第47話 幕間の毒殺未遂(前編)
「さて、今日は人が多いわけだし、腕によりをかけようかな」
別にやる気はないけど、流石にモカちゃんやアル君、ロミアちゃんもいるわけだしセリカちゃんにご飯を作らせるわけにはいかない。
……のだが、僕は少しモカちゃんには反省してもらうために彼女にセリカちゃんのご飯を食べていただくことを考えた。
正直モカちゃんはめちゃくちゃ反省しているし、僕が少し声をかけるだけでびくびくしているし、アル君をずっとそばに置いていつでも隠れられるようにしている。
別に僕はそこまで怒っていなかったわけだけど、ちょっとイラっとしただけだ。
「モカちゃんって料理作れるの?」
「……で、できなくはないよ?」
「モカ様は全く料理が作れません。というか包丁を握ったこともないです」
誤魔化そうとしたモカちゃんに、あっさりアル君が告げ口する。
顔を真っ赤にしたモカちゃんと、同類を見つけて嬉しそうなセリカちゃん。因みにイケメンアル君は料理も出来るらしい。
イケメンってなんでこんなになんでもできるんだろう、顔面格差もあるのに能力格差もあるとか世の中不平等だ。
「モカちゃん、僕が苛々したせいで結構怯えているけれど、ここで水に流す必要があると思うんだ」
いつまでも怯えられると面倒だというのは置いておいて。
「モカ、何すればいいの? ゼロ君の言う事なら何でも聞くよ?」
……それはわざとなのか?
僕はため息をつきながら続く言葉を考える。
「君にはセリカちゃんの料理を罰として食べてもらおう。それで全部チャラだ」
「え、なんで私の料理が罰になっているんですか!」
「逆になんで罰じゃないと思うの?」
そして本音を言おう。
セリカちゃんの毒物料理を一般人が食べたらどうなるのかが気になったのだ。
僕やアヤメちゃんでは耐性があり過ぎるのだ。恐らくロミアちゃんも食べられる……というか食べる概念があるのかはわからないけど。
アル君にいきなり食べさせるのは流石に可哀想だしね?
「え、セリカの料理ってそんなにまずいの?」
セリカちゃんとモカちゃんは精神年齢が近いからか、結構すぐに仲良くなっていた。
因みにまだ僕の弟子は目の前のドレス少女が【支配者】であることを知らないようである。
知っていたら、多分もっとわいわい騒いでいるだろうし。
「でも、それでゼロ君が許してくれるならいっか」
ロミアちゃんはすごく面白そうに静観している。
このメンツになると、よく話すセリカちゃんとモカちゃんが話す機会が多くなりそうだ。
アル君とロミアちゃんは二人とも空気を読んでにこやかに見守っているようだ。
因みにアル君にもモカちゃんにもしっかりと彼女の正体については教えているし、絶対に心を読まないようにお願いしている。
モカちゃんは少し困ったような表情を見せたが、アル君はしっかり頷いてくれた。
そして
「ということで、野菜炒めを作ってもらったよ」
「え、普通に美味しそうじゃない?」
そう、見た目は普通なんだよ。それなのにまずいという不思議なんだよね。
調理工程を見ても、普通はこうまずくはならないはずなのに。
流石に罰と聞いていたのでかなり警戒しているようだったが、まともな見た目なことに安心しきったモカちゃんは一口セリカちゃんの料理を食べる。
食べた。
「…………?」
完全に動きが停止している。
モカちゃんは一口入れてから、完全に全く動きがなくなっている。
「…………」
「モカ様?」
微妙な表情の変化を読み取ったのか、珍しくアル君が慌てたような表情でモカちゃんを抱きかかえて部屋から出ていった。
「モカちゃん、どうしたんだろう?」
「さあ?」
多分僕とアヤメちゃんがまずいまずい言いながら普通に食べられること、自分ではまずいなりにも味見していることから、この反応は予想外だったんだろう。
「私も食べてよろしいでしょうか?」
「え、ロミアちゃんってゲテモノ好き?」
「怖いもの見たさと言いますか。私が食べられないものは殆どないので」
と、ロミアちゃんが一口。
そして、明らかに何か異物を飲み込んだような渋い表情になったが、数秒停止した後になんとか飲み込んだ。
この反応を見るに、僕が言った『まともな料理』がどういう意味か分かってくれるだろう。
「これは……これは」
何やら感心したように頷いているのだが、食べたのは劇物毒物料理。
どこに感心する要素があったんだろうか。僕も一口食べてみるけど、いつも通りの激マズ料理。
扉が開いて、げっそりとしたモカちゃんがつかつかと部屋に戻ってくる。
そして、そのままセリカちゃんのところまで行って胸ぐらをつかむ。
なんかすごく怒っている。こんな姿は見たことがない。
「セリカ! あんたモカのこと殺そうとしてるの!?」
「な、え、なんでですか!?」
ぶんぶんと前後に揺さぶられて驚いている加害者だが、何を言われているのかわかっていないようだ。
しかし、そこまで怒るようなものだろうか。
「あんたの料理、魔法攻撃くらったようなダメージなんだけどなんでよ!」
おお、遂に僕の弟子は料理による攻撃を覚えたのか。なるほどなるほど、この子は地道に成長していくなー……ではなく、どういうことだろうか。




