第4話 弟子にドキドキさせられました
「師匠は料理もお上手なんですね!」
流石にネーカに会っていたのが遅い時間だったから夜は簡単にサンドイッチにして早々と済ませることにした。
彼女はそうしている間に完全復活したみたいで出会った時のようにニコニコしている。
「セリカちゃんは料理とかするの?」
「それは……えっと」
なるほどね、その反応が全てを物語っている。別にここで生活する分には僕が作ればいいし問題なし。セリカちゃんの上品に食べているところを見ると、単純にメイドさんとか家にいる気がしてくる。
「もしかして料理ができるようになれば魔力の制御とかできるようになりますか!?」
何がもしかしてなんだ。僕は質問しかしてないんだけど。
「なると思う?」
「はい! 魔法の基礎は日常にあるってお父様が言っていましたから!」
僕にはその言っている意味はわからないけど、多分だけどそういうことを言っていないと思う。
恐らく早寝早起きとか健康に気を付けるとかそういう事じゃないかな?
明日から教えてほしいと言っているから、とりあえず適当に了承はしておく。無駄に否定して余計なことを勘繰られることが面倒だし。
雑談を交えながら色々現代の人間社会について学んだ僕は、食器の片づけを手伝ってこようとするセリカちゃんを何とか説得して入浴させることに成功した。
流石に初日ということもあって、彼女も相当披露していたみたいでうとうとしていたので早々寝室に行くように命令しておいた。
「これでやっとゆっくりできる」
僕は自分の寝室に戻ってきて、初めて大きく深々とため息をついた。
はっきり言って疲れた。
レイナさんやネーカといった見知った顔以外でこんなに話したのも久しぶりだし、特に自分の年が近い人と話すのは10年ぶりだ。
なるべくあまり隙を見せないように対応してきたつもりだけど、何とかなっただろうか。
「それにしても、僕が二つ名持ちとか世の末だ……」
魔法を使えない僕が噂に噂を呼んでこんなことになるのか。美少女が弟子入りなんて何が起こっているんだか。
……師匠の目的は何なんだ、僕は思考の海に沈む。
師匠はいつだって僕に嫌がらせをしたり、意味不明なことをさせたりするのだが、ここまで突拍子もないことをさせてきたのは初めてかもしれない。
というよりも、僕に対して苛めることはあるが、他の人を巻き込むことはなかった。
「考えても無駄か……僕が自由奔放なレイナさんの考えなんてわかるはずがない」
レイナさんを示す四字熟語は僕はいくつか知っているが、天真爛漫、唯我独尊、自由奔放が一番似合っているのではないか。
そんな彼女の思考を理解できるはずもなく、僕はベッドに寝転んだ。
僕は平穏な日々が好きだ、非常に不服ながら師匠からの嫌がらせ込みで平穏な日々が好きだ。
勿論セリカちゃんが悪いわけではない、僕は毎日のんびり過ごしたいだけだ。
「明日からどうやって誤魔化していこうか……」
初対面だけれど、今日話してみた限りかなり僕を信頼してくれているようだ。なるべくは彼女の為に修行をしてあげたいのだが……
ネーカに頼んでみたら何とかならないかな?
そんな現実逃避をしていると、僕の部屋の扉がノックされる。当たり前だけどノックする者はセリカちゃんだけだ。
「あ、あの、師匠? 起きていますか」
扉を開けてひょっこりと顔だけ覗かせている彼女は年齢よりも幼く見える。
日中はポニーテールだったが、今は髪を下ろしているせいもあるのだろうか。
「どうかした?」
「あの……あの……」
どこか様子がおかしいので部屋に招き入れる。
白地に青の水玉柄のパジャマを身に纏った彼女はもじもじとしながら視線を泳がせている。僕からしたらトイレが見つからず困っているようにも見えたが、流石に乙女心がわかっていなさすぎるようだ。
「その、すごく、恥ずかしいのですが」
「うん」
「一緒に寝て頂けないでしょうか?」
「…………ん?」
僕の耳の聞こえが悪くなったのかな。何故いきなり今日初対面の子が、金髪美少女が僕のところにそんなお願いをするような幻聴が聞こえたのかな?
彼女が慌てて顔を真っ赤にさせながら言い訳をするのを聞いてあげることにする。
「あ、あのネーカちゃんに間近で睨まれて、目を瞑るとその光景が……」
原因は僕にあった。正確に言えば勝手についてきたセリカちゃんにあるわけだが、もっとちゃんと拒否しておけばこんなことにならなかったはず。
というか呼び方はちゃん付けで決まったのね。
「つまり、怖くて一人で寝れないと」
それに初めて来た家だしあまり寝心地もよくないのだろう。
どうしたものか。これ師匠にばれると冷やかされるだろうか?
「お、お願いです! 今日だけでいいので!」
「明日もするつもりだったの?」
土下座しそうな勢いで頼み込んでくる彼女を見て、あまり冗談を言っては可哀想だと感じる。
「……うーん、年頃の女の子がさ、そういうのどうなんだろ」
「大丈夫です! 師匠は男性女性関係なく師匠ですから!」
今さらっと男として見られていないという悲しい現実を突きつけられたのか?
この場合悲しむべきなのか、喜ぶべきなのか。
「…………まあセリカちゃんがいいなら、仕方ない」
結局僕は根負けして彼女の添い寝をする羽目になった。
妥協案として同じベッドにはいるけど、なるべく距離を開けてということで納得してもらう。
そして数分後には寝息を立てている彼女の姿を見て、ため息をつく。最早僕だけが勝手に意識しているみたいだ。
というかすぐ寝れるんなら一人で寝てほしいな。
「……セ、セリカちゃん?」
寝返りを打ってきた彼女の体が僕に接触する。
一人用のベッドで寝返りを打てば当たり前の距離感なのだが、僕の鼻腔にあまり嗅いだことのないいい匂いがする。この場合は香りだろうか。
人生初の添い寝の影響で、完全にセリカちゃんのせいで朝まで全く眠れなかったのは言うまでもない。
それでも何も過ちを犯さなかった僕を誰か褒めてくれ。