第43話 復活しました。そして
「セリカ、眼に見えて落ち込んでいますね」
「まあ、試験に落ちてしまったわけだしね。しかし僕も予想外だったんだよね」
僕とアヤメちゃんが並んで料理をしながら会話をする。
あの日以降、僕の弟子は明らかに落ち込んでおり、部屋に引きこもっているようだ。ご飯の時以外は全然外に出ようとしないし、別に僕からしたらどうでもいいのだが、アヤメちゃんからしたら心配なようだ。
「アヤメちゃんが誘ってみたら? 外でのんびりでもしてきなよ」
「うーん……それはゼロ殿の方がいいかと思いますが」
「そこは女の子同士の方がいいよ」
僕が誘ってもする会話がない。
少しそこからアヤメちゃんと問答を続けるのだが、結局二人で行くことにした。
「おーい、セリカ。扉空けていい?」
「あ、うん。いいよ!」
あれ、なんか思ってた反応と違う。
普通ショックを受けた状態だとしたら、そんな元気な声は出ないと思う。
僕らは更に声をかけつつ部屋に入る。
……中にはものすごい量の本が散らばっている。
「すみません、たくさん本を借りちゃってます」
「別にそれはいいけど、どうしたの?」
「ほんとだよ、ずっと元気ないと思ってたのに」
僕が作ったクッキーと紅茶をとりあえずテーブルに置く……のだが、その上にも無数の本が置かれているので床に置きなおす。
モンスター図鑑やペガサスの特徴から魔法の基礎、果ては禁呪まで様々な本の種類だ。
恐らく妥当ペガサスで考えているのだろうが、多分そういう問題ではない。
完全に努力の方向音痴だが、まあ頑張る姿勢は評価しなければならない。
「アヤメ、ゼロ様。心配かけてごめんなさい。ずっと考えてたんですけど、やっぱりよくわからなかったのでとりあえず勉強することにしました」
この前よりはすっきりした表情で、やる気は十分といったところか。
「無理はしないようにね」
「そうだよ、後で一緒に森で魔法の練習しよ」
「うん、でもまずは勉強もしないと!」
やれやれ、心配だ。
でも、この件についてはアヤメちゃんに任せておこう。
「ゼロ様、ひとまずは試験のことはなしにしていただけないでしょうか。まずは自己研鑽しなければなりません」
「ふーん……それならそれでいいよ。いつでもとは言えないけど、受けたくなったらまた言ってね」
引き際が早すぎて少し不気味だけれど、僕からしたら怖い思いよりもほっとした安心感が得られて嬉しかった。
結局その後はそれ以上の進展はなく、毎日僕は家事をして、アヤメちゃんたちは楽しく仲良く修行したり料理を作ったりしていた。
二人とも1ヶ月くらいでまた帰るという事で、僕はその間に色々人数が多い方が楽な家事を手伝ってもらった。文句なく楽しそうに手伝ってくれるところを見るに、少しほっとしてしまった。
流石に試験で落としたからといって、へそを曲げる彼女ではない。まあそれは知っていたのだけれど、やっぱり僕として気になってしまっていたのだ。
「サイオンさん、すみませんね。急に呼び出してしまって」
彼は横に首を振った。
たまに急な呼び出しの時の為に、鳥人族にしか聞こえない周波数が鳴るカスタネットを叩いていた。ここまで殆ど叩いたことはなかったけれど、意外と便利だ。
彼女らが帰る数日前、僕はサイオンさんを呼び出していた。
「これを早急に送ってほしいんですが、お願いできますか?」
首を縦に振る。
そして宛名を見て、少し停止する。
表情だけで言うならば、ふむというような感心したような表情だ。
「いやいや、僕だって流石にやるときはやるんですよ」
無表情のままだが、眼は笑っている。
人間と違って表情が変わりにくいが、僕の成長を喜んでいるのか。
「お代は後で請求してもらってもいいですか? レイナさんどこにいるか僕はわかっていないんですよ」
オーケーのサイン。
サイオンさんは翼をはためかせて、大きく空に羽ばたいた。
彼との取引は基本的に傍から見たら淡白なんだろうけど、サイオンさんはユニークだしユーモアに富んでいるから結構楽しかったりする。
「【運び屋】様が来ていらしたんですか?」
「まあね、ちょっと野暮用があってレイナさんに連絡を取ってたんだ。何か用事あったかい?」
僕はなるべく話をそらすために、彼女に聞いてみる。
特に理由はなかったものの、翼の音で気になってきたみたいだ。
こうして準備は整った。
あとは時を待つのみ。




