第54話 世界樹
「セリカちゃん、モカちゃん」
「なぁに?」
収納していた空間から毛布やまくらでぐっすり眠っているモカちゃんを起こし、眠そうに眼をこすっているセリカちゃんを優しく揺らす。
「なんか世界樹あったよ」
「ほ……んとうですか、どこですか?」
大きく伸びをして、僕の視線につられて上を見るとセリカちゃんは固定されたように動かなくなる。
少女も世界樹がどこにあるかわかったみたいだ。
『我の生命力を只管吸い上げている』
……多分これをやったのはレイナさんだ。
つまり、世界樹を植えることによってオールの生命力は吸い上げられ続けることで、ここから動くこともできないのだと。
これで少し合点がいくことがあるのだが、オールトは強大な生命力があるからこそ世界樹は樹として立派に成長するのだが、山に生える分には栄養が足りないってことか。
「うわぁ……すご」
モカちゃんも感嘆としたような表情をしている。
どれくらいの大きさなのかも全然想像がつかないし、そもそも幹の太さも尋常ではない。
『これの成長によって、数年前から我の生命力は間に合わなくなった』
「じゃあいつか死ぬわけなのか」
『だからこそ殺され続けているのだ』
なんでレイナさんが殺せたのか殺せなかったのかは不明だが、自ら手を下さずに決着をつける方法を選んだようだ。
そしてその世界樹は僕に採取されることによって非常に希少価値の高い回復薬として流通している。
こうやって見てしまうと、木々には大量の葉をつけてはいるものの、どれにも実がない……ように見える。
正直高すぎて途中で雲に隠れていて正確には読み取れない。
でも種として実がないと反映できないわけだし、どこかにはあるはず。
「痛くはないの?」
『感覚はとうにない。この山に誰かが来るとき、時折覚醒するだけだ』
そうか、わざわざ僕らはこの死に逝く龍を起こしてしまったのか。
少し悪いことをしたが、あまり長居しないでおこう。
「そっか、そしたら僕らは世界樹を見に来ただけだから、邪魔しないうちに立ち去るよ」
美少女二人は一通り見て満足したらしい。
僕らは片づけをして、下山することにする。もう流石におなかがすいているんだよね。
『魔法に嫌われし者』
僕を呼び止める声。
セリカちゃんとモカちゃんにも聞こえているのだが、少し進んだところで待っててくれるらしい。
この死に逝く龍は僕に何を語ろうというのだろうか。
「オール、どうしたんだい」
僕は彼の方に近づくと、目を閉じている。
『気をつけろ』
「……何に?」
そういう意味深なアドバイスが一番困るんだよね。
出来れば可能な限りストレートなアドバイスください。
『お前から魔神の魔力が微かに感じ取れる』
「僕は魔神じゃないよ。というか魔力がない人間が何かできると思っているの?」
この龍は僕に魔力がないことくらい気が付いているのだろうから、わざわざ隠す必要などない。
古龍はそれに反応することなく続けて語る。
『お前が知る者に魔神と繋がりのある者がいるはずだ。油断するな』
「気を付けるよ」
……知ってるよ、とは言わなかった。
「オールさんはゼロ様に何か言いたかったのでしょうか」
「さてね、大したことは言われなかったよ」
僕は素知らぬ顔で歩き始めていた。
「ぐっすり寝たから元気でたぁ!」
……僕とオールはそんなに長い時間を話していたわけではない。
それでもモカちゃんはしっかり眠れたみたいだ。
「セリカもありがとね」
「いえいえ、こんな中で寝てたら風邪ひいちゃいますから!」
「しかし、この世界樹の葉っていうのは伝説の龍の犠牲のもと成り立っていたんだね」
レイナさんがオールを倒してどこからか手に入れた世界樹の種を植えたことによって、僕や師匠はおいしい紅茶を飲めるわけだ。
「あれ、アル君。なんで外にいるの?」
往復に時間をかけて、気が付けば午前中太陽がしっかり出ている状態での帰宅となったのだが、何故かアル君が締め出された子供のように外でうろうろしていた。
「あの……」
かなり動揺しているようで、何を示しているのかはわからない。
館の中に敵が出ているなら戦っているだろうし、何故館の外にいるのか全く分からない。
「レイナ様が戻ってきております」
……あれ、ずいぶん早く戻ってきたのか。
確かあと2,3週間は家を空けると言っていたはずだ。
因みに動揺しているアル君とは別に、セリカちゃんとモカちゃんは嬉々としている。
僕は密かにアル君に同情した。
いつ来たのかはわからないけれど、ほぼ初対面であの人と二人きりでずっといるのは流石にきつい。
だからこそ外にいたのだろう。
「よぉ、ゼロちゃん」
「レイナさん、戻ってくるなんて聞いてなかったので少し遠出をしていました」
レイナさんはドレス姿のまま、居間のソファでだらりと四肢を投げ出していた。
肉付きのいい太腿や艶めかしい鎖骨など視線を移してしまいそうなポイントがあるものの、どうせ僕を弄るためだけにやっていることなのでスルーする。
「ああ、あたしも忘れ物を取りに来ただけだよ」
下着が見えない滑らかな動作で起き上がる。
「オールのやつ、まだ元気そうだったか?」
「…………なんで毎回毎回僕の動向を知っているんですか」
僕の師匠は事も無げに答える。
「あたしはゼロちゃんの師匠なんだぜ? 大体の場所は何となくわかんだよ」
魔力がない僕のこともわかるのか。
やはり常識にはとらわれない女、レイナさん。
もしもセリカちゃんやモカちゃんが言っても嘘だと自信を持って言えるのに、この人だったら何となく出来ても不思議ではないという信頼感。
「……元気そうでしたよ」
「あいつしぶといからな、あたしも殺すのに骨が折れたもんだ」
後ろにいるセリカちゃんとモカちゃんにはちらっと視線を向けたものの、僕の方をまっすぐ見ている。
「ま、暇だったらまた会いに行ってくれ。あたしが行っても恨み言しか言われないし」
多分、それは本心からそう言っていないんだと思う。
殺し合いをしているからこそ何か二人だけに通じるものもあるだろうし。




