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第22話 気乗りしない道中

「あ、僕はゼロって言います。とりあえず馬車に乗ればいいんですかね?」


 彼女は馬車の扉を開けて僕の乗車をアシストしてくれるが、執事やメイドのような洗練された動きだ。彼女は慣れているようだ。


「どうぞ」


 少しむず痒い感じがありながら、僕は乗車する。

 エルザさんは僕の向かいに座るように乗り込み、馬車はゆっくりと進み始めた。


「凡そ3時間ほどで王都に到着します」


 僕が知っている限り、王都まではこのスピードでは半日くらいかかるはずだ。と思っていたら、外の景色が陸路ではないことに気が付く。

 魔法によって馬車は浮遊しており、翼の生えた馬ペガサスが空を駆けている。


「あの、僕の顔に何かついてますか?」


「失礼いたしました。随分お若い方なのだと思いまして」


 随分こちらを盗み見ていると思ったら、そういうことか。

 確かにまだ20歳にもなっていない若造が、二つ名持ちだもんね。


「レイナ様も十分にお若いので【不可視】様を疑っているわけではありませんよ」


「大丈夫ですよ、僕の二つ名なんてレイナさんが勝手につけさせたようなもので、僕はそんな大層なものではないんで」


 大体ここで言われるのは、魔力の探知ができないのがすごいといういつものパターンだ。

 ただ、彼女は少し違うことを口にする。



「その年齢でそこまで成熟した精神をお持ちなので、余程レイナ様に鍛えられたのかと思います。ご愁傷様です」


「……そうですね、たくさん苛められましたから」


 くすり、とエルザさんは大人の微笑みを見せる。その反応を見ても多分、彼女も迷惑を日々かけられているのだろうとわかる。

 それでも苦労を伺わせないその所作に感心させられる。


「で、僕は誰に会えばいいんでしょう? あまり詳細を知らされていないので教えて頂けると嬉しいです」




「レイナ様の代理で、魔導評議会の臨時招集会議に参加して頂くことになっております」


 魔導評議会。

 この世界で最強中の最強と言われている者たちが、世界の安定化や生活の向上を図るために定期的に集まり情報交換、指導、業務を行う機関だ。

 今は世界最強のレイナさんをはじめとして、四大賢人と呼ばれる人たちの合計5人によって構成されている。って前にレイナさんが言っていたような気がする。


 【二つ名】制度、魔王軍との領土や停戦交渉、禁呪の保管など魔導評議会のおかげで無駄な諍いが減っていると言っても過言ではない。

 特に今はほぼ話題に上がることのない魔王軍との停戦交渉は過去の魔導評議会が非常に尽力しているようで、僕らが平和に過ごすことができるのも彼ら彼女らのおかげだ。


「……マジですか」


「ふふ、マジです」


 正直予想の範疇を超えていないと言えば嘘になるが、無力の僕に何をさせたいんだか。特にレイナさんと四大賢人は非常に仲が悪いという事は彼女自身の口からきいている。

 弟子の僕が言っても空気感が最悪なのは当たり前だ。


 流石に馬車に乗ってからだから今から帰りますともいえない。一旦引き受けてしまっているし仕方ない。それに、僕は世間から隔絶されているから魔導評議会というものがどういったものかそこまでわかっていない。


「私が【不可視】様の護衛として付き添いますので、宜しくお願いします」


「護衛が必要なんですか?」


「いえ、一応ですよ。【不可視】様が完全魔力遮断とは言え、他の賢人から精神攻撃を受けないとも限りませんし」


 なんで僕が世界で5本の指に入る二つ名たちから精神攻撃受けるかもしれないんだよ!

 おかしいだろ!


 ……いや、違う。僕が絶対に精神攻撃を受けないのを知っているからこそレイナさんは送り込んでいるんだ、滅茶苦茶迷惑な。


「これでも私もレイナ様や【不可視】様ほどではありませんが、精神攻撃には耐性がありますので」


「……お願いします。あと僕を二つ名で呼ばないでいただけると嬉しいです。ゼロって呼び捨てでいいですよ」


「レイナ様と同じようなことをおっしゃるのですね。流石はあの方の弟子と言ったところでしょうか」


 感心したように言ってくるけど、単純に僕は二つ名と実力があってないだけです。

 レイナさんはなんでなんだろうか、自分の名前が好きなんだろうか。


「エルザさんは普段レイナさんと交友があるんですか?」


「まあ、そうですね。弟子とまでは言いませんが小間使いで色々動いてます」


 年も30歳前後でレイナさんにこき使われているということはかなり優秀だ。あの人は僕以外に対して人を見る目はあるから、間違った評価ではないはずだ。


「だからゼロ様、貴方のお話はかねがね聞いていますよ」


「やっぱりぼろくそに言ってますか? 僕普段から苛められまくってますし」


 彼女はきょとんとしたような顔を一瞬浮かべ、今までの真顔が崩れて噴き出したように笑った。僕からしたら、なんでそんなに笑っているのか理解できない。



「失礼しました。いえ、すみません」


親の心子知らずと言ったところでしょうか、と呟くのが聞こえる。


「家では僕の方が保護者みたいなところあるんですけれどね」


「ふふ、そうでしょうね。レイナ様は破天荒でいらっしゃいますし」


「うちの師匠が日々迷惑をおかけしております」


 一応エルザさんに頭を下げておく。この人にも迷惑被っていることがわかってしまい、居た堪れない気持ちになった。


 少し話し疲れたから、僕は紅茶を水筒から取り出して飲むことにする。


「あ、エルザさんも飲みますか?」


 僕の一連の動きを興味深そうに見ていたから、飲みたいのかと思って一応声をかけてみる。カップも予備のを持っているし間接キスにもならないはずだ。


「ありがとうございます、これは?」


「なんか世界樹の葉で淹れた紅茶らしいですよ。実は僕も最近知ったのですが」


「そのようなことがあるんですね……あら」


 なんて反応すればいいか困ったように笑いながら僕からカップを受け取り、紅茶を口に含むと彼女は驚いたように目を丸くした。

 

「……とても美味しいですわね」


 驚いたのも一瞬で、固い真顔に戻って褒めてくれる。うん、この人も紅茶の味がわかる人だ。わかる人に悪い人間はいないから仲良くできそうだ。



「ゼロ様、まだ暫く時間がかかりますし少しお休みになられては? 魔導評議会での会議は恐らく疲労がたまると思いますので」


 なるほど、それもそうか。僕を除く二つ名持ちは強大な力を持つ分変人が多いと聞く。しっかり英気を養って会議に臨まなくては。


「近くなったら声かけてください」


 僕は上着を頭からかぶって目を閉じた。


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