第25話 知らない罠
「ねえねえ、【不可視】君」
【支配者】が僕に話しかけてきたのは、今日の会議が終わりと告げられ解散した時だ。
まさかの明日まで持ち越しになったという事で僕の泊りは確定していた。
「【支配者】とそのお隣にいたイケメンさんですか。どうしました?」
多分年上なので多少適当に敬語で話す。
「暇だったら一緒に夜ご飯食べない? エルザちゃんも来るー?」
ちらっと僕の方を見る。
一応僕の護衛の為に来ているから、ついてくるつもりなんだろうけれどどうなんだろうか。別にいてもいいとは思うけど、わざわざ彼女が僕に声をかけてきているということはエルザさんがいない方がいいのかな。
「ふーん、そっか。じゃあ食べに行こ」
一秒もない無言の状態で【支配者】は諦めたようだが、その間エルザさんが何かモーションを起こしているわけではない。
「そういえばモカはこの二つ名嫌いだから名前で呼んでもらいたいー!」
「四大賢人の一人【支配者】モカ、年齢は二十歳です」
隣にいるイケメンが静かに捕捉する。
ふむ、やはり僕よりも少し年上だったのか。レイナさんやエルザさんがスタイル抜群だからかもしれないが、彼女のスタイルは普通に見えてしまう。
とはいえ、セリカちゃんやアヤメちゃんと比べると十分に発達している。
「僕はゼロ、僕も二つ名嫌いだから名前で呼んでほしいね。モカちゃん」
なんて呼ぼうか考えていると、その雰囲気に流されて口調が雑になってしまった。
が、別にモカちゃんは気にしていない様子。
「ゼロ君の方が年下な気もするけど、まあいっか。で、こっちがアル。モカの護衛ね」
ペコリと頭を下げる。
この人はあまり話さないスタンスの人なんだろうか?
そしてアル君は僕らに背を向けてすたすたと歩いていく。あれ、三人でご飯じゃなかったの? というかさっきのお辞儀って席を外すから頭下げた感じだろうか?
「あれ。彼はいいの?」
「うん、元からモカ、ゼロ君と二人で食べに行こうと思ってたし」
まあいいか。
僕とモカちゃんは二人で並びながら本部内にあるレストランに向かった。
道中モカちゃんは楽しそうにいろんな雑談をしてくるのだが、大半が人間社会の話のようで僕は適当に相槌を打っている。
おしゃべりではあるが、何か僕やレイナさんについて質問するわけでもないところを見ると、単純に会話好きなだけだろうか。
レストランは客がいないわけではないのだが、かなりまばらだ。
明らかに高給そうなレストランであり、僕がお金を払えるか心配になってくる。
「モカちゃんのドレス、似合ってるね」
向かい合って座り、とりあえず褒めてみた。
彼女の美貌からしたらそんなお世辞なんて聞き飽きているんだろうが、礼儀的なものだろう。女性は褒める、これに尽きる。
「ありがとー、ゼロ君は心が読めないからお世辞か本心かわからないけどね」
「…………?」
今、さらっとえげつないことを言ってきたような気がする。
僕はそこで先程のエルザさんやアル君への対応が理解できた。
「ゼロ君、もしかしてモカのこと知らなかった?」
「……まあ、うん。ごめんね」
四大賢人を把握していない世界最強の弟子がいるらしい。
流石に申し訳なくなっていたけれど、モカちゃんは嬉しそうに笑う。
「じゃあ改めまして自己紹介するね。私はモカ。二つ名は【支配者】で、精神系に特化しているの。大体の人の精神読影と操作はできるよー」
簡単に言っているけど、心の中を読めて操作できるって最早洗脳じゃないのか?
「今までモカの魔法を全く受けてつけてないのは二人だけ」
なるほどね、僕とレイナさんか。
そこで一つ合点がいくところがあった。モカちゃんからしたら僕が天敵なのだ。精神系魔法をすべて無効化するのだから、この子は僕の前ではただの美少女に過ぎない。
だから取り込もうとしたのかな。
「ゼロ君ってどうやってレジストしてるの? あ、やっぱりなし」
モカちゃんは慌てて取り繕うように言った。
多分、彼女からしたら質問すればその回答を読み取れるから相手は答える必要はないのだ。僕に聞きたいことは僕が口を開けて話さなくてはならない。
「ところで、ほんとさっきは面白かったねー」
「なんのこと?」
いきなり話題が飛ぶから何のことを言っているのかわからない。多分この子当たり前のように周りの思考を読んできているから、他の人に合わせるのが苦手なんじゃないだろうか。
僕の質問返しに、彼女はサイドテールを揺らしながら首を傾げる。
「だってあの椅子に座らなかったのってわざとでしょ?」
椅子?
「もう、とぼけちゃってー。いつもなら【皇帝】が座る席に、今日その弟子が来るって聞いた【猛吹雪】が実力を見たいから凍結魔法組み込んでたんだよ? あれ看破するなんてびっくりしちゃった。モカからしたら全然わかんなかったんだけどねー」
…………待って、あの椅子普通に座ってたら僕死んでた?
モカちゃんはさも当たり前のように言っているけれど、僕は今更ながら少し冷や汗が出た。
僕が偶然傍観者だから立ってようって思ったから命拾いした?
「モカ的にはあの【猛吹雪】の鼻を折れたから良かったんだけどね」
「べ、別に鼻を折るつもりはなかったんだけどね」
震え声にならないように努めて静かに声を発する。
多分向こうからしたらいきなり【不可視】が来るという事で、警戒はしていたんだろう。全て取り越し苦労なのに。
無力の僕が凍結魔法なんて食らったら多分死ぬと思う。
「それに折角モカが仕込んだ精神操作の魔法もあっさり弾かれちゃうし、やっぱり二つ名は伊達じゃなかったってことだね」
……あのアル君が出してくれていた椅子にも仕込まれていたらしい。
どうやらこの四大賢人というのはまともな常識で測ってはいけないようだ。最早出される飲み物とかに仕込まれているんじゃないかとか思えてきた。
料理が運ばれてきたが、これは美味しそう美味しくなさそうではなく高そうという感想がすぐに浮かんできた。
「そういえば僕そんなにお金持ってないんだけど大丈夫だろうか」
「大丈夫じゃない? モカお金払ったことないよー」
賢人はお金払わなくていいようだ。恐らく全て免除になっているのだろうが、僕はどういう扱いになっているのか。
味なんてそこまで変わらないのに、なんでこんなに高そうなんだろう。そもそも素材がすごいものなんだろうか。




