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第62話 雑な交渉

 エルザさんは僕がいるからか、苛立っても仕事ということで黙っているせいで会話は残念なことに僕がしないといけないらしい。


「くだらん認識阻害の魔法を使いおって。俺が誰かもわかっていないとは。ほら、さっさと姿を現せ。【不可視】の顔を拝んでやろう」


「いえ、結構です」


「あ?」


「だから結構です。別にあなたに見せる理由もないですし。それに僕はあなたが誰かも知らないので」


 明らかに挑発するのだが、これに乗る時点で終わりだ。

 オースティン卿は青筋が浮かぶんじゃないだろうかと思えるような程憤慨しており、プライドだけは一人前だ。


 机の上には恐らくその禁呪に関する資料が青い布に包まれているが、目的のものはあれか。



「こ、この俺を知らんだと? この俺を?」


「エルザ、構えていいよ。次に敵意を見せたら自由な判断で殺してもいい。その辺は僕が責任とるから」


 後ろに立っている護衛が構えるのがわかる。

 この貴族ってバカなんだろうか、そもそも僕らがあなたを殺さない保証なんてないだろうに。自分は貴族だから従うって思っているのかな。


「おい、この俺は侯爵だぞ!? 俺を殺して無事なわけがないだろ!」


「……黙れ三下が。権力だけ肥大した豚が」


 おおこわ。

 エルザさんがどすの利いた声とか出せるんだ。


 僕が構えていいと言っている時点で、多分もう静かにするつもりもないって判断したのだろう。


 僕は注意深く彼を観察している。

 とりあえず彼の後ろにいるメイドさんたちがとても怯えているのはよくわかる。



 ……貴族だけあってそういう脅しには効かないというところか。

 まあ別に僕からしたらどちらでもいい。手渡しをしているから今は相手のターンだ。



「ふん、女の癖に生意気な。だがそういう強気な女も嫌いじゃない。おい、俺の女になれ」


 なんか、恥ずかしくなってきたんだけど。

 ここまで清々しい貴族を見て、なんか本当に羞恥心が芽生えてくる。


 なんで見てる方がこんなに恥ずかしいんだ!



「よし、帰ろうか」


 僕は面倒になって席を立つ。

 会話にはならなそうだしいいか。


 こちらがターンを渡してあげたのに、それを無駄に使う人と交渉は無理そうだ。



「ふざけているのか?」


「こちらが下手に出てあげているから生きていられるものを【不可視】様に感謝して頂きたいですね」


 緊迫した雰囲気に、主にメイドさん二人がただひたすらに気配を消して自らは置物であるように振舞っている。


「この貴族である俺を脅す気か?」


「知っていますか? 貴族って生きている者にしか与えられないんですよ? 死んだ者には死体以外の名前はつきません」


 いや、なんでエルザさんはそろそろ僕の出番ですよ的な目で見てくるんだよ。

 まったく、僕のことを何でと思っているんだか。


「じゃあこれで。もしも必要であればまたお呼び出し下さい。行くかは知りませんが」


「ぐ…………うぐ」



 エルザさんと自分自身の実力差はわかるのだろう。

 無暗に噛みつかない辺り、多少はまともな感性の持ち主だろうか。


 誰にでも噛みつけばその年齢まで生きていられないだろうし、主に社会的な意味で。



「それでは失礼します」


 二人で部屋を出て、僕は一息つく。

 慣れないことはするものではないことはよくわかる。


「とりあえず帰りますか」


「馬車がいなければ最悪歩いて帰りましょう」


 エルザさんからしても、僕が雑な対応をしていたからわざわざ色々勝手に乗ってくれたようだ。

 即興で僕の演技に合わせられるなんて流石はレイナさんの護衛だ。



「……帰るのか」


 帰りは薄汚い男ではなかったが、オースティン卿の部下であることには変わりないようだ。僕らに視線を合わせることなくすぐに馬を走らせ始めた。

 


「あれでよかったのですか? 【不可視】様が何を狙っていたのかはまだ測りかねていますが」


「大丈夫大丈夫」


 僕には考えがある。

 そもそもはじめ考えていた通り、実際僕とオースティン卿の立場は簡単なのだ。


 オースティン卿は禁呪の資料という手札にカードはあるものの、僕はあくまでもそのカードを見てからこちらの手札を公開することができる。

 その時点で僕らは対等な関係ではない。


 貴族がどう吠えようとも、彼自身が手札を切らなければこちらが何かする必要もない。

 今のオースティン卿は、手札のカードを出したくないとごねる子供のようで、ゲームのテーブルにも座っていない。



「本当に困っていたらまた呼び出されるよ」


 しかしあの様子を見るにマッチポンプをしているわけではなかったのか。

 

 僕がその領主だったら、まず自ら民を税金やらなんやらで締め付ける。

 そして、自分の部下に義賊を名乗らせて金を盗んだ振りをする。


 自分の味方をするお店や施設に金をばら撒くことで、税金を徴収しつつ民の怒りも多少は抑えることができるというものだ。


 だが、あの様子では流石になぁ……



「残念過ぎてダメだね」


 もう一つ、僕は残念なことに気が付いていたのだ。

 始めから資料はロミアちゃんに頼んで奪ってもらえばいいのではないかと。


 ……無駄にエルザさんをセクハラの視線に晒しただけだったのか。

 少し反省だ。


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