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第61話 禿の貴族

そこから数日はのんびりショッピングや観光などのんびり過ごしていたのだが、意外と僕は楽しんでしまっていた。

……これでは魔導評議会の思うつぼではないか。


正直言うと、僕は生まれて初めて旅行というものをしているのだから当たり前と言えば当たり前か。



 それ故、あまり考えたくなかった仕事を前にして、僕は非常に渋ることとなった。


「留守番を宜しくお願い致します」


「私もいかなくていいですか?」


 ロミアちゃんが少しだけ心配そうに聞いてきた。

 僕は適当に手をひらひらとしながら断った。セリカちゃんを一人にして迷子になっても困るだろうし、一人くらい保護者を残さなければと思ってのことだ。


 それに、エルザさんも禁呪相手でなければそこまで引けを取らないと思っている。

 別に確証はないけれど、うちの師匠がこの人を護衛にしているという事実があれば僕からしたら十分だ。


「セリカちゃんが出掛けるときは一緒についていくようにね」


 エルザさんに連れられて僕は宿を出るのだが、外には無駄に豪華な馬車が止められている。僕の目から見たら、魔導評議会に行くときに使っているものの方が拡張は高そうだし、正直センスがある見た目ではない。

 ……これを用意した誰かの美学は僕には理解できないんだろう。


「オースティン・ロッテルダム卿ですよ」


「え?」


「これから会う辺境伯の名前です。そしてこの趣味の悪い馬車を送った」



 ……よかった、僕だけじゃなかったのか。

 そして中からは従者が僕らを迎えてくれる。


 正直僕らを見る目はあまりいい感情には見えない。

 僕からしたら、非常に下品な目線というのが正しい表現だと思う。エルザさんを見る目は五大賢人の護衛ではなく、ただの女の価値を見る目だ。


 対するエルザさんも明らかに不愉快な表情を出して、従者を無視してさっさと馬車に乗っていった。



「お前、オースティン卿に会う癖に認識阻害なんか使うのか? 解除しろ」


「無理」


 僕への礼儀は別にいいが、そもそも礼儀を持たない人相手であれば僕もわざわざ礼儀正しく話す必要はない。


「それなら会わせるわけにはいかない」


「うん、じゃあ行かないよ。別に僕はその何とか卿に興味もないし」


 だって、君はただの命令を聞く人だろ?

 君が勝手に判断したらどうなるかぐらいわかると思うけど。


 僕は選べる立場で、君は選ばれる立場だ。それくらい(わきま)えてほしい。



「…………ちっ、早く乗れ」


「見知らぬおっさんに絡まれていなければ早く乗れたのになぁ、不思議だなぁ」


 一つの感情に振れている者はわかりやすい。

 僕は男を観察する。


 身なりは悪くはないはずなのだが、どうにも身分は低そうに見える。


 服に着られているという事だろうか。

 そして、明らかにだらしない肉付きの良すぎる体、人を見下しているような目つき、これを見て都市の民はどう思うか。


 そこからオースティン・ロッテルダムがどのような人間像かを思い描く。

 別に全力で五大賢人のために頑張るつもりはないけれど、可能な限りレイナさんの期待には沿うつもりだ。



 従者は僕らと同じ空間にはならず、馬を操っている。

 馬車の窓から見える景色を見るに、丘の上にある豪邸を目指しているのだろう。


「勿論私が何かあれば動きますので、なるべく穏便に宜しくお願いしますね」


「穏便ね、それくらいはわかってますよ」


 わかっていると言ったけれど、別に従うという約束はしない。

 ただ、正直なところ無力な僕が切れる手札というのは、五大賢人であるという虎の威を借る狐くらいか。



「しかし下品な従者ですね。貴族というのはこういうものなんですか?」


 僕は聞かれても問題ない声量で質問する。

 エルザさんも苦笑しつつ、肯定も否定もしなかった。



「それにしても、その貴族様が何の用でしょうね」


 始めから何か交換条件に禁呪に関する資料を譲渡するということは想定している。

 協力する気があれば本部に持ってくるだろうし、何かこの都市でやらせたいことでもあるのか。






「お前らにはこの都市で犯罪を働くゴミの盗人を捕まえろ。そうすればお前らが欲しいこの資料を渡してもいい」


 だからこそ、あまりにも予想通りな辺境伯の言葉に僕は失望を隠せなかった。


 ……えー、つまらない。



 屋敷について、雑に扱われた僕らは明らかに招かれた側の待遇とは思えなかったが僕は興味もなく辺境伯に会った。


 エルザさんがかなり苛々しているのが何となくわかるが、どうでもいい。


 挨拶も大してなく、僕らに座るようにも言う事もなくいきなり本題に入ってくれる辺り時間の有効性を知っているようだ。



 オースティン・ロッテルダムという人間は、50歳代であろう男で怠惰という言葉が似合うようなだらしない体つきだった。

 普段から運動などしていないのだろう、来ている豪華な服もぱつんぱつんでお世辞にも似合っておらず、芸術品としては三流だろう。というか僕では作れない芸術性はあるかもしれない。

 座っているせいで僕らはやや上から見下ろす形となり、頭部のスケスケになっている髪の毛から頭の防御力は低そうだ。

 脂ぎった肌をしており、脂肪が多いので多分焼いたら油まみれで野菜などを入れて炒めれば意外と合うかもしれないが、そもそもおいしくなさそうだ。


 僕はとりあえず、オースティン卿に一礼することなくそこにあるソファに座る。

 正直に言おう。もう帰ってもいいんじゃないかと思ってる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゼロ、将来天然の煽り厨になりそう [気になる点] そういえば…プロ野球にオースティンっていう人いたな。() [一言] 前回の感想、お恥ずかしい限りです。記憶力糞雑魚ナメクジな私。
2020/10/23 01:22 ハリケーン
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