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第34話 事件の終幕

「悪いな、遅れた。流石に結界を外から破壊するのに手間取っちまった」


「……禁呪でも関係ないんですね」


 颯爽と現れたレイナさん。

 珍しくドレスの上には真っ赤なカーディガンを羽織っている。


 唖然としている四人に向けて空中でデコピンをすると、まるで糸の切れた操り人形のように全員が地面に崩れ落ちた。

 レイナさんは魔法を使うときによくやるアクションで、これをやらないと手加減が難しいようだ。


「当たり前だろ? あたしだぜ」


「だと思いま」


 最後まで言えなかった。いきなりレイナさんが僕を両手でぎゅっと抱き寄せた。

 物置の時とは違って締め上げられるわけではなく、単純な抱擁。


「よく頑張ったな、ゼロ」


「いや、そんなことするよりも……」


 恥ずかしくなってちょっと斜め上を向いたけれど、後ろで何か嫌な音が聞こえてきたから僕は安心する。


「そんなことか? 今あたしから離れたらゼロ、お前死ぬぞ?」


「……ですね、この何かが軋んでる音をチャチャっと終わらせてください」


 数秒間の抱擁の後、僕は部屋の方を見ると少し前と景色がずいぶん違って見えた。

 


 まず、部屋の外壁と内装がすべてなくなっている。

 ……どうなっているのかわからないが、魔法陣があったらしい空間に何か、何か丸い球体がある。

 というかなんか扉を境に外と交通しているんだけど。



「えっと……どういう状況ですか?」


「あん? その会議室を中心に空間を捩じ切って丸めただけ。ついでに空間を圧縮しておいたが」


 ……いや、説明を聞いてもわからない。

 つまり?


「こんな感じだな」


 レイナさんは右手をぎゅっと握ると、丸い球体(部屋のあった空間)が更に縮んで手のひらサイズまでになった。


「これがあの空間だ。多分これであの魔法陣も無効化できたはず」


「……レイナさんが来てくれなかったら危ないところでした。本当にありがとうございます」


 レイナさんは珍しく笑っておらず、僕の頭をポンポンと軽く触る。


「まあな。だが、やられたわ。本部においてあった魔導書の一部を奪われた。こいつらの教団のボスだけは多少やりやがる」


 ……なるほど、そのために禁呪を使っていたのか。禁呪の魔導書を強奪するために禁呪を使ったと。


「その確認もあって悪いな、遅れちまった」


「レイナさんらしくない。僕の師匠は謝るような人じゃないんですから」


「おい、もう一度抱きしめてほしいのか、あん?」


 僕は苦笑しながら少しレイナさんから距離を取る。

 勿論冗談だとわかっているが、やられた日には恐ろしいこととなる。


「ま、流石にもう逃げられただろうししゃーねえな」


 レイナさんはカーディガンを脱いで僕に渡してくる。

 荷物を持っていろという意味なのだと思っていたが、


「着てろ、これは認識阻害と魔法防御に特化しているあたしお手製の装備なんだ」


 僕に装備させた。


「珍しいですね、レイナさんがそこまで警戒しているなんて」


 認識阻害と言っても、元々認識している人、つまりレイナさんと出会ったことのある人には効果がないものだ。しかし、この人が防御を準備しているなんて珍しい。


「流石に禁呪相手だしな。てか教団本部を潰すのに疲れたから集中力が落ちてんだよ」


 ……あ、そっか。

 北に遠出するってそもそもの教団潰しに行ってたのか。

 僕にはその教団の本部がどこにあるのかは知らないが、恐らく戦闘はあったのだろう。一日かからず潰すなんて恐ろしい。


「あいつら、互いに洗脳魔法をかけていたせいで、あたしの精神操作が面倒で面倒で」


 僕は知らなかったが、そもそも洗脳や精神操作などの精神系魔法が事前にかけられていると上書きするのは色々大変らしい。

 そして大変ではなく、面倒という発言からして別に苦ではなかったようだ。


「読心術が効かないってのも厄介だしな」


 ここは外に交通しているから朝の陽ざしを浴びていると、外が非常に騒がしいことに気が付いた。結界が解けて、色々な人たちが突入しているようだ。


 この建物も騒がしくなってきているし。


「なんでですか? レイナさんとかモカちゃんなら余裕でしょうに」


「モカ? ああ、【支配者】か。随分仲良さそうに呼ぶじゃねえか。次から次に女をたらしこんで、あたしの弟子はいつからそんなに浮気性になったんだ?」


「いえいえ、僕はレイナさん一筋ですから」


 あ、そういえばモカちゃん起こしてないや。

 僕の迫真の告白をレイナさんに鼻で笑って適当に流される、悲しいなー。


「で、なんで読心術が効かないんですか?」


「あのな、そいつが本心で言っていることをどうやって嘘だと判断するんだよ」


「……確かに」


 洗脳は兎も角として、そもそも勘違いとか記憶違いとかしているとその心を読んでしまうから意味がないのか。洗脳でそれが真実だと思いこまれているってことね。


「よし、帰るか。騒ぎになると面倒だしな」


「いや、もう十二分に騒ぎになってますよ」


 レイナさんは男達四人の服を適当に持ち、こともなげに引き摺る。

 魔法ってすごいんだな、怪力とかいうレベルじゃない。


「こいつらだけ兵士に差し出して帰るぞ」


 わかりました。

 だから僕に認識阻害のカーディガンを貸してくれたんですね。






 こうして世間に衝撃を与えた四大賢人拉致、及び魔導評議会立て籠もり事件は終わりを迎えた。ここ数十年で起こった事件としては史上最悪らしい。

 それもそのはずで、死亡者は本部職員を確認できただけでも50名を超え、恐らく教団の下っ端23人、魔力の生贄として連れてこられた数不明も合わせればもっと多いはずだ。


 夜間だったため交代の警備担当の被害はほぼなかったものの、かなりの事件であったことがわかる。


 そしてその事件の功労者として、二つ名【不可視】がテロリストを一人で制圧して被害を減らしたことになっている。

 へぇ、僕以外にも【不可視】っていたんだなぁ…………はぁ。


 今回だけで言えば、これは嘘ではないが、真実でもない。

 確かに僕が制圧したテロリストもいるわけだが、ボスには魔導書を盗まれて逃げられたし、そもそも僕が何かしなくてもこの事件は勝手に終わっているのだ。時間が経てば勝手にタカやユスリ、キンガやコブの魔力が尽きるのだから。


 全ては教団のボスが魔導書を奪うために作られた囮だったからこそ、あそこまで適当で杜撰な計画だったというわけだ。

 僕は後にわかったのだが、そもそもあの結界があったせいでボスは本部内に留まっていたはずなのだ。ある意味杜撰ではなく計画通りだ。

 もしかしたらボスの計算外があったとしたら、レイナさんが自力で禁呪の結界を破壊したことだろうか。



 ボスには魔導書を奪われたが、僕は何とか生き延びることができた。

 彼か彼女かは知らないが、ボスのことはレイナさんに任せて、僕はまた隠居生活に入るとしようか。


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