第64話 嫌な遭遇
「随分慎重ですのね」
「いや、まあ。流石に僕でも泥棒なんてしたことないし」
深夜、僕とロミアちゃんは二人でロッテルダム邸の近くに忍び込んでいた。
ロミアちゃんは完全に見た目を変えていて、多分すれ違ったら記憶に残らないような地味な顔に地味な体格、地味な印象しか与えないような男に変わっていた。
多分僕と話すときにはわかりやすくするために声はいつもの彼女のままだが、声帯まで変化させているのだろう。
「基本的に私が警備は倒していきますので、私とお話さえして下されば」
一緒に来いと言われたから何をさせられるのかと思ったら、全て三段や動きなどはロミアちゃんが指揮をしくれるようで僕はただの付き添いみたいになっている。
「なるべく殺さないであげてね」
別に僕だって生物を殺したことがないような不殺生主義というわけではない。ただ、ここにいる警備やメイドなどは無関係だ。
……まあそんな貴族の下で働いている、と言われてしまえばそれ以上僕は何も言えない。
ロミアちゃんは苦笑しながら了承してくれる。多分殺す方が楽なのだろう。
「ロミアちゃんって分身とかできるの? 二つに身体分けるみたいな」
「できます。というか今していますし」
え、全然わからない。
僕は彼女……彼の方を見るのだが、そこまでいつもの彼女と体積が違うようには見えない。
「セリカ様の時のように密度を濃くするのとは逆に、今はスカスカにしている形です」
「じゃあ今のロミアちゃんは体重が軽いってことだね」
「女性に体重の話は失礼ですよ?」
微笑みながら指摘されるのだが、そもそも現時点でロミアちゃんは男性の見た目だし、胸を押し付けてきて言っても何も表情の変えない者を単純に女性と括っていいのだろうか。
「……あら?」
門が開いている……?
多分遠目で見ても開いている気がするのだが、ロミアちゃんがそう見えるなら多分正確だ。
というかロミアちゃんの分身がどこかにいるのだろうが、先に進んでいるわけではないのか。てっきり片方が捕まってもいいように前面に押し出しているのかと思った。
「それに、警備もいない」
警備が常駐しそうな建物はあるのに、中からは気配が全くない。
小さな窓があるのでそこから中を見てみると、縛られた状態で床に転がっていた。
「……先客がいるのか」
「どうしますか? 一旦引きますか?」
どうするか。何が狙いか。
世間を賑わせている義賊か、単なる強盗か、僕と同じように資料を欲している者か。
悩んでいる時間もない。
「行こうか」
「わかりました」
開いている門をくぐって、玄関の扉も開いていることを把握する。
それにしても随分五月蠅く動いているものだ。
普通ばれたくなければ開けっ放しにしないのだが、これではわざわざ見せびらかすようではないか。ここに自分が侵入したと。
僕は一度昼間に通った道を迷わずに進んでいく。
あのオースティン卿がいた部屋は、書斎のような場所で寝室を併設している感じはしなかった。つまり、深夜であれば誰もいないはずだ。
そして何が怖いって、ここまで人が全く出会わないのだ。
廊下は電灯がついているものの、メイドや執事にすら出くわさない。
「既に先客はいない?」
「……いますわ、恐らくゼロ様が目指しているところに」
「はぁ、会話が通じる相手だといいんだけど。何人くらいかわかる?」
「5名程」
ロミアちゃんは間髪入れずに答える。
こんな豪邸に入るわけだし、5人と聞いて寧ろ少し少ないのではないかと思ってしまった。
でも、僕が相手をするには多すぎるしそもそも一人でもきつい。
「ゼロ様が何かするような相手ではないので、雑魚は私が」
本当に殺さないであげてね。
ま、まあ強盗だから最悪殺してもいいのかな。いや、でもなぁ。
「なるべく穏便にね。とりあえず会いに行こうか」
今更だけれど、これオースティン卿が普通にいたらどうしようか。
そう思ったけど、ここまで来たらなるようになるかという諦めで僕は扉を潔く開ける。
「……【不可視】か」
中にいる覆面をしている男女、黒い作業服だ。
書斎は非常に荒らされており、本棚や引き出しなど全てを乱雑に散らかっている。
僕ら二人の姿を見て、明らかに警戒度を増した。
そして僕のことを知っているのか。なんか気が付かないうちに有名になったもんだなぁ。
「どうしますか?」
「いや、敵対するな。敵対すれば殺されるぞ」
多分、僕の横にいる男の子ロミアちゃんを見てそう言ってるんだよね?
僕だって敵対した瞬間殺すほど鬼ではない。
「これを探しているんだろ?」
その中では中心と思われる男の声だが、なんで僕の周りでは悪役は作業服なんだろうか。
そして渡してきたのは青い布に包まれた紙束。
多分これが資料のはずだ。
「これを渡す。だからなるべく穏便に済ませていただけないだろうか」
「まだ僕は何も言ってないんだけどね。それにしてもよく僕がそれを探しているって知ってたね」
誰も何も言わなかった。
ロミアちゃんは静かにしているようだが、片時も警戒を解いていない。
恐らく彼女は片手で6名を殺すことなど容易いはずだ、僕含めて。
「ついでに義賊には手を出さなければいい、それでいいかな?」
「……話が早い」
男は注意深く資料を僕の方に投げ渡した。
「逃がしていいのかい? 殺すのは簡単だろ?」
ロミアちゃん……今はロミ君とでも今更呼びなおそうか。ロミ君はやや好戦的な視線で僕の方を見てくる。
「うーん、別にいいんじゃない? 義賊だろうとオースティン卿の部下だろうと別に誰でもいいし無暗な殺生はね」
「……!?」
「あ、やっぱりそうだったんだ。昼間会ったから背格好は覚えていたけど、流石に自信はなかったよ」
いつも通り当てずっぽうだったけれど、当たったみたいだ。
この5人は皆が義賊であり、皆がオースティン卿の部下なのだ。
そもそも僕の見た目で、この認識阻害が発動している姿を見て【不可視】だと判断できるということは最低でも服装からは認識できるのだろう。
今までに僕の五大賢人就任式でもそんな気はしていたが。
「というか、馬車の運転手さんのミスだと思うよ」
昨日の時点の話だけれど、僕はあるものって言ったのに運転手さんは資料って言ったし。
あと辺境伯の部下たちがグルでやっているなら色々楽だなーって思っただけだ。
「……やれやれ。なるべく敵には回したくないのに」
雰囲気が変わった。
まるで、僕らと戦わないといけない人のような雰囲気だ。




