第32話 予想外な展開
テーブルとイスは片付けられていて、中は広いホールのようになっていた。
中には4人のローブを着た男がいて、そして黒い魔法陣が床にそれぞれ男たちの足元に4つ描かれている。
そして目に付くのは魔法陣の外に広がる無数の作業服、半裸のやせ細った者の死骸。更に気が付いてしまうのは、脱ぎ散らかされたスーツの数だ。
なんだ? 今本部を歩いても誰とも遭遇しなかった事実と、このスーツの数はいささか嫌な予感がする。
「な、貴様は!?」
「ずいぶん楽しそうなことをしているから混ぜてもらおうかと思ってね」
「待て! ここに入るな!」
「いや、君らに言われても入るけど」
なんで敵の言うことに従わないといけないんだ。僕は無視して更に奥に進もうと思ったが、彼らの悲痛そうな声をきいて思わず足を止める。
「お願いだ! 来ないでくれ、頼む!」
……なんで僕が頼まれているんだ?
そしてもう一度僕は彼らを見る。彼らの表情は全員焦燥感、恐怖などがありありと浮かんでおり、加害者側の雰囲気など一切ない。
おかしい、なんだこれ。
「頼む……この部屋に入ったらこの魔法陣に魔力を吸われちまうんだ……頼む、助けてくれ。ってお前話聞いてるか!?」
「それについては大丈夫大丈夫、僕は【不可視】だから」
僕は忠告を無視して部屋に入る。
男たちは泣き叫ぶような悲鳴を上げるが、僕が近づいてくるのを確認して安堵している。
敵が僕の安堵しているか……
「ねえ、手短に説明してくれる?」
僕は男たちの近くまで近寄り、腕組みをしながら見上げる。
「わ、わかった……」
男たちは直立不動で、魔法陣の中心から全く動こうとしない。
いや、手は動かしていたように見えたが下半身は動かない?
この状態でも僕は罠の可能性を考えていたが、そもそも僕一人にどれだけ用心しているんだって話だ。
4人は互いに顔を見合わせて誰が話すのかと迷ったようだったが、僕に一番近い背の高いおじさんが口を開く。
「俺たちはブーザー教団の幹部4人だったんだ。今回ボスと教団のメンバー30人くらいで潜入していた。禁呪を使ってお前たちみんな洗脳で眠らせて、俺達には防御魔法、更に外には結界で内外の交通も遮断した」
「一個足りなくない? あと君たちのボスはどこにいるの?」
おじさんは困ったように首をかしげる。
「い、いや、俺たちも知らないんだ。ボスだけが知っている。そしてボスは日付変わったあたりからいなくなっちまったんだ!」
……君たち、騙されたんだね。
つまり、禁呪の詳細を知っているのは教団のボスだけで禁呪も発動していないと。
「そしたらとりあえず禁呪を解除すればいいんじゃないの?」
「できねえんだよ! 出来たら苦労なんかねえんだよ!」
「うるさい、今は騒いでいる余裕なんてない」
そわそわしている後ろの幹部に向かって怒鳴る、名前は知らないし適当なあだ名にしておこう。背が一番高いからタカ。
そわそわしているのはユスリ。眼鏡をかけているのはキンガ。ぽっちゃりしているのをデ……いや、コブとしよう。
ユスリが怯えているようで、キンガは諦めているようで、コブは無表情だ。
「下半身がな、この魔法陣に飲み込まれるように制御が効かないんだ。解除の仕方も教えられていないしな」
タカはため息をついている。
「そこの死体や服は?」
「さっきも言ったが、この部屋にいると魔力が吸われ続けるんだ。で、魔力を吸い切られれると死ぬ。死体にも微量の魔力があるようで、時間が経てば服しか残らん」
……つまり、この本部にいる職員と僕やモカちゃんが遭遇しなかったってことは、全滅していたのか。
なるほどね、僕は完全に一つ思い違いをしていたのか。いや、でもそしたら説明がつかないところがある。
「賢人を残したのって、魔力を吸うためだったんじゃないの?」
「僕らもそう聞かされてたんだよ。でも、いざ禁呪を使ったら僕らはここで固定さ」
キンガが目をつぶりながら答える。
完全にここまでボスの言うままに何も考えずに来たわけだ。
「この魔法陣のせいかなんなのか何もわからないが、この魔法陣に人を集めるように洗脳されてんだよ」
「……それは残り一つの禁呪の効果ってこと?」
わからない、と首を横に振る。
まったく、ボスにすべて頼り切っているからこうなるんじゃないか。
「で、俺たちもお互いの魔法陣で吸われ続けていて、こいつがそろそろ限界なんだ。頼む、助けてくれ」
「…………まあ、君らもわかっているだろうしあまりとやかくは言わないけど、ずいぶんと都合がいい話だね」
パッと見ても何十人は殺している。30人くらいできたとして、4人の幹部とボス、モカちゃんを襲った2人。仲間内だけで23人か。
だからこそここまで杜撰なことになっていたのか。そもそも魔法陣のいいように魔力を集めさせられていたと。僕らをどうにかする以前に仲間内でつぶれているなんて。
「端的に要約するね。君らは工事を装ってこの本部に侵入した。そしてこの部屋で禁呪を発動して僕らを洗脳状態にしようとした。洗脳が効かない僕とモカちゃんを潰せば他に誰も抵抗できないと。でボスは戻ってこないせいで君らはこの部屋に閉じ込められて君らの仲間たちは次々と死んでいった。うん、なんか勝手に自滅してる」
「……あの糞野郎のせいだ」
ユスリが吐き捨てるように言った。
あの野郎というのはボスのことだろう。まあ使い捨てられたわけだし当たり前だ。
まあ君たちも大概だと思うけど、今は無視だ。
とりあえずモカちゃんをこの場に連れてこなかっただけ正解だった。




