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第53話 遭遇

「……流石に、疲れてきてるね。二人とも」


 僕がとは言わない。

 雰囲気からして特にモカちゃんの方が厳しそうだ。


 セリカちゃんは館で修業する様になってから体力は結構ついているようだ。



「確かもう少しで山頂だと思うけど、どうする?」


「頑張る」


 セリカちゃんも口数は減っており、無言で歩く時間が増えている。

 モカちゃんがたまに愚痴を言ったり文句を言ったり不平を言ったりするものの足は止めない。



「傾斜も緩やかになってきているから本当にもう少しだよ」


 半ば自分に言い聞かせるように僕は独り言を言う。

 実際間違っていることを言っているわけではなく、多分あと少しだ。




『珍しいな、ここにあの女以外が来るとは』


 唐突にしわがれた呻き声が聞こえてくる。

 二人がびっくりするように肩を跳ね上げるが、流石の僕も驚いた。



 だってレイナさんが嘘を言っていると思わなかったんだ。

 僕らの目の前には、何か巨大な影が霧の中に横たわっていた。



「…………レイナさんに殺されたと思ったけど」


 ネーカと同じくらいの大きさだ。いや、顔だけで僕はそう判断したが、大きさが見当もつかない。


『あの女には殺されたさ。100を超えてからは数えていない』


 まるで岩のように、山とほぼ同化しているそのドラゴンは口を動かさずに音を発している。どうやってその技術をやっているんだ。


 灰色の頑強な鱗に覆われたドラゴンは地面に伏しており、雲のせいで全体を確認することはできない。

 ただ、見たものを震えさせるような縦長の瞳孔は僕の方をまっすぐ射貫く。



『心配するな。小娘、我に動く力などない』


 びっくりしたようにモカちゃんは飛び退いた。

 多分だけれど、このドラゴンに向けて何か魔法を使っていたのだろうか。


「ドラゴンってとんでもない生命力だとは思ったけどここまでとは」


『再生されたところから殺されたからな。最後はこの山と融合させられた』


 いや、融合ってどういうことだよ。

 まあレイナさんの魔法を常識では計り知れない。


 とりあえず僕らは、手近な岩に一旦腰を下ろして休むことにした。

 このドラゴンが言ったように、恐らく全く動けないのだろう。それでも生きているということがこの伝説の生物の生命力を示していた。



「ドラゴンさん、お名前はあるんですか?」


 セリカちゃんはドラゴンとは直接面とは向かっておらず、僕を間に挟んでいる。

 そのことについては全然文句はないのだが、仮にドラゴンが何かしてきても僕は守れないぞ。


『名はオール。最強にして最後の古龍だ』


「まあうちの師匠に負けたわけだけども」


 ぎろり、と眼が険しくなる。おお、こわ。

 僕は素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。


「でも、もしかしてレイナさんがオール、君を放置しているってことはやっぱり殺せなかったってことなの?」


『正しくもあるが、間違ってもいる。我は今殺され続けているのだ』


 何を言っているのかはよくわからない。

 でも、嘘を言っているようにも見えない。



『我ら古龍種には非常に高い生命再生機能を持つが、それはあくまでも我のみのこと』


 僕らは顔を見合わせている。

 このうめき声をあげているドラゴンが何を言いたいのかが全く分からない。


『山と同化されている我は、自然の一部になっておる』


「例えばこの山を破壊しようとすると再生機能があるってこと」


 オールは何も言わない。

 つまり、否定しないということはそういうことなのか。


「そういえば、この山に来ようとしたら近づけないらしいんだけど君の魔法かい?」


『我は戦いを好まぬ。あの女以外にまともにこの魔法を突破したのはお前たちが初めてだ』


 なるほど、生きているからこそ永続的にそんな魔法が発動されているわけだ。

 というか常時解放されているような魔法ってことか。モカちゃんが周りの心を読んでいるのと似ている。


「霧の日の方が弱まっているのって何かあるの?」


 ドラゴンのしわがれた声で説明してくれる。

 もしかして、ずっとここから動けない時点で暇なんだろうか。


 霧の日の方が、魔力が弱まっている理由は単純明快で、自然と一体化しているドラゴンの処理が増えるかららしい。

 意識して行っているものではなくても、霧のせいで魔力が分散してしまうらしい。


 つまり、レイナさんが僕を早朝に誘ったのは間違ったことではなく一番無難な対応という事か。逆に言えば、レイナさんにも古龍の魔法は効いているという事だ。



『ただ、それを唯一お前が無視している』


「え、何で知ってるの?」


『お前は度々この山に来ているのは感じ取っている』


 ……確かにそうか。

 山と融合させられているなら知っててもおかしくはない。自分の体の上を歩かれているようなもので。


『魔法に嫌われし者、我が見てきた中でも久し振りよ』


「……僕以外を知っているのか?」


 この場にはセリカちゃんやモカちゃんがいる。


『我があの女に出会うずっと前だ。魔神が世界を統治していた時代だ』


 ……なるほど。僕が懸念していることではないのかもしれない。

 というか魔神が世界を統治って百年以上前じゃなかったか。


 魔神。

 過去に人間界をも支配していた魔界の王。

 歴代の魔王は人間界とは積極的に関わろうとはせず、停戦協定を結び不可侵条約として距離を置いていた。しかし、ある魔王がとんでもない魔法、禁呪を用いて次々と人間界を侵略していった。


 どうやって魔神の時代が終わったかは今一要領を得ない文献しかない。

 伝説の一部としては魔王と勇者が共闘して倒したとかなんとか。


『魔神は我も戦ったことがあるが、あれは生物ではない』



 因みに隣でモカちゃんがすやすやと寝息を立てているのを、セリカちゃんが魔法で暖を取っている。

 流石に朝明るくなってきてはいるが、4時から起きているから眠くなったのだろう。僕の弟子も少しうつらうつらしている。


『ところでここまで何故来たのだ』


「あ、そうそう。世界樹を探しに来たんだよ。オールは知ってる?」


 ここで初めてドラゴンはぐふぐふと笑った。

 どうやって口も動かせないのに声を出しているんだろうか……魔力で作られた声って僕に聞こえるのだろうか。

 音は振動だから、魔力でどこかで音を発生させているのかもしれないが。



『見えていないのか?』


「え?」





『我の上に』


 オールに断って近づいて確認すると、背中には何か根のようなものが生えている。

 そして根を目で追っていくと、自然と視界は上のほうにずれていき


「……お、おう」


 オールの背中には大木が天に向かって生えていた。


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