。講演してくれた中では断トツの長さだよ」
……マジか。
流石に予想外だった。




