第40話 恐れていたことになりました
「お二人とも、いつまでやっているんですかー?」
顔だけ窓から覗かせて、僕らの組手を終わらせてくれる。
「セリカ、おはよう。だってゼロ殿に全然勝てないんだもん……」
「一応五大賢人だからね」
「賢人関係ありますか?」
「いや、ないよ」
アヤメちゃんは適当にボケてもツッコんでくれる辺り、かなりありがたい。
こういう人がいると安定感が出るよね、ボケ側にも。
彼女はげっそりとした表情で僕を睨んでくるけれど、僕はどこ吹く風で気にすることはない。
「ゼロ殿は飄々としていることが多いですよね」
二人で室内に戻ってくると、包丁を持ってお出迎えしてくれる弟子。
一瞬僕が刺されるんじゃないかと思ってしまうくらい刃先は僕に向いていた。
「あれ、その包丁も使えるようになったんだね」
前いたときは館で一番小さなナイフだったのに、これは僕が使う包丁だ。
別に大した意味もないけれど、切れ味が落ちない魔法がかかっているとレイナさんが言っていた。
「あ、はい。もうどんどん作りますから!」
「もしかして、昨日褒めたから張り切っているではありませんか」
僕に耳打ちしてくる忍者娘。
「……よし、お昼はアヤメちゃんに任せるね」
「……わかりました」
流石に僕でもわざわざまずい料理を食べたいわけではないのだ。それだったら自分が作るかアヤメちゃんに作ってもらいたい。
しかし、ここまで短期間で成長するなんてすごいな、それは素直に驚くよ。
僕じゃ育てることができなかったけれど、誰かが手伝ってくれたことには感謝している。
そして恐れていたことは食後のティータイムに起こってしまった。
「ゼロ様、修行つけていただきたいです!」
「えー、とりあえず学年上がってからにしない?」
「なんででしょうか?」
いや、何も理由はない。
さて、どうしようかな……この期待した目で見られると少し困る。
勿体つけるような所作で紅茶を一口啜る。
「仕方ない、そしたら僕から試験がある」
試験を提案されるとは全く思っていなかったみたいで、びっくりしている。
「えっ?」
「それはそうだろ? 前は一緒に物置を攻略したわけだけど、君がそのあとどれくらい成長したかはわからないわけだし」
まるで、僕は学年が上がるというタイミングで試験するつもりだと思わすような言い方にしておく。
因みにそもそもどういう風に試験するかも決めていない。
「えっと……」
「よし、そしたら明日にでも三人で行こうか。アヤメちゃんも来るでしょ?」
急に話を振られたくノ一はびっくりしたような反応だったが、すぐに快諾する。
「それで合格するならいいよ、教えよう。でも、それで無理ならまた期間を空けようか」
可哀想だが、当たり前に合格させる気はない。
全く合格させる気はない。というかどうやって試験をしよう。まずはそこからだ。
今度レイナさんがいる時に裏で相談してみよう、なんていわれるかはわからないけど。
「わ、わかりました!」
「私も試験って受けれるんですか?」
何故かアヤメちゃんも僕に期待の目で見てくる。もしかしてまだ弟子になるのをあきらめていない感じだろうか。
「うーん、アヤメちゃんはたまに魔力なしの体術であれば構ってあげるからせめてそこで僕に勝ってからかな」
多分、今の感じであれば拮抗できる勝負までにはいくけど、負けるというのは遠い気がする……する。
そうなる前に将来の僕はもっともっと強くなって頂こう。
「うっ……頑張ります」
「私はどんな試験何ですか?」
「学園のテストとかでもなんでもいいけど、普通試験って告げられることって少ないと思うんだよね」
うん、どうしよう……
何か丁度いいのあったかな。
「だから今回は明日までのお楽しみかな。対策を立てれるとは思わないけど、それって実力とは違うわけだし」
「では私の試験もわからない方がいいのでは……」
謎の公平性を求めてくるアヤメちゃん。
別にそこはラッキーとかでいいと思うんだけど、無駄に君は真面目なんだね。
僕は苦笑しながらも、とりあえず先程何を言ったかを思い出しながら矛盾しないように誤魔化していく。
「アヤメちゃんの場合は、体術面だからね。魔法とは違って僕からすればどれくらい鍛えているか、強いかはわかっているつもりだから課題は簡単なんだよ」
「そ、そうなんですね」
僕は何を言っているのだろう、誰か解説してほしい。
適当に適当を重ねて話し続けているからもう何を言っているのかさっぱりわからない。
自分でも何故ここまで嘘を塗り固めているのかも冷静になったらわからないんだろう。
納得しているような納得していないような表情の二人を置いて、僕は農業に勤しむ前に仮眠をとることにした。
流石に48時間くらい活動し続けるのは無理があるし。
おやすみなさい、明日の僕よ。何かいい案を思いついてほしい。




