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第6話 物置に行くことになりました

 それから数日、僕らは畑を耕したり、植物を採取したり、大半が僕の雑務に付き合ってもらっていた。

 館にある一番小さな安全なナイフで野菜をきるという修行を毎日とりあえず続けていくことにした。基本的には切らなくても、つぶされても問題ないようなものにしておけば被害も少ないだろう。


 刃物がダメとは言え小さいナイフなら大丈夫だろうと思った僕の希望は砕かれることが続いているが、少しずつ慣れてきているのかもしれない。

 はじめと違って一心不乱にやらなくなっただけ成長かもしれないけど、まだまだ道のりは厳しい。



 セリカちゃんは僕に魔法の修業をしてほしいと言ってこないことを一度疑問に思って聞いてみたところ、答えは単純明快だった。


「師匠が私に言わないってことはまだそのレベルじゃないんだと思います! それならまずはその状態になるまで自分で鍛えろってことと考えました!」


 ……なるほど、それならその日は一生来ないと思うんだけれど大丈夫だろうか。


具体的な特訓方法は聞いていないが、森の中で危険がないようにネーカに裏で見守るように指示は出している。

 渋々だが僕の命令を聞いてくれたので、この前巨大なブラシを手に身体を拭いてあげた。4時間ほどかかったが、セリカちゃんに危険がない方が大事だ。

 最早彼女がセリカちゃんの師匠かもしれない。


「森のモンスターを狩ってくれるから、僕としても助かってるよ」


「結構強いのが多いので、不安ですけど師匠から教えを受けるために頑張ってます」


 そもそもそれだけで修行になっているような気もするし、僕いらなくない?



 ちりんちりん、と壁にかかっている鈴が鳴り響く。

 ……あれ、こんな時間に珍しい。


「何の音ですか?」


「商人が来たみたい。この森だけだと流石に自給自足は難しいからね」


 セリカちゃんは窓からこれから来る商人の顔を見て、勢いよくこちらに振り向いた。


「鳥人族なんですね、初めて見ました!」


 背中に強靭な翼をもつ、頭部が鳥類の種族だ。

 数はそこまで多くないが皆強い力を持っており、更に人間に敵対感情を抱いていることが多いのであまり鳥人族と交友を持つ者は多くない。

 

 恐らく僕が商人だと先に言っているからそこまで怯えていないのかもしれない。それかネイカと違って人型だからかもしれないが。


「ついていっていいですか?」


 僕が答える前に既についてくる準備をしてるけどね。

 苦笑しながら許可を出すと、子犬のように僕の周りをくるくる動き回りながら嬉しそうについてくる。


「サイオンさん、日中に来るのは珍しいですね」


 こくり、と鷲のような頭部を持つサイオンさんが頷く。

 彼は鳥人族最強の戦士で、他の種族を含めても世界で5本の指に入るほど強いともいわれていた。過去にレイナさんを本気にさせて数少ない人物で、その時に師匠に喉を潰され声が殆ど出せなくなっている。

 正しい表現で言うと、その時に片眼と喉を潰され、翼を折られ、両足を砕かれたとかなんとか。



「何か珍しいものでも手に入りました? 生憎師匠はいないので、後日になるとは思いますが」


 僕だけで買うのは必需品や便利アイテム、書物くらいだ。

 夜行性であるサイオンさんがわざわざ日が出ている間に来るなんて何か特別な事情があるはず。


 右眼を潰すような傷跡や、嘴の一部が欠けている強面フェイスを見て、セリカちゃんは怖がっているかどうか確認しようと隣を見ると、彼女は目をキラキラさせてじっと見つめている。


「師匠! この方もしかして【運び(キャリヤー)】様では!?」


 ぴく、と隻眼の鳥人の眉が動く。

 一瞬目線だけセリカちゃんの方に向けるが、すぐに僕の方に戻る。この動きは、この娘誰だ、ではなくよく知っているな的な反応だ。師匠ほどではないが、僕もサイオンさんともう交友関係は長いからこれくらいはわかる。

 彼女は興奮した口振りで、隻眼で傷だらけの鳥人で【運び屋】と呼ばれていることを僕に説明してくれた。随分詳しいね、君。


「確かにレイナさんに本気を出させるような人が二つ名持ちでも不思議じゃないか」



 着ている軍服のポケットから一枚の封筒を取り出して僕に渡す。

 これはセリカちゃんに渡している封筒と同一だからレイナさんからの手紙だ。


「レイナさんからの手紙だからこの時間に来てくれたんですね、ありがとうございます。いくらですか?」


 運搬や取引などでのお金は基本的に言い値だ。それは僕ら二人が彼を信用しているからであり、今までこれに困ったことはない。

 サイオンさんは黙って首を横に振り、数歩下がって翼を緩やかに羽ばたかせ始める。


 彼も忙しいのだろう、風圧に押されて少し下がりつつ郵便屋さんに頭を下げる。セリカちゃんはスカートを両手で押さえつつ深くお辞儀をした。



「寡黙な方なんですね」


「あー、まあそうだね」


 別に今すぐ訂正する必要もない。彼が来るのは大体数週間に一度で、僕の弟子と会う機会はそう多くないはずだ。


「師匠の周りにはすごい人しかいらっしゃらないんですね……」


「……うん、ほんとにね」


 僕の周りはすごい人しかいないのは否定しない。僕だけが恐ろしく劣っているわけだが。

 セリカちゃんは二つ名に出会えたことが嬉しかったのか、鼻歌を歌いながら家に戻っていく。


 さて……この手紙を読むべきかどうか。

 僕は高級な世界樹の葉を大量に淹れた紅茶を飲む。


 セリカちゃんも興味はあるようで、僕の対面でゆらゆら髪を揺らしながら待っている。


「開けないんですか?」


 三杯目を飲んだあたりで、痺れを切らした弟子に声をかけられる。その間無言で待っててくれていた辺り優しさを感じるね。


 正直開けたくない。開ければまた無理難題が言い放たれるのだ。

 開けると師匠に伝わるようになっているらしく、開けていないとそれはそれで怒られるのだ。


「さて、開けるぞ! うん、開けよう。よしよし開けるぞー!」


「…………」


 セリカちゃんの憐れむよう視線を感じて僕は勢いよく開けることにした。


 手紙に書かれていた文章は短い。



『一緒にあたしの物置の掃除も宜しく。いつもあなたを見ている師匠より』


 …………マジですか。


「物置ですか? これからやりますか?」


 どうする。物置に行くなら流石にネーカを連れていかないとダメだ。

 場所的にはセリカちゃんは連れていきたくはない。だが、この文面に『一緒に』と書かれている以上避けることはできない。


「師匠?」


「ちょっとだけ考えさせてもらってもいいかな?」


「物置の掃除をですか?」


 何も知らないセリカちゃんはニコニコしていて当たり前だけど、ことの重大さに気が付いていない。

 あそこに行くという事は、それなりのリスクを背負わなくてはならない。



「セリカちゃん、師匠のいう物置っていうのはね」


「はい」


「君が思っているよりも圧倒的にかなり危険な場所だよ」


 僕はこれから行かなければならないという現実に対して頭を抱えずにはいられなかった。


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