第7話 役立たずになりました
「師匠、そんなに物置って危ないなんですか?」
「ネーカを連れて行っても結構危険……と言えばわかる?」
ひえっ、と少女は体を震わせる。
それが如何に恐ろしい状況下すぐに理解してくれたようだ。
「そ、そ、そんな場所に……行かなければ?」
うん、行かないとより地獄を見るだけだから。
より怖がらせそうだから口には出さなかったが、行くのも行かないのも地獄なんだ。
大きく長くため息をつき、一旦冷静になろうと努める。
「とりあえずセリカちゃんも連れて行かないといけないから、心の準備だけして。なるべく五体満足で帰れるようにするから」
「ちょ、ちょっと、あの、それは……」
ネーカがいれば、僕の身の安全は確保されるのはわかっているが、二人を同時に守るのは難しいかもしれない。後で確認しなければ。
ネーカにも伝えると、非常に嫌そうな顔をして一言。
「厳シイ、コレカラ準備スル」
「何日くらい必要?」
物置に行く以上ネイカの準備は必須だから彼女に合わせなくては。
首を何度か傾げて、7と示した。
「今日……ですよね」
「うん、ネーカの準備もできたようだから、これから行くよ」
7日後の昼過ぎ、僕とセリカちゃんは緊張した面持ちで森を歩いていた。
散々彼女を脅したから、すごく怯えているようだが、それくらい警戒しておかないといざというとき危ないのだ。
「そもそも森の中に物置があるんですね」
「物置って言うのは比喩的な意味だけど、実際は洞窟かな。そこにレイナさんの大事な物とかを隠しているんだよ」
勿論、名前の通り物置なので重要度で言えば比較的低めなものが置かれている。他に倉庫や宝物庫などがある。
進むこと1時間以上、セリカちゃんを連れているから思った以上に時間はかかる。
それまで動物たちに出会うことなく、静かに、淡々と進んでいた。
「ぜろ、遅イ」
「ネ、ネーカちゃん?」
洞窟の入り口で待っていたのは大蛇だったが、その様子を見てセリカちゃんは足を止める。
10日前後前の時点では、僕らは見上げなければいけないような巨躯だったのだが……
「ち、縮んでます?」
「脱皮シタ」
全長10mくらいの大きさに縮んでいた。まあそれでも人よりも大きい。
原理は不明で見たことはないが、彼女は大きさを変えることができる。とはいえ小さくなれるだけで大きくなるためにはある程度時間が必要なようだ。
縮んだ状態でも彼女曰く基本スペックに変化がなく、牙による攻撃力や鱗による防御力は健在だ。
ネーカは僕に巻き付くことなくしゅるしゅると二人の周りをうろうろとしている。それくらいこれから向かう場所には警戒している。
洞穴は恐らく入る分であれば元々の巨大なネーカでも生活できそうな広さなのだが、流石に小回りが利かないから今回は小さくなってもらっている。
「入るけど、ネーカ。わかってると思うけど『二人とも』守るようにね」
こくこくと頷く。
流石にセリカちゃんも守ってくれると信じよう。
「暗いですが大丈夫でしょうか?」
それくらいは流石に僕も知っていたので、手持ちのランプを取り出していた。
魔力によって強化されているので、暗闇でも十分な光源を得ることはできる。
二人と一匹は慎重な足取りで洞窟内部に脚を踏み入れる。
正直大体の道筋は理解しているので、迷うことは多分ないのだが、道中の生物たちが非常に厄介だ。
「ネーカが基本的に広範囲の索敵してくれてるけど、高速で来たり、種類によっては抜けてきたりしちゃうから気を付けてね」
「こ、こんな場所でも広範囲索敵ってすごいですね……」
石筍や鍾乳石が連なっていて死角が多くなっているため、ここではネーカに頼らないといけない。
「せりか、褒メタ。嬉シイ」
尾を洞窟に擦り合わせて特有の威嚇音を周囲にばら撒きながら彼女は話す。
ネーカは魔力探知ができない代わりに、熱源と振動を感知できるため大半の生命体の位置がわかる……のだが、常に威嚇音を振りまいているので振動についてはかなり感度が落ちている。
ネーカとの実力差をわかって襲ってこないモンスターには有効なのだが、無機物に近かったり実力わからず突っ込んできたりするのが多くなると大変面倒になる。
「本当は暗闇のままの方が安全みたいだけ……ど、僕らが見えないからね」
いきなりセリカちゃんに向かって単独で突っ込んできて、それから見事にネーカの尻尾で撃ち落とされた蝙蝠を避けながら進む。
道の分岐としては僕が完全に覚えているから先頭に立たなくてはならない。
セリカちゃんがいなければネイカが殆ど巻き付いて防御してくれるから安心感があるけど。
「ネーカちゃんが守れない攻撃ってあるんですか?」
「主に投擲物やブレスみたいな遠距離攻撃かな。あとは数で攻められるとセリカちゃんにも対応してもらうよ」
はっきり言って僕は道案内しかできない。
「なるほど、これは遠距離戦を打ち合う対魔術師を考えての修業ですね!」
「うんうん、多分そうだよ」
ネーカが尾を地面に擦らせるようにして薙ぎ払うと、石筍含めて陰にいたトカゲのようなモンスターを吹き飛ばした。
やはり鍾乳洞に出てくるモンスターの多くは視覚が退化されている代わりに、ネイカと同じように熱源、超音波か魔力による探知だ。
「ぜろ、五月蝿イ、気ガ散ル」
苛々しているように僕に指摘してくる。僕を大好きとよく言ってくれているが、今は色々警戒しているためか不機嫌だ。恐らく僕とセリカちゃんの声の音的に僕の方が気に障る高さなのかもしれない。
「師匠、危ない!」
何かが飛来してきたのをセリカちゃんが魔法の球を放って相殺する。衝撃で巨大な石は木っ端微塵となり砂や泥などが僕に降り注ぐ。
「うん、助かったよ」
泥をかぶろうが、砂を浴びようが無事であればいいから今回はスルーしよう。
一つ言うと、その巨大な石はセリカちゃんを狙っていたよ。
「多分こんな感じでどんどん来るから気は抜かないでね」
「師匠はここでも魔力を遮断したままなんて、まだまだ余裕ってことでしょうか?」
もしかして僕が魔力を遮断しているという事実があるせいで、言葉だけで脅されたと思っているのだろうか。
まあ、正直途中まではそこまで面倒ではないんだけど、もう少ししたら身に染みると思うよ。
僕たちは洞窟を戦いながら進むが、少しずつ肌寒さが増していくのだった。