第56話 幕間のデート その2
「ぜろ、ドウシタノ?」
深夜、僕はネーカのところを訪れていた。
星が宝石のように暗闇に散りばめられており、上を見上げてのんびり過ごしてみたい気分になった。
「星を見に来たついでだよ、ちょっと頭に乗せて」
ネーカは嬉しそうに舌をちろちろ動かし、首を下げて僕が登りやすいようにしてくれる。
僕は彼女の上に乗ると、別に目的もなく散歩に行くことにする。
「今日、ネーカと初めて会った場所に行ってきたよ」
ネーカは何も言わない。基本的には僕が彼女に語るようなスタンスになることが多い。
理解力は高いのに、喋るのはあまり得意ではないからだ。
「昔はすごく小さかったのに、僕が頭の上に乗れるくらいには成長したよね」
今更ながら思うが、この大きさでこれ以上大きくならないのはオールの生命力とネーカ自身の消費量が釣り合っているという事なのだろう。
「ぜろハ大キイねーか嫌イ?」
「別に好きでも嫌いでもどっちでもないよ。大きくなったから頭の上に乗れるけど、小さいと一緒に出掛けられるし。成長に好き嫌いはないと思う」
器用に僕に負担にならないような動きで首を傾げたネーカ。
どう返せばいいか考えているようにも見える。
「この辺が背の高い木々も少ないし、止まっていいよ」
彼女の頭から降りて、蜷局を巻いてもらう。
ネーカの鱗はかなり頑丈ですべすべしているが、座っていても苦にはならないような温かみもある。
「ネーカ、少し聞いてもいいかな」
「ウン?」
「ネーカは僕が君を助けたから好意を寄せてくれるのかい?」
少しレイナさんと話していてモヤモヤしていた。
答えを聞きたいという思いと、答えを聞きたくないという思いの両方がある。
ネーカは僕の方を見て、その爬虫類特有の瞳がすぐ近くまでずいと寄ってくる。
普通の人から見たら恐怖体験なのだろう、普通の人にとっては。
「ぜろ、ねーかノ事勘違イ」
「勘違い?」
「ぜろ、ねーかヲめすトシテ接スル。ダカラねーか、ぜろ好キ。せりか、もかト違ウ。怖ガラナイ」
……そういう事だったのか。
セリカちゃんやモカちゃんが初めてネーカと会ったとき、大なり小なり恐怖している。それは彼女が大きいからというのもあるが、蛇という違う種族によるものが大きいのだろう。
僕は彼女の小さいころを知っているし、彼女をモンスターだからと言って否定したことも拒否したこともない。
僕自身が人間という同じ種族から否定されているから、なるべく誰も否定したくない。
それは大蛇のネーカも勿論そうだし、ペガサスのペガス君、種族はわからないが液体のロミアちゃんにも当てはまる。
「……それは僕がネーカと昔から一緒にいるからだよ」
少し昔を思い出した。
誰からも人間扱いされなかった僕を、好き勝手に助け出してくれたレイナさん。
ネーカと僕との関係に少し似ているのかもしれない。
「ソウ?」
「そうだよ」
苦笑しながら否定してみる。
ネーカはご機嫌そうに舌をちろちろ動かしている。
「ぜろ、ねーかト交尾デキレバイイノニ」
僕は流石に噴き出す。
全然イメージはできないし、というかそもそも僕はノーマルな性癖だから流石に無理だ。
ケモナーと言われる種族であればいけるのかもしれないだろうか。
「大きさもそうだし、生態的に無理だよ」
「ウン、知ッテル」
まったく、この蛇も面白い冗談を言ってくれるじゃないか。
「いつかネーカに釣り合うオスが見つかるといいんだけどね」
大きさは勿論だが、この種の蛇を見つけたことがないのだ。
それはオールの影響なのか、元々ほとんどいない種類なのかは判断がつかない。
それでも、僕の初めてできた友達の幸せは流石に願っている。
「さて、そろそろ戻ろっか。随分のんびりしちゃったし」
「ノル?」
「いや、大した距離でもないから歩いて帰ろうか。少し運動しておかないと太っちゃうし」
僕の周辺で身体を木々に巻き付けながらするすると移動するネーカ。
確かにこれを怖がる人もいるのだろうが、この程度で怖がっていたら僕は多分既に二桁回数はこれを超える恐怖体験をしている。
「ぜろ、機嫌イイ?」
「いいよ、まあいつもいいんだけどね」
森の中をゆったり歩く。
一人と一匹ではあるが、たまにはこういうデートも悪くはないね。




