第65話 隅の記憶
「やめない? そういうの。僕は君たちなんてどうでもいいし、ここで自由に義賊でもすればいいと思うんだ」
「正体を知られたからにはそうはいくまい」
5人が諦めるように戦闘態勢に入る。
つまり、この状態であれば死んででも戦わないといけないのか。随分早計な判断をする。
……となると、もしかしたら義賊というのは5人ではないのかもしれない。
オースティン卿の部下全員が義賊みたいなオチでもあるのだろう。
ということは、あの警備が縛られていたというのも自作自演なのかもしれない。
5人死ぬことで義賊が守られるというのであれば、やすい犠牲と考えているのか。
「君たちはなんで貴族から金を盗んでいるの?」
「【不可視】、お前からしたらこの町の表の部分しか見えていない。裏の部分など体験したこともないのだろう」
こんな狭い場所で戦う気なのか?
僕が見逃すと言っているのに……この際いうけど、僕が適当に鎌をかけたせいで大変な局面になったけれど、それはやめてほしい。
すぐにロミ君を盾にできるように一歩後ろに下がるが、独白している男には些細な動きに見えただろうか。
「あの海を維持するのにどれだけの金がかかっているか知っているか? そのせいで路頭に迷う者たちがどれくらいいるか知っているか? ゴミの中から食べ物を探す者たちの気持ちを知っているか?」
「…………」
僕は何も言わない。
勝手に話してくる彼の気持ちは今、どんな風なのだろう。それは遺言としてなのかな、自分のやってきたことを僕に肯定してほしいのかな、ただの自慢なのかな。
「だから、少しくらい貴族たちから金を拝借している。オースティンもそうだが、貴族たちはどこに犠牲が出ているのかもわかっていない。俺たちは間違っていない」
「いや、だから別にそれはいいとして、勝手にやればいいじゃないか。僕は見逃してあげるって言っているんだよ?」
「俺たちは権力に屈しない。屈してしまえば俺たちはただの犯罪者だ」
「多分どちらにしても犯罪者」
男が僕の言葉を遮るようにナイフを投げる。ロミ君が右手でそれを払う。
何気ない動きで僕でないと見逃しちゃうけれど、手を一旦一塊に変形させて受け流している。
一応僕もナイフを取り出していたのだが、その必要もなさそう。
つくづく僕の味方って強いなぁ。
完全に他人事のように感想を思い浮かべていた。
女性二人はさめざめと泣いているようだし、なんか本当に勝手に死ぬ気満々なんですけど。男三人は僕と戦う気なのかもしれないが。
話が通じないのも困るのだが、どうするべきか。
全く、はじめの方はよかったと思ったのだが、覚悟を決め過ぎている人は迷惑だよ。
「殺しますか?」
ロミ君も随分好戦的だこと。
「お互いに見なかった、それでいいと思うんだけどなんでそんな単純なことを受け入れてくれないのかな」
「本当にそんなことが可能だと思っているのか?」
「別に僕がここに来なければ、僕のところにこの資料を届けてくれるつもりだったんだろ?」
あの運転手の言葉が蘇る。
『【不可視】側としたらその資料があれば義賊を討伐する意義はないと』
「だからすぐにここに『何者か』が侵入したような形跡を残して、資料を盗む。裏で僕らに接触して義賊には関わらないようにする。じゃあそのままの作戦でいいだろ。面倒くさい」
「…………」
「何を警戒しているのかはわからないんだけど。多分僕は君らが思っているよりも脳筋じゃないんだよ。正直言うともう早めに家に帰って寝たいとすら思っている」
弾かれたナイフを拾う。
あまり証拠は残さない方がいいのだろう。
「はい」
と、僕は近寄って刃先をもって柄側を彼らに向ける。
「しかし……」
まだ何かあるのか。
もういい加減帰りたいんだよ。だって何もしないでこの資料が手に入るなんて最高じゃないか。
一つ懸念しているとしたら、この泥棒が僕の仕業だと思われるところだ。
だってわざわざ禁呪の資料なんて奪うのなんて僕くらいしかいないんだし。
「ロミ君、もう帰ろう。こんなどうでもいい奴らに構っていたら睡眠時間がなくなる」
「ふふ、わかったよ」
ロミ君というところに笑ったようで、印象にも残らないような微笑だ。
僕は背を向けてまず歩き出す、前にテーブルの上にナイフを置いておく。
ここで攻撃されてもロミ君が勝手に防いでくれると信じている。
人間はったり大事、特にこういう交渉術では嘘や演技、知ったかぶり知らんぷりというのは必要だ。
「……あ、そうそう」
廊下に片足踏み出したところで僕は振り返る。
まだ彼らは全く動いていなかった。
「できれば僕が盗んだと思われないように、この書斎でも燃やしといてくれると嬉しいね。それか書物沢山盗んどいて。どれくらいの価値になるのかは知らないけれど」
彼らがこれから何をするのかはわからない。
別に僕のせいにされてもいいし、どうせもういい加減外に出るのが嫌になっているころなんだ。
好き勝手に騒いでくださいな。
「最強だからこそ俺たちのような雑魚には興味がないのか?」
「よくもまあそんな風に捻くれられるね。僕も大概だと思っていたけれど」
僕からしたら君たちはみんな僕よりも強いし、雑魚なのは僕だ。
でも、雑魚だろうが何だろうが僕だってやらないといけないときはやる。ただそれだけ。
判断を間違わなければ、大抵のことは話術だけでなんとかなるし。
「僕は君らが雑魚だと思ったことがないけれど、単純に人って意外と周りのことなんて興味がない。自意識過剰も甚だしい」
これ以上話すこともないし、引き止められない感じだから帰るか。
自分が思った以上に苛立っていることを流石に自覚する。
「あ、ついでにもう一つ」
やめろ、僕の理性は自制しようとした。
何気なく僕の地雷を踏み抜いていることを、彼らは気が付いているわけがない。
そして理性とは別に僕の口は饒舌に回る。
「君たちは下水を飲んだことがあるかい?
君たちはネズミ型のモンスターを食べたことがあるかい?
君たちは
人間扱いされない経験はあるかい?」




