第49話 迷子
モカちゃんとアル君は、ただ遊びに来たようで1週間くらい滞在するらしい。
ロミアちゃんが数日前に一旦魔王のもとに帰るらしく、一足早めに立ち去っていた。
「ねえねえ、この森で世界樹ってあるの?」
「あー、まあね」
僕も見たことはないけど、あるらしい。
レイナさんがたまに嘘をつくこともあるが、わざわざ山の上にあるという話をするとも思わない。
「モカ行ってみたいんだけどダメ?」
「何のお話をしているんですか?」
セリカちゃんが紅茶を淹れて持ってくる。
数か月前にレイナさんと取りに行った葉っぱも結構減ってきているし、そろそろ蓄えが欲しいところだ。
「いいですね、私も行きたいです!」
世界樹を見てみたいというモカちゃんの要望を話すと、目をキラキラさせている。
モカちゃんは僕と二人だけで行きたそうな表情だったが、そもそもセリカちゃんの心を読んでいたのだろう。すぐに笑顔に切り替わる。
因みに僕がモカちゃんに忠告したことは、心を読むのは勝手だがそれを僕にわからないようにしてほしいこと。心を読んでいる前提で話を進めるのはやめることだ。
勿論すぐにそんなことがすぐにできるとは思っていないから、せめてあからさまなことだけやめてほしいというものだ。
「実は僕も見たことないから楽しみと言えば楽しみだね」
「……どういうこと?」
二人にレイナさんから聞いた話を伝える。
「とりあえず行ってみるかい? 行くなら往復しても明るい時間がいいんだよね」
道は僕が知っているしそこまで必要なものは……二人が動きやすい格好をすることくらいだ。
僕はアル君も誘ってみたが、彼は館の書庫で読書をすることを希望した。
「そっか、そしたらのんびりしてて。多分夕ご飯までには帰るから」
「それなら作っておきますよ」
折角の申し出なのでありがたくお言葉に甘えることにする。
アル君の料理にも興味があるし、そもそも先日判明した危険な料理を食べなくて済むわけだ。
「とりあえず二人とも着替えてから行こうか」
「あ、モカそういう服持ってないからセリカに借りよっかな」
「いいですよ、モカさん私より少し背が高いので丈が合うか心配ですけど」
……それよりも主に前胸部と臀部が厳しいと思ったが、流石に僕は口を噤む。
「セリカの服、胸が苦しいんだけど、開けてもいいかな」
シャツのボタンを結構開いてモカちゃんが戻ってくる。
セリカちゃんは謎の敗北を悟った様な表情だが、僕は何も知らないふりをして外に出る。
藪蛇触れるべからず。触らぬ神に祟りなし。
「よく考えたら面倒だったらネーカに乗せてってもらおうと思うけど、モカちゃんは会ったことないもんね」
そして五大賢人の表情が曇る。
……多分セリカちゃんの心を読んだのだろう。
「モカは、一生会いたくないかなー……それなら歩いていきたいかな」
「ネーカちゃんいい子ですよ?」
「いや、うん……そうなんだけど、モカあの手の生き物はちょっと」
確かに普通の女性は大体初対面のセリカちゃんのようなことになるのだろう。寧ろはっきり拒否できるモカちゃんは更にまともだ。
「じゃあ時間はかかるけど、歩いていこうか」
「ゼロ君腕組もー!」
「え、じゃじゃあ私だって」
……あのね、森の道で二人に腕を組まれるって確実にご褒美ではないしただ歩きにくいだけだ。そもそも何かあった時に両腕が使えないのはマイナスが大きすぎる。
と思ったが、どうせ破壊系少女と精神支配賢人が何とかしてくれるのか。
それに、山道になってきたらそんな余裕はないでしょ。
僕は思考をするのを面倒になって諦めた。
「実はこれから行く山の方向なんだけど、ネーカを拾った場所でもあるんだよね」
「え、あれを拾うって」
セリカちゃんの記憶から大きさを知っているモカちゃんは怯えたように言う。
あんなのが山にごろごろいるのだと勘違いしているのかもしれない。
「元々は僕の腕くらいの太さだったんだよ、何故かどんどん大きくなって今ではモカちゃんの想像通りの大きさだよ」
一応釘を刺す意味合いで告げておく。
セリカちゃんが度々驚いたような、不思議そうな顔をしていることからモカちゃんが心を読んでいることに気が付いていないのだろうか。
モカちゃんがわざわざ言わないということについて、何か理由があったのかなかったのかわからないが別に僕が言う必要のあるものでもない。
ただ、彼女の知られたくない秘密や情報を出すというなら僕が口をはさむ。
道を進んでいくのだが、僕の思惑よりも早く二人が疲れ始める。
……特にモカちゃんの体力がなさすぎる。別に精神系魔法のプロだから仕方ないけれどそれにしてもこれでは一般人レベルだ。
「モカちゃん、少し休もうか?」
「……セリカには負けたくない」
何故対抗意識を燃やしているのかはわからないが、このペースで休んでいると夕ご飯はおろか、夜中になってしまう。
「もうちょっと進んだら、少し休憩しようか。因みにネーカに乗ったらすごく早いよ」
モカちゃんは少し迷うそぶりを見せたが、まだまだ頑張るつもりらしい。
別にいいけどね。
「……仕方ない、あんまりやりたくないけど」
虚空から手鏡を取り出す。
数秒間自分の顔を見た後、一息ため息をついて目を閉じる。
「モカさ」
「静かに」
僕は一応小声でセリカちゃんを止めておく。
彼女が無駄なことをしているようには見えない。
「よし、いこっか」
自分自身に洗脳系魔法を使ったのだとわかったのはすぐそのあとで、疲労感の軽減と潜在的身体能力の強化で元気に森を進んでいくのだった。
そして数十分後、二人の姿は忽然と消えた。




