第69話 意外な再会
「それにしても、随分とまたこれは厳重な態勢ですね」
「流石に【不可視】様が初めて行われる講演ですからね。学校というのは部外者も入れなくはないのでこのような形となっております」
ノートル学園に近づいて、流石に尋常ではない量の警備の数だった。
ここまで警備があると、なんか笑えてきた。
唯の魔力のない凡人にどうしてここまでやるんだか。
そう考えると面白くなってきた。
僕は自然に笑みが出てくる。
「【不可視】様?」
「あ、いや、ごめんね。面白くなっちゃったよ」
馬鹿みたいだろ。この世界で一番ゴミみたいな一般人にこんなことをしているなんて。
緊張しすぎて笑えてくる。
懐かしい、この校門。覚えている。
12年前、僕だってまだ子供のころ夢と希望を胸にここをくぐったんだ。
10年以上経っているけれど、全然変わっていないな。
それはそうか……
駐車場には大勢の警備もいるし、生徒は一人もいない。
厳重に厳重を重ねたこの厳戒態勢の中、馬車の扉が開かれる。
僕は躊躇わず、何も考えず、しっかりとした足取りで着地する。
「いやぁ、いい学校だよ。まったく」
よく考えたら僕がこんなにピリピリしているのは似合わないんだよ。
へらへら適当に、レイナさんを見習わないとね。
「……迎えご苦労様」
警備の中で僕を迎えたのは、恐らくセリカちゃんの父親であろう理事長などのお偉いさん方。
そして僕は朧げな記憶の中で、彼だけは見たことがあった。
10年前、理事長は普通に職員だったはずだ。僕は彼に習ったことがあるはずだ。
そうか、あの時は苗字も興味なかったし普通にノートルダムの性なのに働いていたのか。
僕はフードを深くかぶり、目を合わせないでおく。
元々【不可視】とゼロが同一人物であると認識している人間にとって、このローブは役に立たない。
過去にレイナさんが学園全員の記憶を飛ばしたと言っていたが、それでも確証は持てない。
「ささ、【不可視】様。こちらへ」
そう言ったのは理事長ではなく、脇にいる禿げた偉そうな人。
偉そうというのは雰囲気がということではなく、単純にこの場にいるからそう感じただけだ。
セリカちゃんの父親である理事長は、恐らく40歳くらいであり他の人の中ではひときわ若く見える。実際の所、彼が理事長だと思ったのはその金髪と紺碧の眼であったからだ。
エルザさんが後ろに付き、僕を先に歩かせようとする。
それはそうか。ここで地位が高いのは残念ながら僕なのだから。
僕は必要以上には話さない。
何か外的要因があればエルザさんや周りの警備が守ってくれるのだろう。しかし、自ら話すことで余計な情報を渡したくない。
校舎内に入っても警備に数は相変わらずで、僕はゆっくりと初めて来たような体で歩く。
思ったよりも大丈夫だった、思ったよりも怖くはなかった。
それは、最近いろんなことが起きすぎているからかもしれない。
ここで起こったどうでもいいことに比べたら毎日が楽しすぎたのだから。
ご機嫌取りのように僕らに話しかけてくる男がいるのだが、殆ど返すことはない。
残念ながら僕は理事長始め経営陣にはあまりいい思い出がないのだ。
今は恐らく一新されているのだろうが、それでも苦手意識というのは拭えない。
「この扉を開ければ大講堂です」
僕は手を出さない。待っていれば、勝手に開くのだから。
随分と手厚いもてなしだよ、まったく。
この人たちに、僕は昔あなた方に退学させられた者ですよ、と告げたくなる気持ちが出てくる。勿論しないけどさ。
「…………」
懐かしい、大講堂だ。
いや、当たり前か。大講堂に連れてこられたのだから。
中には恐らく全校生徒と思われる数百人の学生がいる。
更に教職員も皆揃っており、何やら盛大な催し物が行われるらしい。
煌びやかではないものの厳かな雰囲気を壊さない程度に装飾された豪華な作りに、天井にはステントグラスで過去に勇者と思われる人物が描かれている。
壇上までの道は特別にカーペットがひかれており、更に警備が脇を固めている。
僕が足を踏み入れるだけで、漣のようにざわざわとどよめき、慌てて口を噤むという奇妙な光景。
なんか僕って有名人みたいだね。
「静粛に」
エルザさんが後ろから声を出す。
特段大きな声ではなかったものの、一瞬で静まり返る。
そのあたりで僕は気が付いた。五大賢人ってすごいんだね。
なんか僕の知り合いってみんなこういう反応を取らないから知らなかったよ。
よく考えたら世界最強の【皇帝】、その彼女を本気にさせた【運び屋】、【猛吹雪】、【要塞】、【粉砕者】、【支配者】と6人も二つ名持ちが周りにいるからか。
100人程度しかいないのに、僕含めると1割弱が周辺にいると。
僕はこっそりとセリカちゃんがどこかにいるのかな、と思い探していた。
多分流石にここで僕に絡んでくるほど常識がないとは思っているから、普通に座っているのだろう。
「あ…………」
「【不可視】様?」
…………なんで?
なんでここにいるんだ?
どうして、この場にいる?
「……様、【不可視】様!」
「な、なに?」
エルザさんが僕の肩を叩いていた。
そこで、僕は通路の途中で立ち止まっていたことに気が付く。
思わず立ち止まって固まっていたのを見兼ねて彼女が教えてくれたのか。
僕は全身から冷や汗が出ていたが、ローブに包まれているからばれていないと思いたい。
双子の妹がいた。
10年以上会っていなくても見間違いようがなかった。
僕と同じ髪の色で、僕と同じ目の色。
僕よりも少しだけ小柄で、スレンダーな体躯。
「ふふ、これは困った」
「【不可視】様?」
いや、なんでもないんだ。
これは困った……意外と何の感情も浮かばないなんて。
僕を怨んで蔑んでいた妹を見ても、何の感情も浮かばなかった。そもそも別人かもしれないけれど。
ただの大衆の一人だ。
多分、自分の双子の兄がこんな豪華な待遇を受けているなんて夢にも思わないだろう。
もう僕と交わることのない血の繋がった妹。いや、もう他人か。
僕はもうその苗字も名前も捨てたんだし。
僕は壇上に上がった。




