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第36話 賢人とは(後編)

「おかしいでしょ、これ」


「【不可視】君、ずぅっとそれ言ってない?」


 はっきり言って、就任の式典はなんだかんだただ座っているだけだったからそこまで苦ではなかったのだが、それよりもそのあとの食事会のようパーティが苦痛で苦痛で仕方ない。


 僕は正装に着替えるように言われるが、完全に拒否。このローブだけは手放せない。

 セレモニーには国王や、名だたる階級の高い者たちがいたみたいだが、実は僕はその辺に非常に疎いからよくわからない。

 なんか偉そうな人がいっぱいいる、そういう印象だ。


 コータ君なんて完全に気配を断っているみたいで、僕からは見つけられないけどきちんと護衛してくれているみたいだ。

 天井にでも張り付いているのだろうか、後で探してみよう。


「【不可視】、【支配者】」


「あ、【粉砕者】さんですか。ご無沙汰しております」


 認識阻害ローブのおかげであまり話しかけられるわけではないが、僕を元々知っている人には効果がないのでこうやって顔見知りには挨拶される。


 銀髪を今日も丁寧にオールバックにした【粉砕者】がグラス片手に近づいてきた。因みに僕は飲酒できる年齢ではないので、おいしい紅茶を探している。


 モカちゃんが気を使ってくれて席を外し、そしてお互いに沈黙する。

 僕は別に話したい言葉はないのだが、彼は探そうとしているみたいだ。これだから微妙な距離感って気まずい。


「すまなかったな」


「え、何がですか?」


 深々と頭を下げられる。

 やめてほしい。多分僕は認識阻害の魔法がかかっていても、傍から見たら【粉砕者】が【不可視】に頭を下げていることはわかってしまう。


「君の実力を疑っていた自分を悔いている。君は間違いなく天才だ」


「…………あ、ありがとうございます」


「今回の一件で【猛吹雪】も【要塞】も君のことを認めているのだよ。あの二人はプライドもあるだろうから、今回俺が代表して挨拶させてもらったよ」


 ……あれ。ま、まあ今回は四大賢人よりも働いたのは事実だし?

 今回だけは勘違いじゃないのかもしれない……ってそんなわけあるか!


 そもそも僕が四大賢人と同格なわけないでしょうが!!



「次から君とともに働けることを楽しみにしているよ」


 ぽんぽん、と肩を叩いてから、含みのある笑みを浮かべながら【粉砕者】はいなくなった。

 そして何故彼が僕のところにきたかわかった。


 つまり、賢人の中で彼が一番まともな感性を持っているのだ。

 あのギスギスした空間で一番胃痛をしているの賢人からしたら、誰か苦労を共にする仲間……被害者が欲しかったのだ。

 だからこそ、僕が補充された五大賢人が楽しみだと。


 ……なんでこうなったんだろうか。


 パーティもそこそこに、僕は帰ることにした。

 ある程度は礼儀として参加したけど、流石にもうそろそろいいのではないか。


「ゼロ君、帰るの?」


「うん、もう疲れたし別に僕いなくてもよくない?」


 旧四大賢人の中で唯一禁呪に耐えた女性である彼女も功労者の一人だ。

 彼女は花形だし、あとは全部彼女に押し付けよう。


「そっかぁ、また会えるよね」


 意外と引き止められなかった。

 てっきり自分も連れて行けとか言われるかと思ってひやひやしていたが。


「私を連れて行ってくれるならついていくけど?」


 口にすると彼女は柔らかく笑った。

 というかあれだ、もしかしてお酒飲んでいるから普段とは少し違う感じかと思っていたけど、これは【支配者】モードか。

 普段自分のことを名前呼びしているけど、私って一人称だし。


「今度レイナさんから許可が出たら遊びに来てよ。美味しい紅茶とかお菓子とか準備しておくから」


「ふふ、楽しみにしてるね」


 【猛吹雪】も【要塞】も僕に気が付いたようで、複雑そうな表情のままグラスを軽く傾けてみせた。

 二人は色々お偉いさんと話しているときだったので、会釈としては十分だ。というか僕からしたらなくたって文句はないんだから。



「それじゃあ【支配者】さん。失礼しますね」


 僕は一人、馬車に戻ることにした。

 一人で馬車は動いてくれるか心配だったが、杞憂に終わる。


 アル君が先回りして扉を開けてくれていた。

 エルザさんといい、護衛の人はエスコートする技術が身についているのだろうか。


「ゼロ様、モカ様を今後とも宜しくお願いします」


「僕が宜しくしてもらっているんですけどね」


 だって、僕が今日殆ど人に話しかけられなかったのって、モカちゃんが周囲の人に精神系魔法を使っていただろうし。

 認識阻害の魔法には人に話しかけられないという特徴はない。


「それではまた」


「はい」


 コータ君も無言で会釈をして、乗り込んできた。

 その後扉が閉まり、軽い振動の後に飛翔した。


「ごめんね、コータ君。君からしたら楽しくなかったと思うけど」


「うむ、これは仕事だからな。それに」


 完全に表情は消えている忍びとしてのコータ君だ。


「コルガの奴らもいたことだしな」


「喧嘩しないでくれてよかったよ」


 僕には全然見つけられなかったけれど、流石の同業者といったところか。

 【不可視】がイルガの里の頭領であることは向こうも知っているだろうが、だからといって五大賢人を暗殺はできないのだろう。


 帰りは二人だけなので、僕らは雑談しながら時間を潰していった。

 コータ君は意外と博識であり、結構王都や他の街にも行っているみたいだった。


 彼が言うには、今回の事件で様々なものに影響を与えていて、それによって成長した派閥や、衰退していった施設などあったらしい。

 僕にはそういう経済的な知識がないのでわからないが、それほどまでの事件だった。



 そして馬車は森の外れに着陸し僕ら二人を降ろすと、ペガサスは小さく(いなな)き走り去っていった。


 あれ、これから森に入ろうとしている人がいるが、見覚えがある。


「師匠じゃないですか!」


 おや、その人影はセリカちゃんのように見える。その満面の笑みを見るに、もしかしたら試験は無事に通過できたのかもしれない。


「セリカちゃん? もう戻ってきたんだね」


 あと1年くらい戻ってこなくても僕は責めなかったのに。


 彼女はニコニコ笑いながらご機嫌そうに僕に近寄ってくる。



「一緒に帰ろうか」


「はい!」


 こうしてまた破壊系少女の弟子は戻ってきた。


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