第26話 師匠の話
「モカちゃんの服装ってどことなくレイナさんのに似てるよね」
ドレスの形というか、色とか。
別に大した意味があったわけではないけれど、何となく彼女にそう言ってみた。
モカちゃんの雰囲気を考えるにそれが地雷原になるとも考えにくかった。
彼女はよくぞ聞いてくれました、とでもいうように満面の笑みを浮かべる。
「そうなの! 【皇帝】みたいになりたいから真似というか一緒にしてるの! だってすっごくかっこよくない! モカあんな風になりたいもん!」
急に、いきなり早口で語り始めてきた。
いかにレイナさんがかっこいいか、美人か、スマートか、最強か、正直一番近くにいる僕は大体知っているが彼女も相当のレイナさんファンだ。
「だからその弟子のゼロ君とも仲良くなりたかったの!」
もしかして、僕に絡んできたのって単純に【皇帝】の弟子だからってことか。
「……なるほどね、因みにレイナさんと話したことないよね」
「なんでわかるの?」
「あの人は自分の二つ名が嫌いだからね。もしも仲良くなりたかったらレイナさんって呼ぶといいと思うけど」
じゃあレイナ様って呼ぶ!と意気揚々とニコニコするモカちゃん。
これだけ見たら全然賢人っぽくないのに。
「昔、モカあの人に命助けてもらったの! だからぜえぇぇったいにレイナ様についていくって決めていたの! だから頑張って賢人になったもん!」
すごい、この子。
僕は純粋にそう思ってしまった。そして、その純粋さが少し眩しかった。
「そしたらレイナさん来られなかったの残念だったね」
「それもそうだけど、ゼロ君も気になってたから」
「そういうとたまに人を勘違いさせそうだから気を付けてね」
モカちゃんは確信犯のように笑っている。それもそうか。
彼女からしたら勘違いされてもすぐに相手の思考を読めるから問題ないのだ。
「ゼロ君はレイナさんと雰囲気は全然違うよね」
「いや、あの実力があるからあんな性格でも許されるけど、流石に僕如きじゃ無理だよ」
レイナさん門下全員あんなんだったら多分世界が滅んでいる。
「多分レイナさんと対峙した人の心を読むとかなりヘイトはたまりそうだよね」
「うーん、まあそうだね。ただ恐れている人の方が多いからね」
恐ろしいのかな。
普段のあの人の自堕落な生活を見ているとあまりそんなイメージはない。
「いいなーいいなー! モカだって弟子になりたかったのにぃ」
「幻滅するからやめた方がいいと思いよ。あの人怠惰だから」
「そんなレイナ様も素敵じゃない? 普段は色々頑張ってるわけだし!」
……頑張っている?
もしかして、僕がいないときは意外と真面目に働いているのだろうか。
あとこの子は痘痕も靨で何を言っても彼女のことを褒めるのだろう。別にそういうのもいいけれど、僕はそこまで彼女を妄信しているわけではない。
そこからはレイナさんの話が盛り上がり、主にモカちゃんが話し続けて楽しい夕食は終わった。
夕食が終わるタイミングを見計らっていたのか、エルザさんがレストランの外で待機しており、本部内を案内してくれることとなった。
賢人たちと護衛が休む場所、そして会議室などが連なっている部分、その他の職員の職場など主に三つに分かれているだろうか。
はっきり言ってこの本部がどういう役割かもわかっていない僕からしたら、案内されても知見としては全く変わらず、唯一の成果は僕が休む場所と会議室までの道のり、更に帰り道がわかったくらいだろうか。
「大まかにですが、このような感じでしょうか。質問はありますか」
「ないです」
僕は即答する。
実は僕は一つ忘れものをしていたから取りに行きたかったのだ。単純に馬車に僕の着替えなど入れたリュックを忘れていた。
水筒は僕の精神的安定のために常に持っているが、流石に他のものも欲しいところだ。
「私は近くの部屋にいますので、明日も迎えに行きますね」
宿舎は四階建てになっており、上の方に賢人たち、下に護衛だ。恐らくこれは護衛のしやすさからだろうか。一か所にまとめているほうがそもそもの本部の警備人数を減らすことができるし、何かあった時にすぐに他の護衛が集まれる。
なるほどね、考えられている。
流石に世界最高峰の四人がいるわけだしね。
僕も上の階に配置されていて、一応モカちゃんと同じ階層だ。男女で分かれていない辺り賢人というのは性別の枠を超えているのかもしれない。
「お、あったあった」
馬車まで戻った僕は、自分の荷物が盗まれていないことを少しだけ安心する。別になくなって困るものでもないのだが、ないならないで悲しい。
……あれは?
何やら深夜に近づいている時間だったが、作業員たちが何かを運び込んでいるようだ。
工事でもするんだろうが、これからやるのだろうか。
臨時で開かれた会議だから元から工事の予定でもあったのだろう。多分そのせいで深夜にずらして何かをやる羽目になったのだ、可哀想に。
僕は軽く会釈をしてから部屋に戻ることにした。




