第24話 終わらない缶詰
「ねえねえ【不可視】君。あなたのことあんまり知らないから、簡単でいいから自己紹介できない?」
なんて言われてもなぁ。
僕は椅子に座った状態だったが、少しだけ姿勢を正して正面を向くが配置上誰もいない。
「【不可視】です。普段は【皇帝】の下で弟子をしています。今日はただの傍観者なのでお気になさらずに」
「私は【支配者】って呼ばれてるよ、よろしくね」
【支配者】。聞いたことのない二つ名だけれど、【皇帝】と系統は同じかな。そう考えるとこの人が来ているドレスもレイナさんに似ているかもしれない。
二つ名は大体由来があるから恐らく間違ってはいない考察だ。
次々と一言ずつの挨拶があるが、座らないか聞いてきた男性が【粉砕者】、70歳超えて居そうな老人が【要塞】と名乗った。
戦うことは想定しないけど、二つ名からは攻撃系魔法と防御系魔法特化と言った感じか。
……となると【支配者】は精神系だろうか。
「この度お集まり頂いたのは前回の定例会の時にお話しした、禁呪が記された魔導書の行方がわかりましたのでこうして緊急でお集まりいただきました」
うん、僕は知らない。
エルザさんが司会的な役割だから恐らく僕にもわかるように教えてくれたのだろうが、別に関係ないしいいか。
禁呪とは普通の魔法とは違って、誰でもが使えるわけでもなく何かを犠牲にしなければならない特殊な魔法。効果は絶大で、恐らくレイナさんでも使えないような威力を持っているがそもそも犠牲にするものが寿命だったり、命だったりと使用されてはならないものだ。
厳重に保管されているはずなのだが、それが何者かに盗まれたようだ。
「どこじゃ、まさか魔王軍とは言うまい?」
【要塞】が重々しく聞く。
仮に魔王軍に奪われたとなると、停戦協定は破られて戦争が起こることを意味している。
「いえ、違います。北方に拠点を構えているブーザー教団の手にあることがわかりました」
ざわ、と空気がまた変わる。この会議室はころころ空気が重くなったり重くなったりするな。
残念ながら僕にはわからない。ただ教団ってことは何らかの集まりなんだろうけれど、この反応からするとあまりよろしいものではないようだ。
「その北方担当の【猛吹雪】様はどうお考えですか?」
【粉砕者】が棘のある言い方をする。
ここまでの会話で、高齢者二人と他二人で少し溝があるのかもしれない。とりあえず僕は今のうちにこの四大賢人を把握していかなければ。
「あそこに盗むだけの実力はない。介在しているものがいるのでしょう」
「まず確かな情報なの?」
「はい、信頼できる筋です。教団内で魔導書と類似した書物を見たとのことです」
エルザさんが淀みなく話す。
僕から聞いてもその自信の持ち方からしたら間違っているとは思わない。
「……教団を潰すか?」
【粉砕者】は指の骨をぽきぽきと鳴らす。関節太くなりそう。
「確実性がなければ我々を正当化するのは難しいのぅ。潰してありませんでしたでは話になるまい」
【要塞】は慎重そうに顎鬚を撫でる。髪の毛がないから顎鬚を触るのかな、知らないけど。
「うちの子誰か潜らせる?」
【支配者】はあっけらかんとした表情で上に背伸びする様にストレッチをしている。レイナさんと同じ肩も出しているドレスだから脇を見せる。
「【不可視】君はどう思う?」
なんかいきなり僕に話が回ってきた。
別に何をどう思うんだろうか。
……これは返答次第で味方が変わるやつだ。積極策で行けば【粉砕者】と【支配者】が味方になるし、消極的で行けば【要塞】と同チームだ。
「とりあえず【皇帝】にお願いするのが一番かと思いますが。あの人だったらどうにかできるでしょうし」
僕からしたら全てレイナさんにお任せすれば解決できると思うから、ここで悩んでいるくらいならすぐにでもあの人に連絡したほうがいいと思う。
「……あの女に頼るだと?」
お、【粉砕者】が露骨に嫌そうな顔をしている。
「確かにそれがいいかもー。私たちだけじゃ限界もあるし」
「今いない者に言っても意味はないでしょう。我々は四大賢人よ、あの女にすぐ頼るのはやめなさい」
四人の反応を見るに、レイナさんへの評価は分かれている。
実力を皆認めているのは当たり前だが、紫サイドテール少女は好意的に見ているようだ。中年銀髪オールバック、そして高齢白髪女性は嫌悪感を隠していない。
高齢スキンヘッド顎鬚は静観と言ったところか。
「えー、だってここで一番強い【猛吹雪】よりは強いんだから【皇帝】に任せればいいのに」
お道化た様子だが、嫌味で牽制する【支配者】。この年齢で二つ名持ち、四大賢人というのはやはり普通の精神では成り立たないようだ。
同じ四大賢人に喧嘩を売れるというのはすごすぎる。
「……もう少しあなたは精神的に成長することが必要ね」
「そう? お年寄りがずぅっとのさばっているよりも、【不可視】君に四大賢人変わってもいいんじゃないの?」
同じ女性として大変二人は仲が宜しくないようだ。
エルザさんは困ったように二人を見ているし、残りの男性陣は無言を貫くようだ。
「…………話を進めませんか」
僕が早く帰りたいんで、とは言わない。言ったらまた誰か彼かから文句を言われそうだ。
ため息をつきたい衝動に駆られる。
援護射撃してください、とでもいうように僕は先に【粉砕者】に視線を送る。
やれやれ、と言った感じで苦笑いしている。
「彼の言うとおりだ。そちらの話はこの件が終わってからにすればよかろう。【不可視】についても存在が確認されたわけだしな」
やや引っかかる言い方をする。
もしかして、僕の存在をそもそも疑われていたのだろうか。
僕はあくまでも今日だけの付き合いなんで気にしないでください。
それから僕にとってはただの他人事の会議が続く。
僕からしたら別に禁呪だろうがブーザー教団なんてどうでもいいんだけれど。
夕方から始まった会議が一段落したのは完全に日が落ちてからだった。
大事なことだからもう一度言おう。『一段落』したのは……だ。
そこで察した。
僕、これ他の四人の会議が終わるまで缶詰?




