第51話 再戦希望
「なるほど、そういうことがあったのですね」
「流石の僕でも驚いたよ。急に二人がいなくなったんだし」
僕らはアル君が作ってくれたまともな料理を食べながらのんびり話していた。モカちゃんのご機嫌が非常に斜めなのだが、それは僕には関係ないだろう。
「モカ達からしたらゼロ君がいなくなったんだけどー」
何をそんなに不機嫌なのだろうか。ネーカを呼んだことを怒っているんだろうか。
そしてアル君のほうをちらっと見てみると、その光景を見ておらず説明しか聞いていない彼は苦笑いをしている。
「わかり兼ねますが、その山全域に何らかの魔法が展開されているという事でしょう」
……辿り着けない魔法ってことか。
いつも通り僕には効かないとして、でもそれとどうして彼女の機嫌に関わるのか。
「モカだってね、これでも二つ名持ちなんだから。というか自分の得意分野で負けるって許されざることよ」
なるほどね、つまりあれは精神系魔法の一種なのか。
恐らく山に入れないように方向感覚が狂う?とかワープするかそんな感じか。
それまで黙って食べていたセリカちゃんがびっくりしたようにナイフを落とした。
「モカさんって二つ名持ちなんですか!?」
「……モカってもっと有名人だと思ってたんだけどなぁ」
少し傷つくように、圧倒的に嬉しそうに彼女は呟く。
前僕が知らなかった時もだが、恐らく本心から嬉しいんだろう。
『二つ名』としてではなく、『一人の人間』として見られたい。
それは僕も同じだ。
「というか、セリカ。あんたノートル在学なんだからモカの写真くらい見たことあるだろうに」
「モカ様は偉人の写真の一つに並んでいますし」
モカちゃんってノートル学園出身なのか。
全然不思議ではない。あの学園には非常に優秀な人々が集まるのだから、仮にレイナさんがノートル出身でも驚かない。
……まあレイナさんは空気から生まれた自然発生と言われてもそこまで驚かないかもしれない。
「写真?」
「あと歴代記録の間にも写真あるわよ。『歴代最年少卒業』したのモカだし。ま、あんな場所普通の在学生が入るような場所でもないか」
頬杖をつきながら、大した興味もなさそうに言うモカちゃん。
僕がいたころにも確かに歴代記録の間というものはあった。そして、『歴代最年少入学』しているのは僕だ。ただ、退学にされているから抹消されているんだろう。
しかし、僕も成長したもんだ。
自分の二番目に嫌いな場所のことを思い出しても冷や汗一つ、鳥肌すらたたないなんて。
「多分セリカちゃんわからなさそうだから答え言ってあげたら?」
「ここまで言ってもピンと来てないしね。私は旧四大賢人の一人【支配者】。ま、今じゃ【不可視】のゼロ君が加わったことで五大賢人になっちゃったんだけど」
そこからは狼狽するセリカちゃんと、それを冷めた目で見るモカちゃん。それはまるで、ネーカがセリカちゃんと初対面の時に値踏みしたような表情で、この人間がどういうものなのかと読み取っているのだろう。
別に二人の関係だからあまり口煩く言う必要はないのだが、なんとなくモカちゃんの気持ちはわかってしまう。
そもそも相手の心を読み続ける少女からしたら、自分が二つ名であるとわかった瞬間に態度が上辺で変わったり媚びたりするものをたくさん見てきたのだろう。
だからこそわざわざ名前を明かしていなかったのか。
「丁寧にお話しした方がいいのでしょうか!?」
「いや、僕に言われても。というかセリカちゃん大体丁寧に話してるし」
僕に急に話が振られる。
「む……胸は少し負けてますけど友達というか年の近いお姉さん気分でお話ししてました!」
「うん、僕は知らなかったけど今口に出してるよ」
「それにバストは少しじゃないでしょ。圧倒的敗北感あるくせに」
モカちゃんからの追撃。
明らかにショックを受けたようにセリカちゃんは涙目になっている。
でも、モカちゃんの表情は思ったよりも厳しくはない。多分今の数秒でセリカちゃんの心を読んで彼女がどういう人間かわかったのだろう。
「ま、これからもモカのことをお姉さん気分で話すっていうんなら仲良くしてあげるけど?」
謎の上から目線発言だが、セリカちゃんは嫌がる素振りすら見せずにとても嬉しそうに返答する。
「いいんですか、モカさん!」
多分モカちゃんからしたら、そう言って周りの人々からの扱いが変わってきているから非常に警戒しているのだ。いや、警戒ではなく自分が傷つかないように予防線を張っているのだ。友達になりたいと言って断られるようなものなのだから。
でも、純粋に喜んだ僕の弟子を見て、拍子抜けしたように笑ってしまったモカちゃん。
「あんたね、世間知らずってレベルじゃないでしょ……すごくいい子だけど」
「レイナさんのところに弟子入りで乗り込む程度には世間知らずだからね」
恥ずかしそうに顔が真っ赤なセリカちゃんはぱたぱたと手を動かして必死に話題を変えようとする。
「あ、そ、そんなことより世界樹のところまでどうやって行くんですか? モカさんでも魔法にかかっているって私じゃ絶対どうやっても無理ですけど」
「確かに……でもレイナさんには効いてなかったんだよね」
僕は前回二人で行った濃霧の中でのデートの話をする。
三人とも興味深そうに聞いているが、セリカちゃんだけは少しだけ表情が曇っている。
濃霧というのが嫌なのだろうか。
「ふーん、そしたらゼロ君。明日朝4時集合で」
「マジ?」
モカちゃんはこいつ何を言っているんだ、とでもいうような表情をする。
いや、僕からしたら君にその表情を向けたいんだが。
「レイナ様がそんな無意味なことをするわけないでしょ。朝じゃないといけない理由でもあるんでしょ」
……レイナさんがそんな意味のあることしないと思うんだけどなぁ。
僕が知っているレイナさんと、モカちゃんが知っているレイナさんは別の人である可能性もある。
あの人が意味のあることをそんなにしているとは思えない。大体が思い付きで僕を巻き込んでいくんだから。
「はぁ……明日早起きか。4時になったら僕の部屋に来て。二人とも起きれなかったら延期ってことで」
モカちゃんはニコニコしながらぶっこんくる。
「大丈夫大丈夫、モカゼロ君と一緒に寝るし!」
「よし、今すぐこの館から追い出されるか発言を撤回するかを選ばせてあげよう」
僕はベッドでのんびり一人の静かな夜を過ごした。今日もぐっすり眠れそうだ。




