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第55話 忘れ物

「レイナさん、少し聞いてもいいですか?」


「数分なら別にいいぞ。てかそっちの二人は座ったらどうだ?」


 僕はレイナさんが何か言わなくても座るのだが、流石にセリカちゃんとモカちゃんは世界最強を前にそんな無礼は働かないようだ。



「ネーカって昔あの山で拾ったじゃないですか」


「そうだな」


「あの子にも何らかの影響ってあったんですか?」


 師匠は思案するような表情に変わった。

 それは、僕に話すべきか悩んでいるようにも見えるし、そもそも今から考えているようにも見える。どっちだろう。


「あの蛇はな、山を通してオールから生命力を引き継いでいる。だからほぼ不死に近い」


「不死ですか?」


 レイナさんは目を細める。


「正確に言えば不死ではなく、死んでも同じ個体に輪廻転生するということか」


 あの山には殆ど生命体が存在していない。それは山と同化しているオールからの生命力の譲渡に耐えられなかったから。

 ウロボロスという紋様があるように、蛇が自らの尾を加えることで円環を作る。それは世界であり、完全という意味。蛇にオールからの生命力が譲渡された……とか適当に思っておこう。


 そして僕は少し思い当たる節があった。

 彼女は大きさを変えるとき、絶対に僕が見ないタイミングで行う。脱皮を行う程度であれば隠す必要もないのだ。


 もしかして、彼女は毎回わざわざ死んでいたのか?


「ゼロちゃんが思っているならそうなんじゃねえのか。知らんけど」


 隣で座っているモカちゃんが、そっかぁと納得したような言葉を発した。

 僕はそれについて聞いてみると、つい先日ネーカにあった時の話をする。


「いくつか思考があったみたいって前に言わなかった? 多分あれって前の記憶なんだと思う」


「まあそういうことだ。あいつは同一個体ではあるものの、完全に一致しているわけでもないようだ」


 そしたらあの時僕が見つけた、死にかけていたネーカは、仮に放置していても新たな個体として生まれ変わっていたのか。

 更にそれに気が付いていたレイナさんは回復させる必要もなく、もしかしたら一回殺したのかもしれない。


 ……僕は余計なことをしたのだろうか。



「ばーか、そんなことはないだろ」


 レイナさんが僕を軽く小突いた。

 僕の師匠は驚くべきことに、口に出さなくても異常に伝わることがある。


 勿論、10年近く一緒にいるからなのだろうが、それでも仕事で彼女は家を空けることがあるのだから期間にしたら8年弱なんじゃないだろうか。

 でも、いろんな人に僕の心が読まれている気もするから自分が思っているよりもわかりやすい人間なんだろう。



「それに気になるなら今度ネーカに聞いてみろよ」


 ……まあそれはそうか。

 ネーカは多分僕が助けなくても不死で生きているんだろうけど、それでも僕は彼女と出会えて楽しかったわけだしね。



「だからあいつはあたしのことを目の敵にしてるわけだ」


「ある意味親の仇みたいなものですしね」


「そういうことだ、ただあいつはそのことには気が付いていないのかもな。本能から本気であたしを敵だと思っている節もあるし」


 師匠が言うには、ネーカを威圧しても魔法に負けることなく威嚇してくるのだそう。

 そう考えると遺伝子レベルで染みついているのかもしれない。親であるオールを殺している敵のレイナを許さないと。


 そうか、だからレイナさんはそこまで大蛇が威嚇しても気にする様子もないのか。

 どうやっても威嚇するのなら黙らせるには殺すしかない。しかし殺しても輪廻転生戻ってくると。


 ある意味レイナさんの天敵なのかもしれない。



「もう質問はいいか? お前ら二人からでもいいぞ?」


「あ、いいですか?」


「いや、だからいいって言ってんだろ」


 セリカちゃんが手を挙げる。

 面倒くさそうにレイナさんは答える。


「レイナ様でも霧の中、雨の日に行くしかできないのでしょうか?」


 世界最強は一瞬止まるが、即座に否定する。


「いや、あたしが本気を出せば余裕で突破はできるぞ。ただ、疲れる」


 ……疲れるからいやだという理由で僕はこの前深夜に起こされたのか。

 いや、まあ、うちの師匠だし別にいいんですけどね?


 ちょっとイラっとしたとかそんなことはないんですけどね? それならせめて雨が降っている日でもよかったのでは?



「あの魔法は視覚と魔力による探知をずらす魔法だからな。霧さえ出てれば魔法の効果が落ちるから目を閉じさえすれば別に困るものでもねえよ」


 と、レイナさんは事も無げに言う。

 つまり、僕ら……僕以外の人は無意識下で魔力によって地形や景色などを認識しているようで、それと視覚をずらすことによって幻覚のように見せられてしまうと。


「え、もしかしてレイナさん、僕とデートした時はずっと目を閉じてたんですか?」


「ああ、当たり前だろ。目を開けてると気持ちわりぃもん。あたしは視覚切っても魔力だけで周囲全てを把握できるし」


 ……この人本当に人間なのか?

 五大賢人であるモカちゃんも流石に唖然としている。



「ということで質問がないならあたしは行くぞ」


「で、結局何を忘れていたんですか?」



 玄関まで見送りに向かう最中に僕は聞いてみる。

 大したものではなければサイオンさんから通じて僕に伝わって物を運んでもらえばよかったのに。


 わざわざここに来なくてもと思ってしまった。



「あん? ネーカのこと気になってんじゃねえかって思っただけだ」



 忘れ物というのは、それだったのか。

 わざわざ教えに来てくれるためだけに戻ってきてくれていたのか。



 僕は苦笑しながら彼女を見送った。


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