第48話 幕間の毒殺未遂(後編)
ロミアちゃんは僕の不思議そうな表情を読み取ったのか、苦笑しながら二人の間に入る。
パッと飛びのくようにモカちゃんはセリカちゃんの手を放して距離を置いた。
「説明しますわ」
「……ロミア、あんたももしかして食べたの?」
ちょっとだけつっけんどんな対応を見せるモカちゃん。流石に魔王軍の幹部が目の前だしそうなんだろう。
彼女はその態度に対しても意に介していない。
「この料理にはセリカ様の魔力が混ぜ込まれているようです。しかも不安定な状態で」
僕らは全員彼女の料理を見つめていた。
……僕にはよくわからなかったがロミアちゃんの説明によると、セリカちゃんが作った料理には微粒子レベルの彼女の魔力が練り込まれているようだ。
基本的に安定している魔力であれば他人の魔力でもそこまで害はないのだが、不安定状態であるために咀嚼や嚥下といった動作によって体内に取り込まれると、食べた人の魔力と何か作用して崩壊されるらしい。
それによって、意図せずにセリカちゃんの魔力が食べた人を攻撃するという結果らしい。
多分原因は前と同じで、魔力の漏出なんだろうね。
「とはいえこれは魔法攻撃というよりも、毒物に近いでしょうか」
「え、そんな!?」
セリカちゃんが絶望感たっぷりの表情でがっくりと肩を落とす。
今まで毒物料理と茶化していたが、本格的に毒物だったらしい。
「しかもここまで微粒子レベルの魔力であれば事前の探知はほぼ不可能ですし、最早不可視の一撃という【不可視】であるゼロ様の弟子に恥じない攻撃ですね」
「絶対に褒めてないのに、ロミアちゃんが言うとすごいことに聞こえる不思議」
もしかしてこれを意図的に出来たら食べた瞬間に殺すことができる最強の暗殺術が完成するんじゃないか?
……そしてさっきの説明で思ったのは、僕には魔力がないからそもそも作用しないってことか。だからこそ僕はただのまずい料理……でも、そしたらまずい料理になるのはなんで?
「これは推測ですが、セリカ様が作る工程で多少は魔力が崩壊しているのでしょう。そのせいで食材にもダメージを与えてそもそもとても食べられないに等しい料理が完成されるのかと」
「……え、そんな危険な物をモカに食べさせたってことはゼロ君実は本気で怒ってる?」
「ゼロ様の表情を見れば、彼も予想外だったと思いますよ」
イケメンが冷静にツッコミを入れる。
うん、確実に正しい。
「そうか、それでセリカちゃん自身が食べてもただの激マズ料理だったということか。それ考えるとアヤメちゃんの耐性がすごいってことだな」
今後は彼女の認識を改めた方がいいのかもしれない。
ネーカの麻痺毒にも耐えられるわけだし、忍びの修業は過酷だな。
しかし、レイナさんがくれたブレスレットをつけているから大丈夫なのかと思っていたけれど、それでも漏出は完全に防げていないという事だろうか。
その辺はよくわからないな。今度師匠が戻ってきた時に聞いてみるか。
「結論から言いますと、この凶器はゼロ様と本人しか無傷では食べられないという事です」
その表現から、ロミアちゃんも無傷ではなかったということだ。
そしてセリカちゃんは燃えつけた蝋燭のように完全にいじけてしまっている。
まあ、確かに料理は下手だと自覚していたのだろうが、それが凶器扱いされているのだから当たり前だ。
しかしこの話を聞いてしまったあとではフォローのしようがない。
「……いいですよ、どうせ私の料理なんて」
可哀想になってきたけれど、これはどうやって改善させればいいのだろう。
特別なアイテムでも防げないということは、より意識をしていくしかないのだろうか。
……そして思うけど、これ本当に暗殺に使えそうで怖い。
触れた瞬間に微粒子を流し込むとかすれば、威力は別としてダメージを与えられるだろうし。
「ま、まあこの館にいる間は僕が食べてあげるから、頑張って練習しなよ」
「ゼ、ゼロ様……」
余程嬉しかったのか、完全に涙目のセリカちゃん。
そしてこの世のものではないものを見るような目つきで僕を凝視するモカちゃん。
「さて、そしたら口直しに僕の料理を持ってこようか。これは師匠の僕が責任をもって食べるから安心してね」
セリカちゃんは少し落ち込んでいるものの、食器やティーポットなどをせっせと運んでいる。因みに今回はアル君がいるからいつもの茶葉ではない。
「アルも食べてみたら?」
モカちゃんが自らの部下にも犠牲者になるように強要しているが、勿論アル君は苦笑いをしながら拒否。
「先程のお手洗いでのモカ様のようなことになりたくないので遠慮させてください」
「セリカちゃんも落ち込んでないでご飯食べよう」
「そうですね、ゼロ様のために沢山練習しないといけないですし。明日からまた頑張りますね!」
「……そうだね、犠牲者が恋人とか家族になる前に早めに対策を立てておかないとね」
じゃないと一生僕が食べさせられそうだ。
こうやって大人数……セリカちゃん、モカちゃん、アル君、ロミアちゃんと5人での食事って楽しいんだな。
前にレイナさんに聞かれたけれど、やっぱりあれは寂しかったのか。




