第60話 海の浜辺
次の日もセリカちゃんのご機嫌は戻らないのだったが、面倒になったのかロミアちゃんは僕と二人きりにならないことを約束したので多少は改善傾向だ。
しかし、この少女は僕の近くからずっと離れないし、自由になれる時間は与えられないようだった。
「まったく、こんなに暑いのに海に行かなくても」
僕は一人パラソルの下でぼけーっとしていた。
観光地である海辺にはたくさんの人々で賑わっており、如何にここが平和な世界であるかがわかる。特に、カップルで水着になってイチャイチャしているのを見ると、ここが人間社会なんだと思わされる。
そしてセリカちゃんや年甲斐もなくエルザさんが楽しそうに水をぱしゃぱしゃと遊ばしているのに対し、ロミアちゃんはのんびりと砂のお城を作っている。
……もしかしてそれは魔王城だったりするんだろうか。
同じ金髪だし二人は姉妹のようにも見えなくはないが、よく考えたら姉妹にしては年齢が離れすぎているか。
そしてその妹の方が子犬のように僕に駆け寄ってくる。
「ゼロ様ゼロ様! この水着どうですか!?」
「うんうん、かわいいと思うよ」
セリカちゃんがワンピース型の水着を見せびらかしに来る。
僕が適当に返事をしているのにも理由があり、今日この会話は既に3回目だからだ。
流石に回数をこなしてくると僕だって適当になるよ。
「うぅ、でも視線はロミアさんやエルザさんばっかりです」
エルザさんは黒のビキニに上から白いシャツを着ている。身長の高い彼女はスタイルがいいのでどんな水着を着ても似合うのだろうが、シャツで肌を見せる量を減らしているようだ。眼鏡も外しているので結構普段と印象は違う。
一方ロミアちゃんは花柄のセパレートタイプのパレオでの水着姿だが、これは昨日金髪美人二人で買いに行っていたらしい。
「まあセリカちゃんはこれからの成長期に期待しよう」
「……私もう身長全然伸びてないです」
残念そうな表情だが、多分こういう小柄な美少女が好きな人はいっぱいいると思う。
現に僕が遠くから見ても、知り合い3名がナンパされているのは何度も確認できた。
男たちも放っておかない美人たちのようで、僕は鼻高々と他人事を決め込んでいる。
「ゼロ様は泳がないんですか?」
「うん、僕は水が嫌いだからね」
下手な断りを入れると、無理やりでも連れ出されそうだったため本音を言う。
僕は水が嫌いだ。
「え、そうだったんですか? でもお風呂とかは」
「浸からなければいいんだよ。でもこういう海とかはね……」
あ、またエルザさんがナンパされてる。
これカウントが片手で足りないんだけど、すごいねこれ。
「そしたらなんで海に来たんですか?」
「…………いや、君が僕に来いと言ったじゃないか」
セリカちゃんは僕の横にぺたんと腰を下ろした。
彼女は不思議そうに僕の方を見てくるが、何か僕は変なこと言ったか?
「ゼロ様って拒否しないですよね。別に嫌だったら無理しないでもよかったのに」
「僕はイエスマンだからね。というかレイナさんを知ってるんだからわかるでしょ」
あの人がいなければ僕だってもっと自己主張はあるさ。でも抵抗する虚しさというか、無意味さというか、やる努力が無駄なんだよ。
「そうですか? レイナ様ってゼロ様から聞くよりもすごく普通の方ですか」
……僕に対してだけなのか、もしかして。
いや、それはそれで困る。あ、でもエルザさんがいるはずだ。
「それにしてもこのあたりすごい人数だよね。みんな暇なのかな」
「……観光地ですからね」
何を当たり前な、とでもいうような顔をされた。
僕だってそれくらいは知っているよ、それを踏まえたうえで人数が多いなーって。
セリカちゃんは何か気が付いたように少し首を傾げた。
「あと、私も昨日知ったんですけど、ここ最近何やら大怪盗?みたいな人がこの都市に現れているみたいなんです。貴族とかお金持ちから泥棒をして、貧しい人に配っているみたいです! すごくいい話ですね!」
……盗まれる方からしたら全然いい話ではないのだが、というか君は上級貴族だったと思うんだがその辺はいいのだろうか。
しかし、それは面白い話だ。義賊というやつか。
犯罪は犯罪だが、そういうものを取り締まるためにいる兵士たちの中には密かに応援している、協力しているものもいると教えてくれる。
「それで物珍し気に観光客が増えるってことか」
「みたいです」
「何のお話でしょうか?」
「エルザさん、お帰りなさい。ナンパされ過ぎてカウントしてましたよ」
ややげっそりした表情で師匠の護衛は戻ってきた。
シャツをビキニの上からきているせいもあって、一瞬全裸にシャツ一枚という変態的な格好にも見えなくはないが、海だしそこまで違和感がない。
「なんか義賊が出てるって話を聞いて」
「そうみたいですね。一応評議会のほうにも情報は上がっていました」
でも、特別五大賢人が動くようなものでもないから地元対応という事みたいだ。
貴族からしたらとんでもない迷惑ではあるが、そもそも仲がいいわけではないこちらサイドとしてはスルーという事か。
「それにここの辺境伯は相当お金を民から巻き上げているようですしね。その鬱憤を晴らされているようですし、よかったのではないでしょうか。民あっての領主ですよ」
エルザさんが真っ当なことを言っている。
流石にその意見には僕も賛成だ。
組織というのは何事も飴と鞭でバランスを取らなければならない。金を巻き上げるなら何か還元しなけなければならない。
一方的な搾取というのは後々面倒なことになるに決まっている。
「ふーん、まあいいか。ところで二人とももういいのかい? まだ遊んでてもいいけど」
「ナンパが多すぎてもう疲れました」
「たくさん遊んだので満足です!」
……あとは、完成度の高すぎるお城を作って注目を集めまくっているロミアちゃんをどうしようか。




