第66話 仮の休暇
「全く、何をやっているんですか!」
「いや、まあ、すみません。でも結果的に良かったじゃないですか」
馬車に揺られながら、僕はエルザさんに説教を食らっていた。
流石に彼女に誤魔化せる気がしなかったので、盗みに入ったということを言ったら全力で怒られているのだ。
セリカちゃんは旅行で遊び疲れていたのか、ぐっすりと僕の肩に寄りかかって眠っているので師匠の護衛といえどかなり声は小さい。
あのあと何事もなく帰宅した僕は実は青い布の封筒の中身を確認して、翌朝にはバカンスを切り上げることにしたのだ。
朝からオースティン卿から館が燃やされただのなんだの言われて、すぐに来るように言われたが、流石に義務もないので無視をした。ご勝手にどうぞという感じだ。
因みに馬車で来た使いは始めに来た下品な男だった。
馬車を待っている間に新聞の号外が配られており、今回は辺境伯であるロッテルダム邸に忍び込んだ義賊はそのすべての資産を無差別にばら撒いたのだという。
兵士が全力で犯人を捜索しているようだが、恐らく見つかることはないだろう。
で、馬車で帰っている間にエルザさんに種明かしと。
「別に義賊を取り逃がしたことはいいでしょう。五大賢人であるあなたが犯罪など……」
「そしたら、賢人やめますよ。僕は希望してないですし」
エルザさんは頭を抱えながら悩んでいるようだった。
ロミアちゃんは胸の下で腕を組んでいるのだが、大きい双丘が下から持ち上げられてかなり強調されている。多分そんなつもりはないんだろうけど。
「……ま、まあ資料が燃えなかったということなのでしょうか」
「そうですよ。小さいことを気にしたら負けです」
「……まったく、レイナ様といいゼロ様といい」
なんか今すごく失礼なことを言われたような気がする。まるで、僕とレイナさんが同一のように扱われているぞ。
時間が少し経つと半ば諦めたように声のトーンを落とした。
「で、資料はもう読んだのですか?」
僕は肯定する。
確かに禁呪についての資料で、僕が知らないことも結構書かれていた。
でもまあ必要以上に話す必要もないわけだから、ロミアちゃんにも見せることなくすぐにエルザさんに渡していた。
「後ほど、五大賢人とレイナ様には同一資料をお送りしようかと思っていましたが必要ですか?」
「いらないです。そのためにまた呼び出されたら迷惑ですし」
「あの……」
エルザさんが少し困惑した表情を浮かべている。
「もしかして、もしかして私のせいで気分を害されていますか?」
「……別にエルザさんに怒られたからじゃないですよ。美人に怒られる分にはご褒美ってことで」
僕はわざとお道化たように笑うが、内心では少しだけ冷や汗が出ていた。
深夜に言われたことを未だに引きずっているとは。
「ゼロ様は昨日あまり眠れていないからですよ」
多分、絶対に違うとわかっているもののロミアちゃんがフォローを入れてくれる。
エルザさんはそれ以上追及をするつもりはないようで、諦めたようにため息をついていた。
「まったく、もしもゼロ様の身に何かあれば私が怒られるどころじゃないのでお願いしますね」
「エルザさん、レイナさんの口癖が移ってますよ」
レイナさんはよく『まったく』というのだが、エルザさんも時たま言っている。やはり近い人間は似て来るのだろうか。
「全員無事だったから良かったじゃないですか。あ、オースティン卿への対応は魔導評議会にお任せします。面倒なので、というか僕に権限与えると私利私欲にとりあえず没落させようとしますので」
「それでも構いませんが、わかりました」
そして僕はこれ以上会話をする気はないことを示すように目を閉じる。
左腕辺りにセリカちゃんの体温を感じつつ、昨日のことを思い起こす。
結局のところ、あの義賊たちもわかっていたのだ。
自分たちのやっていることが正義ではないことを。上辺では辺境伯に従いつつ裏では犯罪行為をし続けていることを。
それをしても何も変わらないことを。
だからこそ僕に殺されることである種着地点を見つけたかったのだろう。でなければわざわざ世界で2番目に強いらしい【不可視】と戦おうとしない。
でも、残念ながら僕はそこまで優しくはない。
死ぬことですべてを解決させるなど、あまいことなど夢の中で抜かせばいい。
と、ここまで僕は妄想を膨らませていたのだが、真相は知らない。別に気にもならないし知りたいとも思わない。
僕がわかることとすれば、今回の義賊騒動で被害者となったのはオースティン卿であり、これはある意味自業自得ということだ。
自らの管理で民からの信頼を得られず、その結果義賊という偽善者集団を生み出してしまったのだから。
……なんで僕が他人の人生について考察しないといけないんだか。
自分自身の今後もよくわかっていないのに。
僕は思考を打ち切る。
はぁ……それよりも、帰宅してからの夕ご飯でも考える方が有意義だ。
バカンスとか言っていたのに、結局疲れてしまった。
やっぱり家でのんびりレイナさんの手伝いをしている方が楽しいな。




