第28話 悶絶する男達
「さて、これはどういうことだろうか」
叩き起こすべきか?
あまりにも状況が理解できない。味方だと思っていたエルザさんが僕を殺しに来る理由、思い当たる節はない。
とりあえず殺しに来たという事実は確定として、まず彼女が味方か敵かで選択肢は変わる。
味方であるならば、誰かに脅されたや洗脳されたなど。
敵であればわかりやすい……でもなんのために?
そもそも魔法を使ってこなかった時点で意味が分からない。僕に効かないと思った? それでもあんな下手くそなナイフ捌きで来るよりも余程まともだろうに。
洗脳された可能性を考えるならば、無暗に痛めつけたり拷問したりするのはよろしくない。脳震盪でも起きた結果なのか、完全に意識は失っているようだ。
しかし、これが僕単独を狙っただけであればそこまで困らないのだが、もしかして他の賢人も狙っている可能性がある。
……何か聞こえた。
モカちゃんの声だと思うが自信はない。
僕はエルザさんを放置してモカちゃんの部屋に向かう。
「……いや! やめて!」
扉は空いていた。
中からはモカちゃんの泣き叫ぶような声。そして最低でも男二人はいそうな声。
僕は慎重に中を覗く。正直廊下は明るいが部屋の中は真っ暗だ。下手にいきなり入ってしまえばあまりよくないのはわかっている。
「魔法が使えなきゃただのいい女じゃねえか、こんなのをやれるなんてついてるな」
端的に言うと、モカちゃんが襲われていた、性的な意味で、正確に言うと襲われかけている。服は完全にはだけて下着が完全に見えている。
片方が僕に背を向けてモカちゃんをベッドの上で抑えつけており、完全に彼女の身体ばかり見ているがもう一人は僕と目が合う形になっている。
流石に踏み込んでも距離があるから厳しいな……ナイフを投げても暴れているモカちゃんに当てない自信はない。
ただ、この状況で見過ごすわけにもいかない。
時間をかければ彼女が犯されるわけだ、どうするべきか。
と思っているところで、僕の方を向いている男がカチャカチャとベルトを弄り始めたあたりで突入を覚悟する。
まったく、こんな野蛮なこと、僕には似合わないのに。
余程目の前の美女に気を取られているのか、ズボンを脱ぐことに集中している男は僕の接近に気が付かない。
「ん?」
それよりも抑えつけている男は急に背後から照り付けていた明かりが陰になったことで一瞬早く気が付いた。
が、もう遅い。
「ぁ……」
僕は全力で容赦なく殺す気で背を向けている男の股間を下から蹴り上げる。
正直自分でやっておいて悶絶しそうになる。それだけ男にとって恐ろしい技だ。
声すら出ない。ただ悶絶して抑えつけていたモカちゃんのほうに上から倒れこむ。ベッドの上、男の下で蛙が潰れたような声が聞こえたような気もしたけど今は気にする余裕はない。
「きさ」
貴様、とか言いたかったのかもしれない。
勿論僕は容赦しない。丸出し股間を狙って水筒を投げつける。この距離であれば外すことなく直撃し、苦悶の表情で首を垂れたところに顔面を狙って蹴り飛ばす。
ここまで流れる一連の動きは洗練されていたからか、僕は全くの反撃を許すことなく二人を鎮圧する。とりあえず男には股間だよね。
「……ふう、大丈夫?」
急所へのダメージで気絶している一人目の男の首根っこを掴んでモカちゃんから引きはがしてベッドに転がす。
モカちゃんは黒いセクシーな下着を身につけていたようだが、ブラは完全に脱がされていて手で隠している。流石にまじまじと見るわけにもいかないから掛け布団を渡しておく。
「こ、怖かったよぉ!!!」
え、ちょ。
せめて身体隠してから僕に抱き着いてくれないかな!
流石に女性らしい身体をしてるから僕も結構困るんだけど!
とはいえ、本気に泣き出してしまった彼女を無下にもできず、泣き止むまで僕は自分の理性と格闘することにする。
羊が1匹、羊が2匹……いかん、これでは寝てしまう。
僕は腰に巻き付かれた状態のまま、男たちを観察する。
見事なまでに急所への打撃で気絶しているが、流石に時間が経つと意識が戻りそうだ。男性としての役目を潰していないか心配だが、そもそも強姦しようとした彼らが悪い。
……昨日見た作業員の服装に似ている。もしかして、工事というのは偽造?どこかから侵入してきたということか。
それにしてはエルザさんとは服装が違うのは謎だな。
何故彼女は仮面をつけていたのか。洗脳にしてもよくわからない。
「ごめんね、モカちゃん。そろそろ裸で抱き着かれても困ってるから離れてもらってもいい?」
そこで自分が半裸……パンツ一枚のほぼ全裸であることに気が付いたようで、顔を真っ赤にして布団に包まる。
「ごごごごごめん!!」
いや、別に謝られることでもないけど。女性らしい感触を味わえた分だけ僕が感謝するべきなのか?
「いや、ありがとう?」
「み、見た?」
「一応暗かったということで」
僕はとりあえず扉を閉める。流石に騒ぎすぎたから増援が来ていたら詰みだ。
ただ、泣いている間に察していたけどこれだけ大きな音を立てても新たな敵がくることはないようだ。
モカちゃんは僕が二人を縛り付けている間に着替えたみたいで、流石にドレスではなく動きやすそうなズボン姿だ。
「モカちゃん、状況を教えてほしい」
「うん……」
正直他の賢人も心配ではあるが、これ以上状況を昏迷にさせた状態で風呂敷を広げられない。
「状況も何も……これ禁呪でしょ?」
「え?禁呪?」
モカちゃんが僕の方に寄りかかってくる。
いや、そんな場合では、と言おうと思ったが、彼女の様子が少しおかしい。
体調が非常に悪いように、顔をしかめたまま身体を僕に預けている。
……そうだ。そもそもなんで彼女が男たちにされるがままだったのか。
精神操作でいくらでも対応できるはずなんだから。
「そっか、完全に抵抗出来てたんだ」
モカちゃんは苦しそうに笑う。
「今ねー、多分この建物全部に洗脳魔法がずぅっとかけられ続けてるよ」




