第30話 無難な尋問
色々と覚悟を持って尋問しようと思ったのだが、結果的にはかなり拍子抜けする結果だった。
端的に言えば、男はあまり返答しなかったのだが、全部モカちゃんが心を読んでくれた。
彼女が後に言うには、精神操作は難しくてもプラスとマイナスの色を読み取れるらしく、それ即ちイエスかノーの質問は全て筒抜けという事だ。
下っ端だったようでそこまで情報を知らなかったというのは少し痛かった。
「一つずつ確認するよ?」
最早この男からしても自分の心が読まれているのはわかっているはずだが、縛られているせいで耳をふさぐこともできずに聞こえた端からモカちゃんが通訳していく。
「君たちはブーザー教団で、禁呪を使ってこの本部全体に洗脳をかけていると」
男は反応を示さず、モカちゃんもスルー。つまりこれは正しい。
「で、君たちは別の禁呪によって魔法を使えない代わりに洗脳を解除している」
「…………」
「そして僕とモカちゃんに刺客を送ったのは、精神操作が効かない可能性があったからと。よく僕が来ること知っていたね」
「俺は知らなかった」
これも嘘ではない。つまり、どこかからリークされていたという事か。でもどうやって?
僕がここに来ることになっていたことを知っている人間はいない。というか僕でさえ知らなかった。
となると今が4時くらいだから、この16時間前後の間に情報が洩れている。裏切り者がいる可能性があると。
「他の人たちは洗脳されて眠っている。なんで僕らだけなんだろうね」
「…………お前らの魔力がなくても足りてるんだ」
「足りてる?」
何を言っても心を読まれることで諦めたのだろう、僕の狙い通りぺらぺらと話し始めた。
……ここで推測できる。
彼の役割が時間稼ぎである可能性とそもそも全く時間稼ぎをしても間に合わないような時間がかかることをしようとしているかのどちらかだ。
僕らからしたら、一々はい、いいえで答えさせる方が時間がかかって面倒だったから助かるんだよね。
「他の賢人とその護衛の魔力だけで【皇帝】を越えられる。そう聞いていた」
「ふーん、誰がそう言ったの?」
それには無言。話すつもりはないと。
多少痛めつければ話すのかもしれないが、別に詳細を知る必要は今はない。恐らく禁呪を持っているものだろう。
「なんでここには増援が来ないの?」
「【不可視】も【支配者】も魔法が使えなければ普通の人間だと聞かされていた」
まあそうだろうね。
……僕は少し引っかかるが、モカちゃんが何も言わない時点でこれも嘘ではない。
「外に逃げ出されたどうするつもりだったの?」
「寝ているか、そこの女みたいに魔法使えないんだから問題ないだろ、普通は」
「それ嘘。なんか対策ありそう、変な色してる」
ホント精神操作って便利だ。多分これだけぺらぺら話してくれている時点で精神操作されているんだろう。
「……それも禁呪だ。結界みたいのを張っているが詳しくは知らない」
「なるほどね、上辺だけしか知らないとそんな色になるんだー、ふぅん」
禁呪ってそんなに使えるものなのか?
僕は先程何度か禁呪について聞いてみたのだが、知らないの一点張りだ。そしてモカちゃんが何も言わない時点で本当に知らないのだろう。
「禁呪を使っているのを見たことは?」
「ある」
「どんな魔法なんだい?」
「術者を中心とした床に黒い魔法陣が描かれていた。それしかわからない」
魔法陣……か。
確かにどこかの地方では魔法陣という描画魔法だっけ、そんな種類のものがあると聞いたことはある。
「……夜に運んでいたものは何?」
「見ていたのか」
「まあ、偶然ね」
「禁呪に必要なものと聞いていた。具体的には知らされていない」
「はい、嘘」
モカちゃんが口早に宣言する。
何故この男は嘘とばれるのに抵抗するのか。何か目的があるのか?
思い当たるとしたら、どこまでが嘘と判定されるのか、ぼかすとどうなるのかなど試していることか。
となると、モカちゃんの力も長い間は使えないかも
「…………それは例えば生き物だったりする?」
僕は自分の推測でざっくり想像して口にしてみた。
何故賢人たちを生かしておくのか。本来であれば彼らを生かしておく方がリスクが高い。わざわざ禁呪を最低三つも展開して放置するという事で仮定はある程度絞られる。
「な、ぜ」
「いやね、単純なことだよ。でも、それは困ったね」
「え、どういうこと?」
「正しいかはわからないけど、多分禁呪って他人の魔力を使って魔法を展開するんじゃないのかな。その魔力源に賢人を使おうとしていた、とかじゃない?」
男の表情が一瞬固まった。
僕は深く、深くため息をついてベッドに座る。ずっと立ちっぱなしで尋問していたから流石に疲れた。
禁呪がどういうものかはわからないが、それが禁呪になる理由を考えると自ずとわかるような気はする。
パッと思いついたのは、使用者が死亡とか他者からの魔力供給、魔法の効果が危険すぎるなど。使用者が死亡するパターンは全く否定できておらず、魔法展開する者に教えずに発動させている可能性はある。
実際当てずっぽうに言ってその反応という事は、当たらずも遠からずといったところか。
「はぁ……ねえ君」
「なんだ?」
「自分でその禁呪って解けるの?」
「……何故それを聞く?」
男は警戒した様子でこちらに答えるが、別に何か情報を得ようとしているわけではない。はっきり言って情報を整理したいからこの男の処遇を決めたいだけだ。
「もしも耐洗脳の禁呪を解除できるなら、それを解除して眠っていてほしい。じゃないと僕は君が気絶するまで殴らないといけないんだよ。君は無駄にダメージを負うし、僕は無駄に疲れる。これからのために体力を温存したいんだよ」
「…………」
男は何も答えない。
はぁ……僕はベッドから立ち上がる。
これからどういう選択肢をとったとしても、疲れるって言うのに。
「4人だ」
「ん?」
男は呟く。
「禁呪を使っている人数だ。1つだけ俺ら下っ端には教えてもらえなかった魔法がある」
「そんなこと教えていいの?」
男は諦めたようにため息をついた。因みに股間はいまだに丸出しだ。
「止めれるものなら止めてみろよ、【不可視】」
実は下書き段階では尋問ではなく、拷問でした。
そこまでえげつなくする予定はありませんでしたが、予想以上にゼロ君が鬼畜だったので急遽変更。かなりマイルドになっています。モカちゃんがいてくれて助かりました。




